雪が降ると、車の運転すら慎重になる。歩くときも転ばないよう足元を気にして、外出そのものを控える人も多いだろう。そんな中、「雪の上を自転車で走る」と聞いたら、ほとんどの人が驚くのではないだろうか。

ところが北海道・美唄市では、真冬の雪原を舞台にした自転車レースが開催されている。プロ選手の大会でも、命知らずのイベントでもない。雪国の日常の延長線上にある、“ちょっと本気の大人の遊び”だ。

自転車歴10年の筆者が仲間と挑んだ、美唄スノーサイクルレース。雪と寒さの向こうにあったのは、想像以上に熱いドラマだった。

北海道の豪雪地帯・美唄市で行われたスノーサイクルレースに出場してきた

札幌市在住の筆者は、今年で自転車歴10年目を迎える。

仕事の傍ら、グラベルバイクとMTBに乗り、旅と冒険をテーマに活動しているサイクリストである。

レースや大会を軸に活動しているわけではないのだが、年に数回、自身の力試しとして大会に参戦している。

昨年の1月は観光地としても人気の北海道美瑛町で行われたスノーサイクルフェスティバルに参戦し、惜しくも表彰台を逃してしまった。

そして2026年最初の力試しとして選んだ大会が『美唄スノーサイクルレース』である。今回も『十勝グラベル』で一緒に走った、自転車仲間である宮田氏とチームを組み(チーム名Still Steel)エントリーすることとなったので参戦の模様をお伝えしたいと思う。

そもそも雪道で自転車走行は可能なのか?

雪の降らない地域にお住まいの方は想像が難しいかもしれないが、私が住む札幌市ではマウンテンバイクやファットバイク(タイヤが極太のマウンテンバイク)を冬季間も日常の交通手段として使われている方を度々見かける。

私自身も路面が完全に雪に覆われる1月頃には、所有するマウンテンバイクにスパイクタイヤを履かせて、仕事や買い物などに出かけている。

ただし、道幅は狭くなり、滑りやすく、深雪でハンドルをとられてしまうような状況では雪のない季節に比べると、神経も体力も激しく消耗する。自動車や歩行者にも最大限の配慮が必要となる。

もし雪道での自転車に挑戦してみたいという方がいれば、まずは最寄りのスポーツサイクル店で装備などの相談をした後、少しずつ練習していただければと思う。

先日、正月でダラけた身体に喝を入れるため、仲間4人で札幌市内を26km程走行してきたのだが、体感的には雪のない季節に50km以上走ったくらいの疲労感があったし、時間的にも3時間40分かかってしまった。

意外かもしれないが、走り出すとすぐに身体は温まり、マイナス気温にも関わらず汗だくになってしまう。足を止めるとすぐに身体が冷えてしまうので、汗冷えの対策も重要だ。

  • ドロップハンドルを装着した筆者のMTB(マウンテンバイク)

    ドロップハンドルを装着した筆者のMTB(マウンテンバイク)

しかし、技術を習得して慣れてくると多少の悪路も楽しく感じて、いつも通っている通勤路でさえMTBコースを走っているかのように楽しく感じる。

安全対策と防寒対策をしっかり行えば、降雪地ならではの楽しみがあるのだ。

第6回美唄スノーサイクルレースとは?

本大会は北海道美唄市にある美唄スノーランドに作られた一周約1.2kmの特設コースを150分で何周できるかを競う耐久レースである。

カテゴリーはソロ、二人チーム、三人チーム、Eバイク(電動自転車)と分けられ、今回我々は二人チームでのエントリーとなる。

もちろん私は取材も兼ねての出場であるため、チーム員の宮田氏がメインライダーだ(という言い訳)。

  • 出走前にコースを眺める出場者達。別の大会でお会いしたことのあるチームもいた

    出走前にコースを眺める出場者達。別の大会でお会いしたことのあるチームもいた

宮田氏とは何度か一緒に大会に出場しているのだが、毎回入賞を目指すも未だ達成できていない。

「今回こそ絶対表彰台にのぼろう!」と、会場へ向かう車の中で話していたが、本大会初出場の我々は徐々に会場の空気に飲み込まれてく。

  • 若干アウェー感漂う会場(気のせいか?)で無理やりテンションを上げる宮田氏

    若干アウェー感漂う会場(気のせいか?)で無理やりテンションを上げる宮田氏

会場に入ってみると真冬にも関わらずサイクルジャージ率が高い。そして多くの出場者がビンディングシューズを履いている。ガチだ!

