
ドンカーブートが送り出すP24 RSは、高度に電子制御された現代の自動車に対する、明確なカウンターパンチとして誕生した。路面からの情報を遮断することなく、むしろ増幅するかのようにドライバーへと伝える存在。P24 RSが目指したのは、単なる最高速や直線加速の競争ではなく、重量と慣性を削ぎ落とすことで得られる、濃密なドライビング体験そのものである。
【画像】ドンカーブート史上最も過激な2人乗りスポーツカー『P24 RS』(写真27点)
乾燥重量780kg。1トンを大きく下回るこの数値は、現代のスーパーカー市場においてほとんど異例と言っていい。しかもP24 RSは、排出ガス規制や安全基準を満たしながら、その軽さを実現している。ターボチャージング、インタークーリング、そしてドンカーブート独自のEx-Coreカーボンファイバー技術を組み合わせることで、多くのライバルが到達し得ない領域へと踏み込んだ。
心臓部には、新開発の3.5リッターV6ツインターボ「Power To Choose(PTC)」エンジンを搭載する。最高出力は600hp(441kW)。さらにこのユニットは、400hp、500hp、600hpという3段階の出力をドライバーが選択できるという、極めてユニークな特徴を持つ。最大トルクは800Nmに達し、パワーウエイトレシオは770hp/トン、トルク密度は1025Nm/トンという驚異的な数値を誇る。100km/hへの加速は瞬時に完了し、0-200km/hは7.4秒。最高速は300km/hを超える。
PTCエンジンは、ドンカーブートとオランダのF1サプライヤー、ファン・デル・リーとの共同開発による専用ターボを採用。ボールベアリング式ターボは、鋳造ではなく削り出しビレット製タービンを使用し、他の量産ターボとは一切部品を共有しない。複雑な翼形状と高耐熱性により、過給圧を1.2barに抑えながら、F22の5気筒エンジンを100hp上回る性能を実現している。ラグはほぼ存在せず、スロットル操作に即応する反応速度が、この車のキャラクターを決定づける。
吸気系にはF1由来の技術も惜しみなく投入された。コンフラックス製の3Dプリント水冷式チャージエアクーラーは、1基わずか1.4kgという軽さで、ターボとスロットルボディの間に配置される。極端に短い吸気経路はレスポンスを高め、よりリーンな燃焼も可能にした。3Dプリント製エキゾーストマニホールド、CFRP製インテーク、ドライサンプ潤滑方式によって、エンジン重量は170kg以下に抑えられている。ドライサンプ化により重心は6cm低下し、2.3Gという横加速下でも安定した潤滑性能を確保する。
トランスミッションには軽量な5速ギアボックスを採用し、約15kgの軽量化を達成。レブマッチ機能も備えるが、これをオフにすることでヒール&トウを楽しむ余地も残されている。トルセンLSDと軽量ドライブシャフトの組み合わせにより、駆動力は余すことなく路面へと伝えられる。
シャシーは、アルミチューブフレームとEx-Coreカーボンファイバー補強を組み合わせたハイブリッド構造を継承しつつ、剛性と安全性をさらに向上させた。中でも象徴的なのが、重量わずか9kgのFort-Exフロント構造体である。単一ピースで成形されたこのEx-Core製サブフレームは、サスペンション、ブレーキ、冷却、エアロ、クラッシュコーンを統合し、耐衝撃性能とハンドリング精度を同時に高めている。その構成は、WECマシンに見られるような、サスペンションや冷却、クラッシュ構造を一体化したフロントモジュールに近い発想だ。
サスペンションは前ダブルウィッシュボーン、後マルチリンクといった構成。アンチダイブ、アンチスクワットジオメトリーを採用し、トラクティブ製アクティブダンパーは走行状況に応じて減衰を制御する。油圧式ライドハイト調整機構も用意され、ボタン操作で車高を変更可能。減衰力はセンターコンソールのダイヤルで調整できる。
ブレーキはAPレーシング製4ピストンキャリパーとベンチレーテッドディスクを標準装備し、オプションでカーボンセラミックディスクも選択可能。1コーナーあたり2.1kgの軽量化と、1.3Gの制動性能を実現する。タイヤはナンカンと共同開発した専用CR-Sを採用し、前235/40R18、後275/35R19というサイズが選ばれた。
空力性能もまた、P24 RSの本質を形作る要素である。床下で発生するダウンフォースに加え、オプションのリムーバブル・エアロパッケージを装着することで、250km/h時に前後合計90kgのバランスド・ダウンフォースを生み出す。フロントおよびリアのコーナーウイングは、わずか3本のボルトで着脱可能。チタン製スキッドブロックが装着され、サーキット走行時の耐久性も確保される。最高速300km/h超という性能を犠牲にすることなく、安定性を高めている点も特筆すべきだろう。
デザインは、ドンカーブート伝統の露出したフロントフェンダーを継承しながら、より統合的で現代的な造形へと進化した。ロングノーズ・ショートテールのプロポーションは、前輪の動きを視認しやすくし、ドライバーが正確に車を置くことを助ける。空力面ではF1の知見を持つエアシェイパーが解析を担当し、複雑な前輪周りの気流を制御することで、ドラッグ低減とダウンフォース確保を両立した。
業界初となるスイングアウト式「Aero Blade」ヘッドライトも、この車の象徴だ。ロービームは通常グリル内に格納され、必要な時だけ水平に展開される。サスペンション上を流れる気流を整え、空力性能と冷却効率に寄与する。DRLとウインカーはカーボンボンネット上に配置され、ハイビームはグリル内に保護される。すべてLEDだ。
インテリアは、直感的操作と触覚的フィードバックを重視した設計となる。デジタルメーターを採用しつつ、主要操作系は物理スイッチとダイヤルで構成。iPad mini用ブラケットも用意されるが、視線移動を最小限に抑える思想は揺るがない。着脱式ステアリングには照明、ウインカー、ワイパー、パスボタンなどの操作系を集約する。
軽量レカロ製シートは身長2.05mまで対応し、6点式ハーネスは公道・競技双方に対応。ツインタルガ構造のルーフは、中央のEx-Coreカーボンバーと左右のカーボンパネルで構成され、それぞれに小型スポイラーを内蔵する。ラゲッジ容量は298リッターと、コンパクトハッチ並みの実用性を確保した。
P24 RSは150台限定生産で、2026年4月からデリバリーが始まる。すでに欧州、米国、中東で50台以上が成約済みだ。車名は、マネージングディレクターであるデニス・ドンカーブートの次女フェーベに由来する。創業者ヨープ・ドンカーブート以来続く、家族の名を冠する伝統の延長線上にある一台である。
電子制御に頼らず、重量を削ぎ落とし、ドライバーの感覚を信じる。P24 RSは、速さの数値ではなく、運転するという行為そのものの価値を問い直す存在だ。その軽さ、その濃度、その一体感は、現代のスーパーカーが忘れかけていた本質を、強烈に突きつけてくることだろう。