2021年に尾道海技大学校の地区校を誘致し、航海科を開講して以来、次世代船員養成に注力している「ふなどころ阿南まちづくり協議会」。この1月より第5回六級海技士(航海)短期養成科が開講されることに伴い、27日に阿南市商工業振興センターで開講式が執り行われた。本開講式には「尾道海技大学院 尾道海技大学校」会長の宗重好夫氏らが出席。10名の入学者に向けてお祝いの言葉を送った。
次世代船員育成の拠点「徳島阿南校」開校の背景
国内の貨物輸送の約4割、産業基礎物資の輸送の約8割を担い、国民生活や経済活動を支える重要なインフラである内航海運。日本の海運業を支える船舶の運航に必要不可欠なのが、海技士資格を持つ船員だ。
しかし、内航船員の高齢化が進み、生産年齢人口の減少も見込まれることから船員の確保や働き方改革を通じた定着が課題となっており、業界では次世代を担う人材の育成が急務となっている。
昭和24年に創設され、内閣府認可の一般財団法人として活動している海事教育機関「尾道海技学院」は、尾道海技大学校の地区校として2021年2月に徳島・阿南校を開校。船舶職員の養成のため、各種講習会を同地で開催している。
徳島県内には以前水産系高校が存在したが、統廃合のため2009年に閉校。徳島・阿南では、市内の内航海運業者や金融機関、商工団体などで構成された「ふなどころ阿南まちづくり協議会」を2017年4月に設立し、船員養成の学校誘致に向けた活動を展開してきたという。
尾道海技大学校会長の宗重好夫氏は本開講式の式辞で、「海洋国・日本の基幹産業である海上物流を担う船員の道を選ばれ、こうして開講式にお迎えできました入学者の皆さんを心から歓迎いたします」と、挨拶した。
「第5回六級海技士(航海)短期養成科」の入学者は年齢も前歴もさまざま。年齢差は25歳で、すでに社会経験を積んだ社会人や40代から資格取得を目指す人なども多く、北は千葉から南は広島まで、全国から10名の入学者が集結した。
「内航船の業界は学歴社会から学習歴社会へ大きく変わりつつあります。さまざまな素晴らしい個性に溢れた皆さんに共通するものは、信頼される船員になりたいという強い思いです。その目標に向けた第一歩が本日から始まります。皆さん一人ひとりが日本の基幹産業の担い手として必要な人材であることを心に留め、船員として学習歴・実務歴を積み上げていただければと切に願っております。私ども教職員一同、ここに集まった10名が海のスペシャリストへと成長していけるよう、いっそうの精進に努める決意です」(宗重氏)
座学と社船実習で即戦力となる船員を養成
続いて登壇した国土交通省四国運輸局 徳島運輸支局 支局長・森睦義氏は、「さまざまな業界で人手不足が叫ばれていますが、船員も例外ではありません。そんな中、船員という職業を選んでいただき、本当に嬉しく思います。今回の5ヶ月間にわたる講習で海技士資格を取得され、船員として海事産業界のために力を発揮されることを大いに期待しております」と、来賓挨拶を行なった。
六級海技士(航海)第一種養成 短期養成科は社会人をはじめ、高等学校を卒業した方や同等の能力を有する18歳以上を対象にしたコース。授業は座学と社船実習(民間の商船)を効果的に組み合わせ、海運業界が求める専門技術や即戦力化に対応した「民間完結型の六級海技士(航海)養成制度」を導入して行われる。
座学2.5ヶ月と社船実習船2ヶ月を修了すれば、本科と海技免許講習の修了証明書が交付され、認定申請をして「甲板部航海当直部員」資格を取得。卒業後、6ヶ月間(有給休暇を除く)甲板員としての乗船勤務を経て、国家試験 (身体検査)に合格することで六級海技士免状(航海)が取得できる。
また、本開講式で徳島県阿南市市長の岩佐義弘氏は、全国有数の内航海運事業者が集積する“ふなどころ阿南”として産学官金が連携しながら、内航海運業の振興に取り組んでいることを紹介した。
「本日入校されました皆様の多くが県外からお越しと聞いております。ようこそ、阿南市へお越しくださいました。学びの場としてはもちろん、さまざまな阿南市の魅力もたくさん感じていただけたら幸いです。今後も本市は、ふなどころ阿南まちづくり協議会の皆様方との連携をいっそう深め、関係機関と力を合わせながら、内航海運業の振興と人材育成に向けた取り組みが着実に進むよう、努めてまいります」
就職率9割超、AI時代も安定の給与待遇
民間6級海技士短期養成は現在、尾道海技大学校と徳島阿南校を擁する尾道海技学院と、九州・関西・沖縄に拠点を持つ日本海洋資格センター(JML)で展開されている。
航海科の座学は航海学、運輸学、海事法規の3科目。短期間で資格取得を目指す短縮カリキュラムだが、実習を積極的に取り入れていることが同校の特徴らしく、20トンクラスの船の操船やロープワークなどの実習も行われるそうだ。
「海技士試験は2月・4月・7月・10月の全国共通の定期試験に加え、尾道海技学院では6月・9月・11月に臨時試験を行なっており、本校ではその日程に合わせて船舶職員の養成のための各種講習会を実施しています。今回の入校者は4月の国家試験を受ける段取りで授業が進められます」(宗重氏)
未経験から船員への就職フォローや奨学金制度も充実しており、養成課程の講習が始まって1ヶ月ほどのタイミングで、就職先が決まっていない受講生向けの就職セミナーも開催される。2.5ヶ月間の座学の受講後、そこでマッチングした企業・団体の船での60日の社船実習を経て内定が出され、修了試験後に本採用となる(すでに就職先が決まっている受講生は自社の船に乗船しての社船実習)。前回、尾道海技大学校で行われた就職セミナーでは、機関科3名に対して32社の求人があったそうだ。卒業後の船舶関連企業への就職決定者は9割を超え(2016年度実績95%)と、まさに引く手あまたと言える状況のようだ。
「今回、陸上職を退職してストレートで入学した受講生は6名ほど。就職セミナーでは阿南市の船社も多く参加される予定です。ある程度、社会経験を積んでいる入学者が多いので、まずは少しでもスムーズに新しい環境へ慣れていただければ。あとは焦らず、着実に勉強していただき、前へ前へと進んでもらいたいと思っています」(宗重氏)
なお、内航船員の平均月収は52万円、賞与は78万円(2021年の船員労働統計)と、10代でも月収30万円以上が可能。2週間~1ヵ月以上の休みが一般的な船乗りの世界では、長期休暇中も給料が支払われる上、乗船中の食費や電気代などの生活費は会社負担のため、貯蓄などの資産形成もしやすい。
社会経験を積んだからこそ、こうした海技士の働き方や待遇に魅力を感じる人は、いま決して少なくないのかもしれない。