その光景をみた時点で、普段から競技を視野に入れたトレーニングなどを一切していない我々は、徐々に表彰台への夢が薄れていった。

レースで使用した自転車はこちら。

  • 宮田氏所有のファットバイク

    宮田氏所有のファットバイク

少し遅めの会場入りとなってしまったため、急いでコースを試走した。前日に降った季節外れの雨と気温の上昇で路面の雪はグズグズに溶けて柔らかい。通常仕様のマウンテンバイク(筆者持ち込みのMTB)では不利になると考え、今回は宮田氏が持ち込んだファットバイク一台を交代で使うことにした。

ただし、自転車に詳しい人ならお気付きかもしれないがこの自転車、変速機が付いていないシングルギアである。加えてレースでは不向きであろうアップライトなハンドルポジション。乗車姿勢はママチャリとほぼ変わらない。

あきらかに不利な条件が目につく仕様であった。そして二人とも服装は空気抵抗を一切無視した一般的なアウトドアウェアで、近所へ買い物に行く時とあまり変わらない(冬の北海道の標準仕様だと思っている)。

そんな我々の様子から、スタート前は他の出場者達からほとんど気にされない存在であった。

いよいよレースのスタート時間だ

大会主催者から競技とコースの説明を受けたあと、いよいよスタートとなる。

  • 第1走者がスタートラインに並ぶ。前列はサイクルジャージをまとったいかにも速そうな選手たちだ

    第1走者がスタートラインに並ぶ。前列はサイクルジャージをまとったいかにも速そうな選手たちだ

前半で取材用の写真撮影を行いたかったので、宮田氏には2周することをお願いしておいた。

  • スタート時の選手達の迫力は見ているだけで元気になる

    スタート時の選手達の迫力は見ているだけで元気になる

スタート合図のピストルがなると同時に選手達が勢いよくスタートを切る。

大会のエントリー数はチームと個人を合わせて26エントリー。当日エントリーを含めるともう少し増えていたのかもしれない。

朝からすぐに気温が上がったため、スタート前から路面が柔らかく、この人数で走るとすぐにコースが荒れてしまい体力面でハードな戦いになることが想像できた。

  • ヘアピンコーナーから折り返し、スタート地点に戻ってくる選手達

    ヘアピンコーナーから折り返し、スタート地点に戻ってくる選手達

テンション高めの宮田氏に、いつもの笑顔がないことで過酷なコース状況だということが伺えるのだが、順調に周回を重ねている。

シングルギアの自転車は瞬発力こそ出せないが、タイヤをスリップさせることなく確実に平均速度を維持することができる。真剣な表情なのは路面の状況を見極めながら最適なラインを選んでいるからだろう。

路面が荒れた場所や起伏のある場所は無理せず自転車を押してクリアする。無駄な体力は使わず後半に向けて体力を温存しておく作戦だ。少なくともMTBの選手達はコースが荒れるにつれ、ペースが落ちるであろうと予想した。

耐久レースでは作戦やペース配分が極めて重要になるのだ(昨年の経験上)。

  • 北海道ならではの雄大な山々が背景となる

    北海道ならではの雄大な山々が背景となる

それにしても、後ろに見える山々が美しい。大きな建物に遮られることのない広大な景色の中に立っていると、空気まで美味しく感じて感覚も研ぎ澄まされていく。

などと写真を撮りながら考えているうちに、息を切らせた宮田氏が2周を走り終えピットイン。

  • ピットでの選手交代の様子。交代した選手が勢いよくコースに飛び出していく

    ピットでの選手交代の様子。交代した選手が勢いよくコースに飛び出していく

レース中盤から思わぬ展開

スタートから1時間15分を経過したあたりで、他のチームの方々とお話しすることができた。「シングルギアなんですね!」「タイヤの空気圧はどのくらいですか?」などと声をかけてくれた。

