日本製鉄は、日本最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2025」(2025年10月31日〜11月9日)で、ブリキ素材の価値を再発見する「ブリキのリデザイン展」を開催している。

飲料缶や缶詰といった容器用途で長く親しまれてきたブリキは、この10〜20年で人口減少や他素材(ペットボトルやアルミなどの素材)への置き換えが進み、市場は直近30年で約4分の1まで減少している。

そうした中、日本製鉄はブリキの特徴である“薄さ・軽さ・加工性・輝度"をデザインの力で引き出し、内装材や家具といった新しい領域へ拡張する試みを進めている。

  • 日本製鉄が「ブリキのリデザイン展」を開催

    日本製鉄が「ブリキのリデザイン展」を開催

デザインの力でブリキを新しい用途へ

ブリキは鋼板に錫(すず)をめっきした素材で、厚さ0.14mmからという鉄鋼製品の中でも最も薄い領域に位置しており、軽くて加工しやすい。鉄は、磁力による分別も容易なため、品質を落とさず何度でもリサイクルできるのが特長だ。

環境優位性が非常に高い鉄素材のブリキだが、マーケットの環境変化により縮小してしまった容器の需要を回復させるのは容易なことではない。

こうした現状を踏まえ、日本製鉄では「容器以外の分野でブリキの価値を再発見できないか」という発想から新たな挑戦を始めた。それが、2023年にATSUHIKO YONEDA DESIGNとの共同企画でスタートした「ブリキのリデザイン展」である。

  • 「ブリキのリデザイン展」展示会会場の様子

    「ブリキのリデザイン展」展示会会場の様子

初年度の2023年は、ブリキの軽さ・輝き・加工性といったポテンシャルを感じてもらう展示を実施。来場者からは「意外に軽い」「輝きがいいよね」といった声が寄せられた。翌2024年には、それらの意見を踏まえて内装パネルなどへの応用に踏み込み、実際に大阪・関西万博のコロンビア館内装材にも採用される成果へとつながった。

そして3年目となる2025年は、テーマを「造形思考」とし、企業のインハウスデザイナーやアーキテクトがプロジェクトに参画。壁面や容器に加え、家具やインテリアなど、ブリキのさらなる可能性を探求した展示会となった。デザインを通じて、ブリキの社会実装に向けた議論を広げることを目指している。

展示ハイライト

今回の「ブリキのリデザイン展」には、オカムラ、キヤノン、日建設計、三菱電機、ATSUHIKO YONEDA DESIGNといった、さまざまな業種の企業が参画した。

各企業は日本製鉄が提供するブリキ素材を使い、それぞれの専門領域から、家具、内装壁、また空間をデザインするといった“ブリキの新しい使い方"を提案した。

「en」・「CONI」/オカムラ

「en」は、ブリキを使って空間全体を円でデザイン。曲面における光の反射や周囲環境の写り込みの美しさに着目している。

  • 「en」/オカムラ

    「en」/オカムラ

「CONI」は、ブリキの薄板を巻き上げ、脚構造として使用した家具シリーズ。0.2mm厚という薄く軽やかなブリキを円錐状に巻き上げることで、金属光沢の美しさと構造的な強度を両立させている。

  • 「en」/オカムラ

    「CONI」/オカムラ

オカムラでは、スペースデザイン部とプロダクトデザイン部が、この展示をきっかけに協働し、社内連携を深める契機にもなったという。

「Continuous」・「Loop」/キヤノン

「Continuous」は、白色ラミネートと金属光沢のブリキシート材を使い、構造体としての強度と、しなやかな紙のような美しさを同時に実現している。

「Loop」は、ブリキ缶の素材で作られた大小さまざまな円筒をフレームに組み込んだインテリア家具。自然なカーブを描き、美しく変形して絶妙なバランスで荷重を支える構造が生まれた。

  • 「Continuous」(左)とLoop」(右)/キヤノン

    「Continuous」(左)とLoop」(右)/キヤノン

「ULMHS Table(Ultra-thin Layered Metal Heading Structure Table)」/日建設計

キャベツの結球構造から着想を得たテーブル。0.15mm程の極薄板が持つ「たわむ」という特性を活かし、立体化することで全体に高い剛性を持たせている。造形の美しさと強度を両立したデザイン。

  • 「ULMHS Table(Ultra-thin Layered Metal Heading Structure Table)」/日建設計

    「ULMHS Table(Ultra-thin Layered Metal Heading Structure Table)」/日建設計

「METAL SKIN_CUP」・「Tin for fruit」/三菱電機

「METAL SKIN_CUP」は、ブリキの熱伝導性と軽さを活かしたカップ。「注がれたビールの冷たさを指先から感じ、飲み干す。」そんな体験を共有することの大切さから着想を得た作品だ。

「Tin for fruit」は、果物を外へ持ち運んだり誰かに贈ったりするシーンを思い描いてデザインされた容器。イチジクなど傷みやすい果物を包む発想から生まれた。

  • 「METAL SKIN_CUP」/三菱電機

    「METAL SKIN_CUP」/三菱電機

  • 「Tin for fruit」/三菱電機

    「Tin for fruit」/三菱電機

「HYOGU」/ATSUHIKO YONEDA DESIGN

ブリキの上にラミネートを施した作品。高度上空の飛行機から眺める夜明け前の空のような、どこまでも広がる空間のような感覚をテーマとしている。

内装仕上げの領域は主に紙素材で仕上げるのが一般的だが、ブリキという薄板素材を用いることで、新しい表現の可能性を示した。

  • 「HYOGU」/ATSUHIKO YONEDA DESIGN

    「HYOGU」/ATSUHIKO YONEDA DESIGN

今後の展望と期待

日本製鉄では、2050年のカーボンニュートラル社会の実現を見据え、鉄がもともと持つクローズドループ(再資源化を繰り返す循環構造)出来るポテンシャルを活かし、ブリキの更なる可能性を追求する活動「リデザイン」を進めている。

担当者は「今後はブリキを日本製鉄のブランディングメタルシリーズに加え、さまざまなニーズに応えていきたいと考えています」「日本製鉄だけでなくグループ各社とも連携し、複合的に商材を展開していくような展示会があっても面白い」と今後の展望と期待を語った。

ブリキは、これまで容器など限られた分野で使われてきた素材だが、こうした取り組みを通じて新しい需要を生み出す可能性が見え始めている。

日本製鉄は、素材メーカーとしてブリキの新たな活用のかたちを引き続き探っていく考えだ。