全国内航タンカー海運組合は、国立清水海上技術短期大学校(以下、清水海技短大)の学生を対象に、内航タンカーの見学会と、船会社によるタンカー説明会を10月21日に静岡・清水にて開催した。

  • 静岡・清水にて、全国内航タンカー海運組合主催のタンカー見学会が国立清水海上技術短期大学校の学生を対象に行われた

    静岡・清水にて、全国内航タンカー海運組合主催のタンカー見学会が国立清水海上技術短期大学校の学生を対象に行われた

内航タンカーで働く自分をイメージ

富士山を望み、駿河湾に面する静岡・清水港。今回、同じく清水に拠点を構える清水海技短大より、未来の船員を目指して学ぶ1年生85名が同会に参加した。学生たちにとって、リアルな職場を見る貴重な機会と言えるだろう。

海運会社462社が加盟する全国内航タンカ-海運組合では、学生が船員として働くイメージをより具体的にし、就職後のミスマッチを防ぐ場として全国でタンカー見学会・説明会を行っている。2025年は、9月に松山、10月に小樽でも開催した。

  • 総トン数3,854G/T、全長104.93mの5,000kl型白油タンカー「きんれいか」

    総トン数3,854G/T、全長104.93mの5,000kl型白油タンカー「きんれいか」

今回の見学先は、上野トランステックが運航する5,000kl型白油タンカー船「きんれいか」。総合物流企業・上野グループの中核を担う上野トランステックは、タンカーによる石油や石油化学製品の海上輸送を中心事業とする企業だ。危険物を含む貨物の輸送を行う内航タンカーでは、安全な輸送と荷役が最重要とされる。今回の見学会では、"完全無事故"を目指すための様々な取り組みも見られた。

  • 清水港袖師第一ふ頭に係留されている「きんれいか」に学生たちが乗り込んでいく。

    清水港袖師第一ふ頭に係留されている「きんれいか」に学生たちが乗り込んでいく。

まずはデッキで荷役の流れについて説明を受ける。きんれいか内の貨物の流れを表すライン図を見ながら、「貨物の積み下ろしを行う際、陸上の設備と船側の設備をつなぐ"マニホールド"、このライン図上ではどこでしょう?」とクイズのような問いかけが。

  • 船内の貨物の流れを図示するライン図。マニホールドはどこだろう……

    船内の貨物の流れを図示するライン図。マニホールドはどこだろう……

  • デッキ上にある実際のマニホールドはこれ!

    デッキ上にある実際のマニホールドはこれ!

ライン図と実際のマニホールドを見比べたり、船内の荷役制御室(COC/Cargo Oil Control room)と実際に無線通信をしながら、タンクにつながるバルブを開閉する様子の実演もされた。主な操作は荷役制御室で行っているが、現場の状況と合っているか、計器が壊れて想定外の動作をしていないかなど、常に現場と連携して安全確認をしながら進めていく。

  • 「COCどうぞ」制御室と無線で連携し、バルブが開閉される。

    「COCどうぞ」制御室と無線で連携し、バルブが開閉される。

続いて船内の居住区へ。内航船員は約2~3カ月間乗船して勤務し、約20日~1カ月の休暇を取るスケジュールで働くので、居室の過ごしやすさは重視したいポイントだ。「めっちゃ楽しみ!」と覗き込む学生たち。

デスク、冷蔵庫、ベッド、洗面台などが備わった個室は想像よりも余裕のある広さだ。さらに執務室とベッドルームが分かれている一等航海士や船長の部屋を見てテンションが上がっている様子。女子学生は洗濯機や風呂が完備された女性船員用の部屋もしっかりチェック。

階段を上がって操舵室(ブリッジ)に向かう。操舵スタンドやフィーダーコンパス、レーダー、電子海図などの機器類や業務内容の説明をする船長の話を、真剣な表情で聞く学生たち。

「学校で自差曲線を習っていると思います。船でも定期的に測っていて、実践でも使えるので覚えておいてください」「国際信号旗は海技試験のテストに出ることも」と、学校で習っていることが実際の船の仕事に繋がるというアドバイスも行われた。

  • アプリと連動して顔写真と計測値が自動保存されるアルコール検知器も。徹底した安全管理が行われている

    アプリと連動して顔写真と計測値が自動保存されるアルコール検知器も。徹底した安全管理が行われている

続いて、荷役制御室に向かう。ここは先ほどデッキでバルブを開閉する際に通信していた場所だ。船内の様子がわかるモニターが並ぶなか、一等航海士と二等航海士による説明を受ける。

「きんれいかが運ぶ貨物は、ハイオク、レギュラー、灯油、軽油、それから7月まではジェット燃料を空港に運ぶ仕事もしていました。荷物の積み下ろしを行う際は、デッキと連絡を取り合い、油圧バルブを管理する画面を見ながらバルブのロックを解除します」。そして今度は荷役制御室からデッキのバルブを操作する様子も実演した。

