日本財団は、少子高齢化による船員不足、ヒューマンエラーによる事故の減少等を目指して、2020年2月より、無人運航船の実現と人や物資の安定的な輸送を目指すプロジェクト「MEGURI2040」を推進している。
プロジェクトに参画する実証船4隻のうち、自動運航船として唯一新造された定期内航コンテナ船「げんぶ」は、定期航路において、自動運転レベル4相当(※1)での一般貨物を搭載した“商用運航”を1月30日より世界で初めて開始する(※2)。
今回の商用運航を皮切りに、無人運航船の社会実装が拡大することで、船員の負担軽減や働き方改革、物流の安定化、ひいては日本の造船・海事産業の競争力強化が期待されるという。
※1:特定エリアや条件下において、人の介入が不要な完全自動運航が可能な技術段階を指す。(船舶の自動運転定義は現在IMO等で議論中。便宜的に自動車の定義を流用)
※2:日本財団調べ(2026年1月時点)。定期貨物航路において、自動運転レベル4相当となる“定常的な実用運航”を開始する事例として世界初
2022年1月~3月に本プロジェクトの第1ステージの一環として実施された実証運航では、船舶交通量の多い「輻輳(ふくそう)海域」として選定された東京湾での運航や、長距離(北海道苫小牧から茨城県大洗までの約750km)・長時間(18時間以上)の無人運航を成功させた。第1ステージの知見を活用して進行中の第2ステージでは、より環境負荷が小さい輸送手段へ転換する「モーダルシフト」を担う一翼として、旅客船やコンテナ船、RORO船(貨物を積んだトラックやトレーラーが自走して乗り降りできる船)といった様々な船舶を商用運航させ、社会実装することを目指している。
1月30日より商用運航を開始した「げんぶ」は、2025年度中に商用化を予定している自動運航機能搭載船舶計4隻のうちの第2弾。自動運航実証実験が完了したのち、日本海事協会による自動運航船に関する認証を1月26日付で取得、自動運航船として国土交通省の船舶検査に1月28日付で合格した。なお、昨年12月には岡山県において、一般乗客を運ぶ旅客船「おりんぴあどりーむせと」が商用運航を先行して開始している。
日本財団では引き続き技術開発を進めながら、自動・無人運航に係るルールや法整備、社会的な理解も促しながら、2040年には内航船の50%の無人運航化を目指していくという。
関係者コメント(1月30日・記者発表)
海野 光行(日本財団 常務理事)
新造内航コンテナ船「げんぶ」が、自動操船のみならず、機関遠隔監視や自動離着桟などの世界最先端の技術を詰め込んだ無人運航船として商用運航を開始することを大変嬉しく思います。これから「げんぶ」を活用して国内外の無人運航船に関するルール作りに貢献するとともに、高い技術力を持つ日本の海事産業の競争力強化を支援してまいります。
畝河内 毅 (イコーズ 代表取締役 社長)
げんぶは、日本の海運の未来に向けた「意思」と「挑戦」の象徴です。 げんぶに搭載された自動運航技術は、船員の皆さんを支え、海運を持続可能にするための力強いパートナーとなり、日本経済の土台であるサプライチェーンの強靱化にもつながっていくことでしょう。 本船のような新しい技術を実装した船が増えることで、国内物流の“巡り”を良くし、持続可能なものにしていくことができると確信しております。
大澤 裕一(本田技研工業 サプライチェーン購買本部 生販物流・間接材統括部長)
国内物流は労働力不足や環境負荷といった構造的課題を抱えています。今回、無人運航船が定期内航コンテナ航路で商用運航を開始したことは、こうした課題に対する一つの実装解であり、物流の現場で実際に使われる段階に入った点に大きな意義があります。本取り組みが、安全で持続可能な内航輸送を支える基盤として定着していくことを期待しています。
定期内航コンテナ船「げんぶ」及び実証実験・船舶検査について
定期内航コンテナ船「げんぶ」は、イコーズが管理し、鈴与海運が運航する全長約134メートル・700TEU型の内航コンテナ船で、神戸から大阪、名古屋、清水、横浜を経由して東京までの航路においてコンテナ貨物輸送に従事している。
内航海運は国内貨物輸送の約4割(トンキロベース)を占める重要なインフラである一方、船員の高齢化や人手不足は深刻な課題となっている。本船はプロジェクトの目的である「物流のめぐりを良くする」観点から、無人運航船の普及を見据えて建造段階から設計、無人運航に必要なすべての機能を搭載したフラッグシップだ。
船舶を航行させるためには、国が定める技術基準に適合しているかを確認する船舶検査に合格する必要がある。国土交通省では2024年6月、自動運航船に係る安全基準・検査方法などを検討する「自動運航船検討会」を設置し、2025年6月に検討結果を公表した。「自動運航船」として航行するためにはセンサーやプランナー(避航ルートを自動で計画)等のシステムが適切に動作するか等を確認するための検査を受ける必要があり、2026年1月28日、「自動運航船」として国の船舶検査に合格したものだ。
今後、本船は商用運航下で自動運航を継続し、収集した運航データは国内外の自動運航船に関するさらなるルール策定に活用する。
また、海運業界には、船舶の安全性や品質を検査・認証する第三者機関として「船級協会」が存在する。船級の取得は、船舶保険の加入や金融機関からの融資を受ける際の事実上の要件となっており、業界において極めて重要な役割を担っている。
こうした中、世界有数の船級協会である日本海事協会(ClassNK)は、自動運航船に関する世界初の船級認証(ノーテーション)「MASS」を創設。「げんぶ」が一番船として認証授与されたことは、自動運航船の社会実装に向けた歴史的な一歩となる。
