11月20日、一般財団法人 日本造船技術センター(以下、SRC)は、国土交通省 中国運輸局の後援を受け、令和7年度SRC技術セミナーをホテル広島ガーデンパレス(広島市)で開催した。平成24年(2012年)より広島にて開催されている同セミナーは、舶用工業の最新情報の発信を通じ、造船技術および海事産業の発展に貢献することを目的にしている。今回は、最近の海事政策の動向に関する基調講演に加え、4つの技術講演が行われた。その模様をレポートする。

  • 11月20日、一般財団法人 日本造船技術センター主催「令和7年度SRC技術セミナー」が広島で開催された

    11月20日、一般財団法人 日本造船技術センター主催「令和7年度SRC技術セミナー」が広島で開催された

基調講演「最近の海事政策の動向」

基調講演「最近の海事政策の動向」の講師を務めたのは、国土交通省 海事局 船舶産業課長 吉田 正則氏。公務の都合により、急遽リモートでの登壇となった。

まず吉田氏は、造船を取り巻く世界情勢として、造船分野において顕在化する経済安全保障上のリスクについて警鐘を鳴らした。海外輸送量の増加や過去に大量に建造された船舶の代替需要などにより、2030年代には8,000万から1億総トン規模まで建造需要が増加していくと予測されている中、日本の建造能力が減少している。その反面、中国の2024年の受注量は世界全体の7割を超えていると指摘した。

  • 国土交通省 海事局 船舶産業課長 吉田 正則氏による基調講演「最近の海事政策の動向」

    国土交通省 海事局 船舶産業課長 吉田 正則氏による基調講演「最近の海事政策の動向」

「2012年以降、中国は『海洋強国建設』を打ち出し、2021年の『第14次5ヶ年計画』では、その加速を掲げている。近年、日本船主による発注量が日本造船所の建造量を上回っており、すでに外航では中国造船所への発注が増加。供給途絶時のリスクが顕在化している」(吉田氏)

一方で、アメリカの造船業の状況を見てみると、商船の建造シェアは世界の0.2%留まり、船価も世界平均の4倍以上と生産性が低い。艦艇については年間10隻ペースで建造を進め、2030年までに300隻以上を目指す計画を立てているものの、アメリカの報告によると、アメリカ国内の艦艇建造・修繕能力が低下傾向にあると認識していると、吉田氏は明かした。そんな中、トランプ大統領は、2025年4月にアメリカ海事分野の支配力の再生に向けた大統領命令を発出。同年10月には日米造船協力に関する覚書(MOC)が締結され、金子国土交通大臣とラトニック商務長官が署名した。吉田氏は、こう解説する。

「双方のニーズを捉えながらどのような協力ができるのかを検討するため、造船協力や海事産業発展に関する会議体を設置することになった。また、協力分野のひとつには、AIやロボットといった先進的な建造技術の共同開発・実装も盛り込まれている」(吉田氏)

ただ、国際海事機関(IMO)における新たなGHG(温室効果ガス)削減対策については、アメリカと足並みがそろっているわけでない。導入スケジュールについては、2025年10月のMEPC(海洋環境保護委員会)で最終採択に至らず、採択のための審議が1年延期となり、後ろ倒しとなった。アメリカなどが反対している現在の条約改正案のままでは1年後も同じ結果になる可能性を念頭に置きながらも、吉田氏は「原則として、現在の条約改正案をできる限り変更することなく、1年後の採択を目指したい」と力を込めた。

このように造船業を取り巻く世界の情勢が複雑な様相を呈している今、2025年6月には、自由民主党 海運・造船対策特別委員会と経済安全保障推進本部が合同で、「我が国造船業再生のための緊急提言」を当時の石破総理に提出した。「日本の船は日本で造り日本で持つ」「世界を牽引する確たる地位の確保」「海事クラスターの中核で国と地方を支える」を「あるべき姿に」に据え、国主導で1兆円以上の投資を可能とする基金の創設や、造船人材の確保・育成などが提言されている。

「高市新総理も経済成長分野のひとつに造船を明確に挙げている。日本成長戦略会議においても、造船業の自律性と有意性を確保するため、『造船再生ロードマップ(仮)』を策定し、大胆に支援していくという話があった。安定供給確保のためには、2035年に現在の船舶建造能力(907万総トン)から1,800万総トンまで倍増させる必要がある」(吉田氏)

現在の具体的な取り組みとしては、ゼロエミッション船等の建造を促進したり、経済安全保障推進法に基づく措置として船舶用機関やプロペラ、航海用具を特定重要物資に指定して供給を支援したりしている。他、造船のDXオートメーションによる省人化推進や、経済安全保障法に基づく重要技術育成プログラム(Kプログラム)においてバーチャル・エンジニアリングを導入するなど、先進的な取り組みも進んでいる。また、地域単位での産学官連携による造船人材の育成プロジェクトとして、大阪大学や愛媛大学、呉市などの事例が目立つという。

吉田氏は「造船が注目を集めている状況を機会と捉え日本の船舶業の発展を促していきたい。国としても責任を持って取り組んでいく」と述べ、基調講演を締めくくった。

海事産業の最新技術を紹介する4つの技術講演

基調講演に続いて、4つの技術講演が行われた。

電気推進タグボートの開発~日本海事産業を取り巻く諸課題の解決に向けて~

講師を務めたのは、日本郵船株式会社 技術開発グループ プロジェクトエンジニアリングチーム 小大塚 直樹氏。気候変動に対するひとつの解としてバッテリー搭載船を挙げ、電気推進タグボートの開発状況を紹介した。

IHI原動機のカーボンニュートラルに向けた取り組み~持続可能な未来へ向けた技術革新と挑戦~

講師を務めたのは、株式会社IHI原動機 舶用事業部 副事業部長 元田徹氏。脱炭素社会に向けた舶用業界の動向を示したうえで、アンモニア燃料機関やガス燃料機関といったIHI原動機の脱炭素技術を紹介した。

造船工場のモニタリングは何故必要なのか?~AI時代における造船工場の革新に向けて~

講師を務めたのは、東京大学大学院工学系研究科 人工物工学研究センター 教授/博士(工学)青山 和浩氏。労働資源環境が激変していることを踏まえ、造船DXの手法を解説しつつ、建造革新の必要性と期待を語った。

設計データを活かす、その先へ~共有型デジタルツインの社会実装に向けた新たなステージ~

講師を務めたのは、一般財団法人 日本海事協会 デジタルトランスインフォメーションセンター 主管 長 俊寿氏と、NAPA Japan株式会社 リードテクニカルコンサルタント 遥山 誠氏。設計データと運航データを連携する「共有型デジタルツイン」構想を披露し、そのユースケースを紹介した。

最後に、SRC 試験センター技術部 部長代理 新郷 将司氏が登壇。「実海域性能評価の取組み~本当の推進性能を考える~」と題してSRCの取り組みを紹介し、本セミナーは幕を閉じた。