国土交通省は、内航事業者が造船・舶用事業者と連携し、DXやGXといった社会の変容や船員の高齢化などの諸課題に対応しつつ、物流革新等の新たな社会ニーズに貢献できる技術開発・実証に関する補助事業「NX補助金」(内航変革促進技術開発費補助金)を令和6年度に創設。12月5日には、令和6年度で終了した3つの事業に関する報告会を催した。
NX補助金とは
内航海運業は国民生活や経済活動を支える基幹輸送インフラだ。一方で、人口減少に伴う人手不足や、脆弱な事業基盤といった諸課題が指摘されており、これらに対応する強い内航への変革(NX)が求められている。
「NX補助金(内航変革促進技術開発費補助金)」は、内航事業者が造船・舶用事業者等と連携して内航の諸課題を解決し、物流革新等の新たな社会ニーズに貢献するための技術開発・実証事業を対象とした補助金だ。応募された事業は、有識者からなる評価委員会にて評価を行った上で採否を決定、採択された事業に対しては、費用の一部を補助する。補助上限額は、単年型が6,000万円、複数年型が5,000万円(事業期間2年もしくは3年の合計で1億円)。
内航ケミカルタンカーにおける荷役DXおよび設備点検DXの技術開発
最初の報告は、中北製作所、上野ロジケム、ケーイーアイシステム、いのくま、トリプルクラウンズによる「内航ケミカルタンカーにおける荷役DXおよび設備点検DXの技術開発」。
日本の内航海運は、国内貨物輸送の約4割、石油製品や化学薬品など産業基礎物資輸送では約8割を担う重要なライフラインだ。しかし、船員不足や高齢化、安全対策、働き方改革などの課題が顕在化している。なかでもケミカルタンカーは輸送する化学薬品が多様で、荷役ごとに異なるケミカルを輸送する場合、タンクの洗浄および洗浄水の排出作業が発生する。その工程は熟練のノウハウが必要かつ危険を伴う作業であることから、若年船員の確保の課題は特に顕著だという。
本事業では、内航ケミカルタンカーの労務負担に関するヒアリングを乗組員に行い、「タンククリーニング作業」「洗浄水の排水作業」「船体整備(ドック・仮バース)」に着目。「ケミカルタンク洗浄工程のデータベース化と最適洗浄案の提案」「タンク洗浄水の海洋排水遠隔装置」「設備点検DX」の3テーマで技術開発を実施した。
「ケミカルタンク洗浄工程のデータベース化」は、属人的になりがちなタンククリーニング作業の課題を解決する技術開発だ。過去データを基に、貨物や各条件(温度、湿度海水温、天候、荷主指定)ごとの洗浄フローマトリクスを構築、入力条件に応じて最適工程を提案するシステムを開発。経験の浅い乗組員でも安全に計画ができるようになり、ヒューマンエラーの防止、労務負担軽減を実現した。
「タンク洗浄水の海洋排水遠隔装置」では、操舵室からポンプやバルブを制御可能にすることで、従来手動で行っていた危険な作業を削減。これにより、3人で約1時間かかっていた作業が1人で約40分に短縮され、業務の安全化と労務負担が大幅に改善された。
「設備点検DX」では、これまで紙ベースで行われていた設備点検簿を、クラウド対応のアプリとして開発した。スマートフォンやタブレットで入力できるうえに、点検方法の画像や動画をアプリ内にアップすることで、経験不足の乗組員でも正確な点検が可能に。このDX化により、陸上との情報共有の課題解決、またペーパーレス化、メンテナンス計画の効率化、乗組員の教育時間の時短化を実現している。
これらの技術は、上野ロジケムの運航するケミカルタンカー"のじぎく"”やまゆり"に搭載し実証試験を実施しており、船員からも良好なフィードバックを受けているという。今後はより良いシステム・アプリへの更新を予定、令和8年末までに3隻、年間5~10隻搭載を目標に最終的に内航船50隻への導入を目指し、業務改善と安全性の向上を推進していく。
着桟・係船作業支援のためのLiDAR技術を用いた舶用バース距離計の技術開発
続いて、ハブネス、エヴァラインによる「着桟・係船作業支援のためのLiDAR技術を用いた舶用バース距離計の技術開発」が報告された。
冒頭で、中小型内航船の課題が2つ挙げられた。ひとつは、離着岸・係船作業時にブリッジ・船首配置・船尾配置の3か所を経験則からなる目視で行う「着眼・係船作業の距離の相違」、もうひとつは船上での情報共有の方法が声のやり取りに限定されており、感覚に依存している「共通認識の土俵の少なさ」だ。
この課題に対して、ハブネスは海上技術安全研究所と連携し、距離計測センサー「LiDAR(ライダー)」の技術を活用した「船用バース距離計」の開発を実施。陸上で使われている「LiDAR」を船舶用にパッケージ化し、塩害や振動への耐久性、防水性を確保。電源制御による長期使用時の耐久性・信頼性を向上する仕組みも実装する。さらに、「LiDAR」が取得する膨大な点群座標データを短時間で処理し、操船者に分かりやすく表示する機能も開発。岸壁での接触事故を防止し、係船作業における若年操船者の労務負荷軽減を狙う。
「LiDAR」は右舷・左舷に各2台搭載し、制御用PLCに接続することで離着岸時のみ電源をオンにする仕組みを採用。実証試験では、499TG貨物船「みやび丸」に取り付け、約90日間の稼働で問題なく動作したことが確認されている。
今後は、塩害に強いパッケージ化やソフトウェアの改良を進める。また専用モニターやPC対応など表示方法とネットワークの仕様により価格に変動があるため、複数のラインナップを検討、市販化を目指していくという。
係船作業と投錨作業の船員労務負荷低減に向けたウインチの高機能化についての技術開発
3事業目は、SKウインチ、冨士汽船による「係船作業と投錨作業の船員労務負荷低減に向けたウインチの高機能化についての技術開発」。この事業は、労係船作業・投錨作業における安全性向上と船員の労務負荷低減を図るものだ。
ウインチの高機能化に向け、3つの実装や実証実験が行われた。ひとつは「全ブレーキの構造見直しと、押締構造への変更と新型電動シリンダの装備」。これは、電動シリンダへの負担軽減のため、ブレーキのレバー機構を改造。従来の「ロッドを縮めてブレーキを締める」構造から、「ロッドが伸びて押し締める」構造に変更した。また全てのブレーキに新型電動シリンダを装備している。
ふたつめは「電動ブレーキにロードセルを追加し、張力検知・監視機能を装備」。ロードセルを用いて計測した係船ロープの張力をもとに、係船ロープの異常を感知できるように。また、感知・警報だけでなくロープのオートテンション機能の高度化も期待できる。
そして最後に「ブリッジから遠隔操作でアンカーレッコが行える、プログラムの追加と実証実験」だ。海上技術安全研究所らと共同で、遠隔投錨システムの実証実験を実施。実証実験では、チェーンドラムの回転速度やチェーンの繰り出し長さ、船体の位置・姿勢を正確に計測しながら、操舵席のタッチディスプレイにより投錨作業を実施。適切な投錨操作を行えることが確認されている。
今回の実装や実証実験は、冨士汽船の199GTケミカルタンカー「りゅうと」で行われた。同船は、次世代の省力化内航船「スマートアシストシップ」第1号船として建造され、常に最新のハードやソフトを試用する実証フィールドとして活用されている。今後は、これらの技術をさらにブラッシュアップし、通常運航から錨泊、着桟、係船、荷役における省力・省人化の検証を進めていくという。