  • 「333 オープンします」「開放よし!」と実際にやりとりする体験も

    「333 オープンします」「開放よし!」と実際にやりとりする体験も

次にエンジンの大きな音が響くエンジンルームへ。ここでは船のエンジンを管理する機関長と、一等機関士、二等機関士の3名からなる「機関部」の先輩たちから説明を受ける。機関部は朝8時から夕方5時まで勤務し、エンジンの点検、ミーティング、整備作業、そして異常がないことを確認して退勤というのが一日の流れだという。もちろん夜間にエンジンのトラブルがあれば、すぐに対応する。

一等機関士の方は、一度社会人を経験してから船員になったそう。「元々陸上でサービスエンジニアの仕事をしており、船の仕事に興味を持って入社しました。学んだことを活かして、船の世界に来てくれると嬉しいです」と、働いている先輩のリアルな声を聞けるのも見学会の醍醐味だ。

見学者のなかには機関士を志望する学生もいた。「エンジンは難しい印象もあるかもしれませんが、いきなり覚えるものではありません。段階的に覚えていくと、様々な知識が身について楽しくなるし、トラブルも解決できるようになります」と機関長から激励の言葉も贈られた。

  • エンジンや、様々な工具が並ぶ作業場も見学する

    エンジンや、様々な工具が並ぶ作業場も見学する

最後に食堂とギャレー(調理室)を訪れる。「きんれいか」に乗船する船員13人の食事は、司厨長が決められた予算の中で食材を購入し、レシピを決め、毎日3食分を作る。この日の昼食はラーメン。海上という場所柄、波の影響を受けて揺れることもあるが、揺れが落ち着いているときは麺類も提供するそう。ちょうどお昼時だったため、手際よく作られる料理に学生たちも興味津々の様子だった。

  • ギャレーにて、船員の昼食を調理する司厨長

    ギャレーにて、船員の昼食を調理する司厨長

  • 見学が終わった後は、上野トランステックの会社説明が行われた

    見学が終わった後は、上野トランステックの会社説明が行われた

海運業者28社の企業紹介も実施

タンカーの見学会を終えた後は、清水海技短大にて海運業に携わる企業28社による学校訪問企業紹介を実施。タンカー船やケミカル船を扱う企業が一堂に会し、自社の紹介や学生たちからの質問に答えた。

  • 国立清水海上技術短期大学校(清水海技短大)

    国立清水海上技術短期大学校(清水海技短大)

「業界的に人不足が問題になっていますが、実際のところどうでしょうか」という学生からの質問には、「足りていません。現状で仕事が回ってはいますが、今働いている年配の方が引退されたときの問題があるので、若い力を求めています」(甲斐機船)と、各社から現場の声が返された。

  • 「新人研修はどのくらいの期間なのか?」「タンカーで働く際、危険物取扱者の資格は必要なのか」「社会人経験のある学生の採用は?」等、学生から様々な質問が寄せられた

    「新人研修はどのくらいの期間なのか?」「タンカーで働く際、危険物取扱者の資格は必要なのか」「社会人経験のある学生の採用は?」等、学生から様々な質問が寄せられた

「タンククリーニングは機関士もやりますか?」というタンカーならではの質問に対しては「全員参加で、機関士も行います。タンカーは油の種類が変わったら、ケミカルタンカーは毎航海ごとにクリーニングを行いますが、防護服を着るなど危険のないようにしていますし、手当も出ますよ」(大光船舶)。

また、船員を目指す女子学生からの質問も寄せられた。「女性船員はタンカーでどう働いているのか?」という質問には「男女で仕事を分けている訳ではなく、一人一人の能力に合わせており、女性の甲板員も機関士もいます。活躍したいという本人の意志さえあれば上をどんどん目指せる環境です」(幸洋汽船)、産休を取得できるかという質問に対しては、「各社しっかりと制度があります。弊社では育休を取っている男性船長もいます」(三興運油)と回答。

  • 「休暇と給料、どちらを重視する?」という質問には、「休暇」と回答する学生が多い傾向に

    「休暇と給料、どちらを重視する?」という質問には、「休暇」と回答する学生が多い傾向に

また、企業側からの質問も。「希望する船種を教えてほしい」という質問では、一番人気がタンカー船、続いてタグボートという結果に。「3カ月乗船して1カ月の休暇、2カ月乗船で20日休暇、1カ月乗船、日帰り、どれを希望する?」「デッキとエンジン、どちらを希望する?」など、学生側のリアルな考えを企業が受け止めるワンシーンもあった。

内航海運の現場では、就職後のミスマッチが大きな課題となっている。今回行われた見学会と企業紹介でも、業界の理解を深め、自身のキャリアや働き方とマッチした企業と出会おうとする学生たちの真剣なまなざしが印象的だった。