ポロ・ド・パリの静寂と熱狂|ボナムス「The Paris Sale」が示したクラシックカー市場の現在地

2026年1月30日、パリ。レトロモビル・ウィークの熱狂が街を包む中、ボナムス(Bonhams|Cars)は新たな歴史の1ページを刻んだ。例年のグラン・パレから、ブーローニュの森に位置する「ポロ・ド・パリ」へと舞台を移して開催された「The Paris Sale」である。

【画像】ポロ・ド・パリという歴史ある舞台装置と、そこで目覚めたクラシックカーの「眠れる美女たち」(写真38点)

1892年設立、1900年のパリオリンピック会場にもなった世界最古のポロクラブという格式高い空間は、展示された80台のコレクターカーにふさわしい静謐と品格を与えていた。結果、総落札額は約900万ユーロ(約18億円)、落札率85%という、新会場での門出を祝う成功を収めたのである。

聖域から目覚めた「眠れる美女たち」

今回のオークションにおいて、世界中のコレクターが固唾を呑んで見守ったのが「Les Belles Endormies(眠れる美女たち)」と銘打たれたコレクションだ。スイスのガレージで数十年もの間、深い眠りについていた11台の車両群である。これらはピエール・ストリナーティ氏が1950年代から収集したもので、すべてリザーブなしで出品された。

中でも白眉は、わずか18台しか製造されなかったVanvoorenボディの1934年式メルセデス・ベンツ 500K クーペだ。86万2,500ユーロ(約1億7,250万円)で落札されたこの個体は、戦前のコーチビルド文化の豊かさを現代に伝えている。また、アンリ・シャプロンの架装による1938年式ドラージュ D8-120 カブリオレは、予想を大幅に上回る46万ユーロ(約9,200万円)で新オーナーのもとへ渡った。

特筆すべきは、1956年式メルセデス・ベンツ 190 SL ロードスターの結果である。見積もりの3倍にあたる27万6,000ユーロ(約5,520万円)というプライスは、このモデルの世界記録に肉薄するものだ。これは、「レストア済み」よりも「未再生のオリジナルコンディション」に価値を見出す、近年の市場トレンドを如実に物語っている。

揺るぎない王道と現代への架け橋

オークション全体のトップロットとなったのは、やはり王道、1955年式メルセデス・ベンツ 300 SL ガルウィングであった。129万9,500ユーロ(約2億5,990万円)で落札されたこの個体は、シャシー、ボディ、エンジンがすべて合致するマッチングナンバー車であり、長年パリのオーナーのもとで慈しまれてきた一台だ。

一方で、現代のスーパーカーへの需要も底堅い。2022年式フォード GT カーボンシリーズ クーペが59万8,000ユーロ(約1億1,960万円)を記録したほか、1993年式ポルシェ 911 ターボ 3.6(タイプ964)が38万5,250ユーロ(約7,705万円)で落札され、ネオクラシックからモダン・ハイパフォーマンスカーへの投資意欲が依然として高いことを示した。

市場が示した「本物」への渇望

今回の「The Paris Sale」が示したのは、クラシックカー市場の健全さと、審美眼の深化である。30カ国以上から集まった入札者たちが競り合ったのは、単なるスペックやブランドではない。来歴(プロヴェナンス)が確かであり、その車が過ごしてきた「時間」が刻まれた個体——すなわち「本物」であった。

ポロ・ド・パリという歴史ある舞台装置と、そこで目覚めた「眠れる美女たち」。この極上の組み合わせは、2026年のオークション・シーンが、物語とオリジナリティを重んじる方向へさらにシフトしていくことを予感させる幕開けとなった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI