戦後まもなく創部し、日本代表クラスの選手を多数擁するラグビークラブ「東芝ブレイブルーパス東京」。リーグワン発足以降、「世界有数のユニークなラグビークラブ」を掲げ、観戦演出から経営スタイルまで独自の進化を遂げてきた。そんな彼らが今、新たな挑戦として打ち出したのが、開幕戦イベント「ONE FESTIVAL」である。
イベントは「4万人を味の素スタジアムに集める」という大胆な目標のもと、「ONE」をテーマにした6つの企画を軸に展開。中でも注目を集めているのが、ラグビー界初となる「ドッグシート」の導入だ。
愛犬とともに試合を楽しめる空間を実現し、ファン層の拡大と新たな観戦文化の創出を目指す東芝ブレイブルーパス東京。今回は仕掛け人である東芝ブレイブルーパス東京の望月雄太さんとマイクロオーナーズ代表の藤澤佳穂さんに、その仕掛けの背景や狙いについて話を伺った。
伝統のチームが掲げる「日本一ユニークなラグビークラブ」という挑戦
――まずは東芝ブレイブルーパス東京がどのようなチームなのか、改めてご紹介いただけますか?
望月さん:東芝ブレイブルーパス東京は、創部75年以上の歴史を持つ非常に伝統あるチームで、リーチ・マイケル選手のような日本代表クラスの選手も多数所属しています。東芝府中ラグビー部を前身とし、2021年からは新リーグ「リーグワン」の発足に伴い「東芝ブレイブルーパス東京」として地域に根ざしたチーム名に変更しました。
また、リーグワン発足時、ブレイブルーパスはいち早く事業化に踏み切り、「東芝ブレイブルーパス東京株式会社」として運営するようになりました。当時の荒岡義和社長が「世界有数のユニークなラグビークラブを作る」という目標を掲げ、他チームがバスケットボールやサッカーをモデルにする中で、我々は独自のラグビー演出を追求してきました。
――「世界有数のユニークなラグビークラブ」を目指すうえで、具体的にはどのような取り組みをしてきたのでしょうか?
望月さん:たとえば、スクラムのコンタクト音などを会場に届ける「リアルグラウンドサウンドシステム」を導入したり、観客の声援をグラウンドに届けるための施策(メガホンの配布やビジョンでのコール浸透)を行ったりしています。
藤澤さん:昔は親会社からの広告費で運営されるチームが多かったのですが、今は事業会社として利益を出すことが求められます。東芝ブレイブルーパス東京は「日本で一番ユニークなチーム」を目指していますが、それだけの覚悟を持って健全な事業経営を目指しているんですね。
――ドラマにもなった、池井戸潤さん原作の『ノーサイド・ゲーム』を思い出しますね。
藤澤さん:まさに『ノーサイド・ゲーム』の撮影の舞台となったのが東芝ブレイブルーパス東京のグラウンドですし、「本社からの出向でラグビーを知らない社長がチームを立て直す」という物語もブレイブルーパスの状況が酷似していたりと、まさにドラマのようなチームなんですよ。前の荒岡社長もラグビーを全く知らないところからチームを立て直し、2連覇を達成するなど、ファンからも強く愛される存在となりました。
開幕戦を「ONE FESTIVAL」に! 4万人動員を目指す
――それでは本題に入りますが、「ONE FESTIVAL」開催の経緯と目的について教えてください。
望月さん:リーグワンの動員数を見ると、昨シーズンは上位12チーム中10チームで平均観客数が減少したんですね。その中で唯一、平均観客数を微増させたのが我々だったんです。しかし、サントリーやパナソニック、トヨタといったチームが3万人を超える観客動員を達成しているなか、我々はまだそこに達していませんし、2連覇中の王者としてこの現状に甘んじるわけにはいかないという危機感がありました。
そこで、今回の開幕戦の対戦相手がリーグワン初代王者の埼玉パナソニックワイルドナイツという最高のカードであることも踏まえ、「味の素スタジアムに4万人の観客を入れる」という目標を立てました。これは、社長が優勝パレードで宣言したことなのですが、私自身も非常にワクワクする取り組みだと感じています。
――4万人の観客動員は、壮大なプロジェクトですよね。
望月さん:4万人という目標は、2019年ワールドカップ時の味の素スタジアムの観客数に近い数字で、これを達成することで我々のチームだけでなく、ラグビー全体の盛り上がりを示す責任があると考えています。これが「ONE FESTIVAL」のスタート地点です。
藤澤さん:リーグで一番の観客動員を目指す中で「ONE」という言葉は、2連覇中の今だからこそ使える「1番」「1位」「トップ」といった意味合いを持つと考えました。我々のファンの方々の愛称も「ワンルーパス」であることから、この「ONE」という言葉はチームと非常に親和性が高いと判断し、プロジェクトを進めることになったんです。
――なるほど。それでは「ONE FESTIVAL」の具体的な内容と特徴を教えてください。
望月さん:「ONE FESTIVAL」では、6つの「ONE」を柱に様々な企画を展開します。一つ目は「“日本一”のキッチンカーの大集合」。来場者の方に満足していただくうえで、飲食は外せない要素です。ただ呼ぶだけでなく、「キッチンカーフェスティバル優勝」「金賞」など、何かしらの「1番」の肩書を持つキッチンカーを50台集めます。
二つ目は「“日本一”のラグビーの試合」。リーグワン王者同士の対決である東芝ブレイブルーパス東京vs埼玉パナソニックワイルドナイツ戦は、日本で最もレベルの高いラグビーの試合になることは間違いありません。
三つ目の「“日本一”のラグビー体験」は、見るだけでなく、実際に体験することで、より深くラグビーを楽しんでもらうための施策です。現役の選手やOBが指導にあたり、スクラム、パス、キックなど20種類以上のラグビー体験ができる大規模なものとなります。普段、ボールに触れる機会の少ない方々が体験することで、ラグビーの見方が変わると期待しています。
そしてこれは少しコアな情報なのですが、四つ目として「“世界No.1”の司令塔リッチー・モウンガのラストシーズン」。世界No.1のリッチー選手が今シーズン限りでチームを離れるため、彼のラストシーズンとなるんです。あとは「“日本一”愛のあるファンが作り出す温かい雰囲気の会場」。2連覇を支えたワンルーパスが作り出す熱気を、会場全体で感じていただきます。
そして最も注目していただきたいのがラグビー界初、東京のスタジアム初となる「“ワン”(=犬)ちゃん用シート」の設置です。
愛犬と一緒にラグビーが観戦できる! 日本ラグビー界初「ドッグシート」登場
藤澤さん:私はマイクロオーナーズという会社でプロスポーツチームのマーケティングや営業支援を行っていますが、実は今回の「ドッグシート」のアイデアは私が以前から温めていたもの。ラグビーのゴールポスト裏は観客が少なく、空席になりがちなのですが、ここで何かできないかと考えました。
以前、メジャーリーグで大谷選手の愛犬のデコピンが始球式をしたのを見て、アメリカのフラットなカルチャーに感銘を受けたのですが、そのときに「日本でもペットと人が一緒に楽しめる空間を作れないものか」と思ったのがきっかけです。
――確かに日本はリスクヘッジの意味からも、犬の同伴が難しい施設が多いですよね。
藤澤さん:そうなんです。味の素スタジアムに相談したところ、最初は驚かれましたが、なんとか承諾を得ることができました。味の素スタジアムさんの柔軟性には本当に感謝ですね。おかげさまで「ルーパス(狼)」というチーム名も相まって、「狼が新しいファミリー(愛犬)を連れてきた」というストーリーも生まれました。東京のスタジアムとしては初、もちろんラグビー界でも初の試み。他スポーツでは野球の日本ハムさんが同様の取り組みをしていますが、味の素スタジアムで実現できることには大きな意義があると考えています。
望月さん:「ONE FESTIVAL」では、さまざまな「初めて」を仕掛けています。ラグビーファンでなくても、愛犬の散歩ついでにキッチンカーで食事し、そのままラグビーを観戦してもらうなど、来場するきっかけはどんなものでも良いと思っています。まず会場に来て、ラグビーというスポーツに触れてもらうことが重要なんです。
――日本ラグビー界で初のドッグシートということで、反響も大きいのではないでしょうか?
望月さん:そうですね。不安の声と喜びの声の両方が寄せられています。不安を感じる方々には、「ドッグシート」は専用エリアを設け、通常の観客席とは明確に動線を分けることで、犬が苦手な方にも安心してご来場いただけるよう配慮しています。抱っこしていればキッチンカーなどの利用も可能ですが、基本的には混在しないよう運営します。
一方で、「犬を置いていかなくてよくなった」「こんな企画を待っていた」と涙ながらに喜んでくださる方も多く、大きな反響を感じています。
子どもたち2万人を無料招待!? 未来のファンを育てる取り組み
――日本では「愛犬と一緒にスポーツ観戦できる環境」など、ほとんど皆無ですからね。実際、会場への移動も大変ではありそうです。
望月さん:それについてはドッグシート専用の駐車場を300台分確保し、チケットとセットで販売する予定です。「ONE FESTIVAL」では10kg以下のワンちゃんと試合観戦ができます。また京王電鉄も協賛パートナーになっていますが、京王電鉄ではキャリーバッグなどに入れた状態で10㎏以下の子犬であれば、電車に乗車することも可能です。
ドッグシートの客席では、通常の1席分のスペースではなく、犬1匹と人1人に対して3席分のスペースを確保することで、犬同士の相性なども考慮し、ゆったりと観戦できるような配慮をしています。現在、2,000席から3,000席程度のドッグシートを用意する予定となっています。
――すごい規模ですね! ちなみに、「ONE FESTIVAL」に合わせて、グッズの展開や今後の展開などはありますか?
望月さん:現在準備中ですが、開幕戦のドッグシートに合わせて、犬用のユニフォーム、首輪、リードといったオリジナルグッズを販売する予定です。
藤澤さん:ワンちゃんと一緒に撮れるフォトスポットについても検討中で、選手やOB、マスコットキャラクターのルーパス君と一緒に写真が撮れるようなブースを、クライアント企業の協力も得ながら用意できればと考えています。
――それが実現できれば、すごくいい思い出として残りそうですね。
望月さん:「ONE FESTIVAL」の集客という点では、目標である4万人の達成に向けて、東京都庁に協力を依頼し、都内全ての小学校を対象とした2万人招待企画も実施します。小学生1名と保護者1名を無料で招待し、ラグビーを見たことのない子どもたちに、ラグビーというスポーツを体験してもらう機会を提供します。これは我々にとっても過去最大規模の招待企画であり、今後のラグビーファン層の拡大、特にファミリー層の獲得を目指しています。
藤澤さん:集客目標達成のために、ドッグシートやキッチンカー、子どもたちの招待など、様々なフックを設けています。たとえば、愛犬と一緒にお出かけする場所がなくなってきている人が、たまたま「ONE FESTIVAL」に来てラグビーと出会う、というようなことでも良いと思っています。来場者に「面白かった」と感じてもらい、人生を少しでも豊かにすることができれば、それが東芝ブレイブルーパス東京の提供する価値だと考えています。
歓声とワン声が混ざり合う。日本ではあまり見られない“ワン”ダフルな光景を、東芝ブレイブルーパス東京が描く。ラグビーファンはもちろん、ラグビーとあまり接点がなかった愛犬家やグルメ好きのみなさんも、12月14日は味の素スタジアムに集合!






