2025年末、日本国内47都道府県すべてでのサービス展開という大きなマイルストーンを達成したUber Taxi。現在では1,000社を超えるタクシー会社と提携し、日本の公共交通を支えるモビリティプラットフォームとして、その事業規模を大きくしている。
Uber Japanの代表を務める山中志郎氏は、「まだビジネスのフェーズが変わったばかり。日本市場の伸びしろは、世界的に見ても極めて大きい」と断言。2026年以降、Uberは日本にどう向き合い、「移動」をどう変えていくのか。山中氏に、これまでの歩みと未来の戦略をじっくりと語ってもらった。
大きなマイルストーンとなった2025年
――まずはこれまでのビジネスを振り返って、現在のUberの立ち位置をどのように捉えていますか。
「ひとことで言えば、ビジネスのフェーズが明確に変わったと感じています。私たちの日本での歩みは、2018年の兵庫・淡路島での実証実験から始まりました。当時のプロジェクトネームは、淡路島の特産品にちなんで『玉ねぎ』でした。私が2019年末に入社した際、前任者から『淡路島の自治体から、箱いっぱいの玉ねぎが届いたよ』と聞いたのをよく覚えています。そこから2019年に名古屋でタクシー配車ビジネスを本格始動させました。当時は『外資の、しかもライドシェアを海外でやっている会社とどう付き合えばいいのか』という、既存のタクシー会社や地域住民の戸惑いや警戒感が強かったのではないでしょうか。ブランドカラーも黒ですし、まさに“黒船”という見られ方でした」
――そこからどのように信頼を勝ち取っていったのでしょうか。
「コロナ禍での停滞もありましたが、ここ3年ほどは年率2倍ペースで急成長を遂げてきました。実際に導入してみると、ユーザーの方々だけでなく、ドライバーさんからも『使いやすい』と好評をいただけました。その口コミが広がり、現在では全国約1,000社のタクシー会社さまとお付き合いさせていただくまでになっています。このパートナーシップのおかげで、当初2027年を予定していた47都道府県展開を2年も前倒して、2025年に達成することができました。これは我々にとって非常に大きなマイルストーンだと感じています」
「世界2位のタクシー市場」に眠る巨大な伸びしろ
――47都道府県でのサービス展開という「面」を達成し、次なるステップはどこにあるのでしょうか。
「日本はアメリカに次いで世界で2番目に大きなタクシー市場と言われています。ところが、アプリ配車の利用率はまだ十数パーセント程度。東京はもう少し高いですが、全国で見れば非常に低い利用率となっています。一方で、台湾や香港では30~40%、韓国では60%以上がアプリ配車です。ヨーロッパでの利用率はもっと高くなります。これらの国と比較すると、日本はまだまだ巨大な伸びしろがある市場です。昨年12月ダラ・コスロシャヒCEO(Uber最高経営責任者)が来日しましたが、その際にモビリティとデリバリーを合わせて約20億ドル、現在のレートで約3,100億円を日本に投資すると明言しました。これからは、全国展開という「面」の上に、利用の「密度」を圧倒的に高めていくフェーズに入ります。具体的には、2025年末時点で約70%だった人口カバー率を、2026年には90%まで引き上げることを目標にしています」
――「密度」を高めるための投資先として、具体的にどのような取り組みをされる予定でしょうか。
「今回の投資の多くは、新規ユーザーが『一度試してみよう』と思えるインセンティブや、ブランド認知を高めるためのマーケティングに充てられます。日本では、地方に行けば行くほど電話でタクシーを呼ぶ習慣が根強く残っており、慣れた習慣を変えるにはきっかけが必要です。そのきっかけを作れるような取り組みをしていきたいと考えています」
――ユーザーだけでなく、ドライバーへの投資も重要となってきますよね。
「その通りです。私たちはプラットフォームなので、ユーザーとドライバーは両輪。ドライバーさんが『Uberの配車を受けると収益が上がる、チップももらえる』と実感できなければ、システムはまわりません。実はUberのシステムは、ドライバーさんにとっても非常にストレスフリーな仕様になるよう努めています。例えばインバウンドのお客さまの場合、行き先はアプリで入力されているので言葉が通じなくても運ぶことができます。また、メッセージ機能で『今、〇〇出口の隣にいます』と送れば、自動で翻訳されて双方に届きます。『ホテルの名前が聞き取れない』といった現場の苦労がなくなるだけでなく、決済もアプリでできるため、コミュニケーションのストレスが緩和されます。インバウンドお客さまは3世代家族などの大人数で長距離を移動されることが多く、円安の影響もあってタクシー利用に積極的です。こうした高単価な需要をテクノロジーで最適にマッチングさせることで、ドライバーさんの収入を最大化する。そこにもしっかりと投資を続けていきます」
――地方のタクシー現場ではドライバーの高齢化も進んでいますが、新しいテクノロジーを導入する際、現場からの抵抗感や操作への不安といった課題にはどう向き合っていますか?
