第84期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社・日本将棋連盟)は、8回戦計4局の一斉対局が東京・将棋会館で行われました。このうち永瀬拓矢九段―糸谷哲郎八段の上位対決は119手で糸谷八段が勝利。独自の勝負術で劣勢の終盤戦を跳ね返し、名人挑戦に望みをつなぎました。

初手から糸谷ワールドへ

ここまで7勝0敗と破竹の勢いを見せる永瀬九段、本局に勝てば最終9回戦を待たずに挑戦が決まります。対して背水の陣となっている糸谷八段ですが、この日は初手に3筋の歩を突く秘策を披露しました。先手後手があらかじめ決まっている順位戦ならではの作戦選択で、盤上は早くも相掛かり調の力戦に突入。ともに右銀を繰り出し中盤戦が幕を開けました。

競り合いの中で飛車を手にした糸谷八段は好調に攻め続けますが、永瀬九段も慎重に時間を使って決め手を与えません。むしろ先にリードしたのはその永瀬九段で、角の力を目いっぱいに使って二枚飛車を抑えたのが好着想。中継ソフトに備え付けられたソフトは一時、後手に80%以上の期待勝率を与えました。しかしここからが人間同士の勝負の始まりでした。

運命分けた時間攻め

一分将棋直前の永瀬九段とは対照的に糸谷八段は持ち時間を2時間近く残します。この時間的優位を生かしてノータイムで攻め続けたのが糸谷八段らしい勝負術でした。運命の分かれ目は糸谷八段が角を成って永瀬九段に下駄を預けた局面。ここは結果的に4筋から銀を打つのが正解で、長手数の連続王手で飛車と馬という先手の種駒を両方抜いてしまう筋が隠されていました。

実戦で永瀬九段が選んだ5筋からの清算も同じように見えますが、これにはサっと玉を逃げ出されると糸谷玉は詰みません。とはいえ秒読みの中でこの一路の違いを読み切るのは至難の業で、永瀬九段にとっては指運といえる選択が運命を分けた格好に。終局時刻は22時32分、最後は敵玉への詰みなしを認めた永瀬九段が投了して熱戦に幕が引かれました。

上位同士の大一番を制した糸谷八段はこれで7勝1敗と永瀬九段と同星に。どちらが挑戦権を獲得するか、注目の順位戦A級9回戦、通称「将棋界の一番長い日」は2月26日(木)に静岡県静岡市の「浮月楼」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 最終9回戦で糸谷八段は近藤誠也八段(5勝3敗)、永瀬九段は佐藤天彦九段(2勝6敗)との対局が組まれている(写真は第27期竜王戦七番勝負第5局のもの 撮影・編集部)

    最終9回戦で糸谷八段は近藤誠也八段(5勝3敗)、永瀬九段は佐藤天彦九段(2勝6敗)との対局が組まれている(写真は第27期竜王戦七番勝負第5局のもの 撮影・編集部)