ミドルシニアの転職者数は右肩上がりを見せている。希望退職者を募る企業が増えつつあることに加え、即戦力を求める企業側のニーズも高まっていることが、ミドルシニアの転職市場の活性化に影響している。終身雇用は必ずしも“前提”ではなくなり、転職熱は年々上昇傾向ではあるものの、2026年の転職市場の中心はミドルシニアになるかもしれない。

「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げるパーソルグループは、ミドルシニアの転職事情を掘り下げる、報道関係者向けのオンライン記者勉強会を開催。パーソルキャリアのミドルシニア労働市場スペシャリストの石井宏司氏が登壇し、2026年のミドルシニアの転職事情を解説した。

「黒字リストラは増える」が多数派

  • ミドルシニアの労働流動化がさらに加速、転職者数は過去最多水準に

    転職希望者と企業の動向予測

まず、石井氏は2026年の転職市場について「過去最大級になる」と話し始める。

「いわゆる超大手企業では、早期退職などを積極的に行った結果、昨年、転職市場でのミドルシニアの活性化につながった。2026年もその流れは続くと予想しています」と分析。

実際、ヒアリング対象は10人と多くはないものの、人事責任者を対象にしたアンケート調査でも、8割が「黒字リストラは増える」と回答しており、この流れは今後も変わらないという。

  • 2026年の黒字リストラはどこで発生すると予想されるのか?

    黒字リストラが起きやすいキーワード

黒字リストラが実施されやすい業界や職種について、石井氏は「製造業、金融業、通信業、ICT企業で大きな黒字リストラが発生すると予想している人は多い。その中でも、収益性が低く、DXやAIで代替されそうな間接部門では、シニア世代やシニア手前の世代でも、黒字リストラは引き続き発生すると見ています。これらがミドルシニアの転職活動にかなりの影響を与えるでしょう」と説明。

また、「人件費高騰などにより、倒産や事業縮小が中小企業で起こってくる」と今後の中小企業の動向にも触れる。

「大手企業でも株主重視経営の中で黒字スリム化を進めていく。この2つの影響により、大手企業からも中小企業からも転職市場に人が送り出される構造になると思います」と述べ、改めてミドルシニアの転職活動が活発化する可能性を示唆した。

製造業界は変革の時代に突入か?

  • ①製造業の大きなシフト(その1)

    製造業で起きるシフトとは

2026年に日本企業で起きる3つの大きな“シフト”を紹介する。

石井氏は「1番目は、日本の製造業の変化です。国内需要、加工貿易による輸出ともに、自動車や家電などの完成品を製造してきましたが、今後は徐々に縮小していく市場です」と述べる。

「一方で、半導体やAI、全固体電池、薄膜太陽電池といった戦略的パーツの製造・輸出へとシフトしてきています。完成品やガソリンエンジン系パーツを製造していた人たちは黒字リストラの対象となり、すでに一部は転職市場に出ていますが、今年さらに加速すると思います」と予想した。

  • ①製造業の大きなシフト(その2)

    業界や業種をまたいだ転職が起こる

続けて、「先進国では都市の再開発が、新興国では都市への人口集中問題への解決が課題とされている中、都市インフラ整備ビジネスが進んでいます。将来的には、電車、車、バスのすべてにAIを搭載したチップ『System on chip』が組み込まれ、コネクティッドな形で連携していくでしょう。今後はスマートシティや統合インフラへと進んでいくと思います」と語る。

データセンターも今後開発が進む分野であり、再生可能エネルギー装置、サーバー冷却システム、サーバーセンターなど、さまざまな業界の知見が統合されたシステムだという。

そのため、「統合インフラへの動きがあるからこそ、業界や業種をまたいだ転職が起こっており、今年はさらに加速していくと思います」と話した。

  • ①製造業の大きなシフト(その3)