時間が経つにつれて我々の存在を認知していただけたのかな? と思っていたが、中間リザルトがWeb上で公開されていた(後で知ったのだが)。

あるチームのメンバーが「ダントツ速いですねー」と話しかけてきたので私としては「はやい??」となってしまった。無我夢中で走っていたことと、すでに表彰台は諦めかけていたので、自分たちが何周していて、何位を走っているのか全くチェックしていなかったのだ。後でわかったことだが、その時点で個人、チーム総合8位を走っていたのだった。

案の定コース路面は荒れるにいいだけ荒れた。筆者も2周サイクルで走ったが2周目は確実にタイムが落ちてしまう。

そこで作戦を変更し、後半の残りはすべて1周交代で走ることで走行ペースを維持することに。前半で体力を温存していたことも間違っていなかったし、少しペースが上がったと思えた。

速く走ろうとせず、荒れていないラインを見つけてバランスを崩さず確実にペダルを回す。

ホームストレートは比較的路面が安定していたので、順位を上げるチャンスになった。 他のチームのペースが落ちていることも明らかだったので、ホームストレート、バックストレートで周回ごとに勝負をかけてみた。

まだ脚には余裕が残っているし、後半の残り時間30分は間違いなく我々の時間だった! 結果3人ほど追い抜くことができ順位を上げることに成功した。

  • スタート時の写真と比べると路面が荒れているのがわかる。通常仕様のMTBやグラベルバイクは自転車押して歩くことを余儀なくされる状況だ

    スタート時の写真と比べると路面が荒れているのがわかる。通常仕様のMTBやグラベルバイクは自転車押して歩くことを余儀なくされる状況だ

無事にゴール!

残り15分を切ったあたりで宮田氏にバトンを渡し、これが最後の周回であってほしいと願った(私はもう走りたくなかった笑)。

願い虚しく残り4分のところで宮田氏が交代のためピットイン。最後の周回を託された。

足がパンパンに張っているのを感じながら最後の力を振り絞ってコースへ飛び込む。相変わらず何位を走っているのかはわかっていなかったが、全力で走れば後で後悔することもないだろう。

  • 思わずガッツポーズでゴールする筆者

    思わずガッツポーズでゴールする筆者

足が攣りそうになりながらも最後までペダルを回し続けてなんとかゴール。皆んなが拍手で迎えてくれて無事に走り終えることができた。

後半は手応えがあったので、もしかしたらギリギリで表彰台に?! という期待を言葉にせず飲み込んだ。

結果発表と表彰式

こちらのイベントではレース終了後すぐに豪華な食事が用意されており、身体のリカバリーには十分すぎるほどだった。

食事をしながら他のチームメンバーとレースを振り返りながら会話が盛り上がり、楽しいひと時を過ごすことができた。

食事を済ませた後、結果発表と表彰式へ。

  • 3人チームの表彰式1位の恵庭レーシングさんとはレース中、抜きつ抜かれつの接戦だった

    3人チームの表彰式1位の恵庭レーシングさんとはレース中、抜きつ抜かれつの接戦だった

いよいよ二人チームの発表だったが、3位、2位で名前が呼ばれない。「今回も逃したか」と思った次の瞬間、優勝チームとして呼ばれたのは我々のチーム名「Still Steel」であった。「え? マジ?」と声こそ出なかったが宮田氏と顔を見合わせた。

  • 念願の表彰台で宮田氏と筆者記念撮影「Still Steel」

    念願の表彰台で宮田氏と筆者記念撮影「Still Steel」

目標だった表彰台、しかも1位という結果は素直に嬉しかった!(総合では4位)

競技志向ではない我々だが、優勝という経験は今後の活動において大きな影響があるかとおもう。

SNSで応援してくれたみなさん、一緒に走ってくれた皆さん、イベント運営の皆さん、ありがとうございました!!

この場をお借りして感謝を伝えたいと思います。

美唄スノーサイクルレース

美唄スノーサイクルレースは今年で6回目となるイベントで、自転車で街を盛り上げたいという市の意向と運営会社(SLmedia様)がタッグを組んで始まったものだ。

冬季間に行われる数少ない自転車イベントであり貴重な体験ができる。特にファットバイクは雪の上で走ることを前提に開発された自転車であり、その性能を存分に発揮させるには最良の機会ではないだろうか。

このイベントは来年も行われるとのことなので、もし雪の中を自転車で走ってみたいと、興味のある方がいればぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。きっと今までにない経験ができるはずだ。

イベント情報