「ドライバーさんの心理的ハードルを下げる取り組みとして、電脳交通さんなどとのシステム連携も加速させています。これはタクシー会社がもともと使っている無線配車システムの中に、Uberの配車依頼が直接入ってくる仕組みです。年配のドライバーさんからすれば、新しいアプリの操作を覚える必要がなく、これまでと同じ画面を見ているだけでUberの注文も受けられる。この『既存の仕組みを活かす』戦略が、地方での急速な普及を支えています」
楽天がEatsとのクロスプラットフォーム戦略を加速させるカギ
――他社との競争が激化する中で、Uberが選ばれるための「強み」は何でしょうか。
「最大の武器はグローバルブランドと「クロスプラットフォーム」です。世界70カ国以上、50言語対応のアプリは、インバウンドユーザーが母国語で行き先を指定し、日本のドライバーさんがそれを日本語で受け取れるという、圧倒的な利便性を提供しています。そしてもう一つが、Uber Eatsとのシナジーです。『Uber One』という共通のメンバーシップを使えば、食事の配達手数料が無料になり、タクシー利用時にはキャッシュバックが得られる。この『食』と『移動』の両方を押さえている強みをさらに加速させるのが、楽天とのパートナーシップです。2025年12月に、Uberは楽天との戦略的パートナーシップを本格的に推進していくことを発表し、Uberの乗車やUber Eatsの配達で楽天ポイントが貯まるようになりました。これは、既存のUberユーザーが楽天ポイントを貯められるようになったというだけではなく、私たちがまだリーチできていなかった楽天ユーザー層にUberのサービスを使っていただく大きな機会だと考えています」
――楽天との提携によって、どのような未来が待っていますか。
「これまでUberは『タイパ(タイムパフォーマンス)』の高さで支持されてきましたが、今後は楽天ポイントが貯まる・使えることで『コスパ』の面でも一層優れた選択肢となります。トリプルポイントやトリプルディスカウントといったお得感を提供することで、利用頻度を劇的に高めていきたい。さらに将来的には、楽天IDとの連携を深め、まだ世にない新しい協業モデルを作っていきたいと考えています。こうした取り組みを通じてユーザーが増えることは、そのまま加盟店さまやドライバーさんの収益機会の拡大に直結します。我々が目指すのは、利用者、提供者、そして地域社会の三方が潤う健全なエコシステムの構築です」
日本版ライドシェアの現状と「公共ライドシェア」への手ごたえ
――地方の課題解決として、「公共ライドシェア」への取り組みも注目されていますね。
「地方では、鉄道もバスも何十年も前になくなっている地域があります。そこで自治体と組んで提供する『公共ライドシェア』には、非常に大きな手応えを感じています。最初は『新しいものが来るのが怖い』と不安がっていた地域の方々も、実際に始まってみると『移動が楽になった』『観光客が来やすくなった』と、本当に喜んでくださっています」
――加賀市では「貨客混載(ゆうパックとの連携)」も進んでいますね。
「はい。地方では『人を運ぶ』需要も『荷物を運ぶ』需要もバラバラでは非効率です。朝は通勤・通学の人を運び、日中の空き時間は荷物を配り、夜は観光客を運ぶ。限られた地域のリソースをフル活用する仕組みです。今はまだ実証実験の段階ですが、こうした貨客混載の考え方こそが、地方のインフラを守る鍵になります。ゆくゆくは、Eatsの配達パートナーがタクシー業務を兼ねるような、よりボーダレスな働き方も、日本の制度に合わせた形で実現していければと考えています」
――タクシー会社が管理する「日本版ライドシェア」についてはどう見ていますか。
「実際に運用してみると、いろいろ制約が多いと感じています。稼働時間や台数に制限があり、タクシー会社による『雇用』も義務付けられている。Eatsの配達パートナーのように『隙間時間に自分の車で少しだけ稼ぎたい』という方にとってはハードルが高いですし、タクシー会社からも『管理が大変で使いづらい』という改善を求める声が届いています。雇用形態の柔軟性や時間・場所の制限緩和が進むことで、日本のドライバー不足を解消する一助になれるのではないか。特に、悪天候や交通機関の乱れによる突発的な需要増への対応については、さらなる改善策の検討が不可欠です。今後とも政府や業界団体と対話を重ね、より使いやすい仕組みへの改善を働きかけていきます」
2026年以降、Uberが見据えるものとは
――最後に、2026年以降の展望を教えていただけますか。
「これからの5年で確実に見えてくるのは自動運転です。日本でも数年以内に自動運転タクシーが何らかの形で走り始めるでしょう。日本のドライバー不足を補う一翼として自動運転をどう社会実装していくか、すでに方策を練り始めています。2026年は、47都道府県という基盤の上で、投資をさらに加速させ、事業を一段上のステージへ引き上げる勝負の年になります。Uberが提供するのは単なる配車アプリではありません。2025年7月にローンチし、シンプルさが好評な「Uberシニア」や、 13歳以上が使える「ティーンズ」向けサービスも含め、家族全員が、そして日本中どこにいても、当たり前のように移動を享受できる「社会インフラ」になること。私たちはグローバルテクノロジー企業として、この変化を先んじて推し進めていきたいと思います」
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楽天との提携や公共ライドシェア、そして貨客混載といった多角的なアプローチによって、日本市場における次なる成長フェーズへと移行するUber。人手不足が深刻化する交通業界において、Uberは単なる配車アプリの枠を超え、テクノロジーによって既存のインフラを補完する役割を強めている。日本の移動課題に対して、Uberがどのような実効性のあるソリューションを提示していくのか、ぜひ注目していきたい。