    UIターンのメインはミドルシニア層

加えて、太平洋ベルト地帯(京浜~北九州)だけでなく、札幌や東北、北関東などでも地方戦略製造拠点となるケースが目立ってきているという。

石井氏は「子育てを終えた50代が、夫婦でUIターンを絡めた転職をするケースが増えており、今年も増加すると見ています。従来は若い世代に多い動きでしたが、今はむしろ子育てを終えた世代に注目が集まっています」と現在のトレンドを紹介。

  • ①製造業の大きなシフト(その4)

    事業会社を展開するのがトレンド

また、「新卒一括採用・終身雇用で長く育てる体制から、近年は構造改革をスピード化するため、事業会社化する流れが進んでいます」と説明。

「要するに、本体をホールディングス化し、事業会社をM&Aや合併で作り、場合によっては売買するケースも増えています。スピードが求められる中で、製造事業は事業会社へ移行していく流れがトレンドとして見られます」と企業構造の変化を指摘。

「中途採用でも、ミドルシニアの転職先は本社から戦略グループ会社へ移ってきていると思います」と語った。

ミドルシニア層のニーズは上昇中

  • ②地方に新たな産業クラスターが国家戦略で登場

    産業クラスターの誕生

次に2番目のシフトについて説明する。

コア産業の周辺に関連産業が集積し、エコシステムを形成する“産業クラスター”が日本各地で生まれていることから、先述の通り、UIターンが比較的可能なミドルシニアにも注目が集まっているという。

続けて、「製造業系エンジニアだけでなく、成長志向の経営者を支える間接部門の採用も増えています」とし、「経理、総務、企画、人事部門などを長く経験した人が、地方で年商100億円規模を目指す企業の経営者を支える、といった転職も増えていくと思います」と見解を示す。

  • ③「セキュリティ」へのシフト(その1)

    ミドルシニア層だからこそ求められる

3番目のシフトとして、「セキュリティ産業の拡大に伴い、ベテラン人材がシフトしていく」と前置きし、「サイバー攻撃は多岐にわたっており、サイバーセキュリティ人材を強化する企業は増えています。会社のシステム全体を把握できる能力が求められるため、やはりベテランの力が必要です」と語る。

「サイバー攻撃は社員の心理的な隙や防衛の隙間を突いてくるため、社員教育が非常に重要になります。教育、経営、防衛を組織的に行うためにも、ベテランの指導が欠かせません」とミドルシニアの需要の高さを強調した。

ミドルシニアを採用した企業の本音

  • 懸念の中身は「キャリア硬直」「給与アンマッチ」「習熟不安」

    ミドルシニア採用の懸念点

最後に、全国の20~60代正社員の中途採用担当者や会社役員などを対象に行ったアンケート結果をもとに、ミドルシニアを採用する企業側の意識を掘り下げる。

まず、ミドルシニアの採用実績がない企業の約8割が、ミドルシニア層の採用に懸念を抱いているという。懸念点としては、「キャリアが固まっていて柔軟性が低そう」「希望する給与水準と募集条件が合わなそう」などが上位に挙げられた。

  • 懸念の中身は「習熟不安」「スキル不足」「学習不安」

    採用実績があっても懸念は多い

一方、ミドルシニアの採用実績がある企業の約7割も懸念を感じており、「業務内容の習得が難しそう」「必要なスキルが想定より不足していそう」といった声が見られた。

  • 「全く活躍できてない」は3.8%に留まる

    活躍しているミドルシニアは多い

ただし、実際に採用した後の働きぶりについては、約半数が「活躍できている」と回答。 「全く活躍できていない」という回答は3.8%にとどまり、石井氏は「通常の中途採用、他の年齢層の中途採用と大きな違いはありません」と述べる。

「採用実績のある企業は着実に増えています。実際に採用してみると『想定していた課題を感じなかった』というケースも多く、今年は『ミドルシニアを受け入れよう』と考える企業がさらに増えていくでしょう」と語った。