日本初の製薬企業発サイエンスパーク「湘南アイパーク」は、製薬企業のほか、次世代医療、細胞農業、AI、行政など約190社が拠点を置き、共同研究を行う場として2018年に誕生。2021年にはキリンホールディングスも拠点を移し、ヘルスサイエンス領域の研究を行っている。

9月某日には、滋賀県の伝統食「鮒寿司」に含まれる乳酸菌の可能性を探る小学6年生・清水結香さんが、湘南アイパークを訪問。結香さんは乳酸菌の研究に没頭し、日本初の「乳酸菌図鑑」を完成させ、自然科学観察コンクールで文部科学大臣賞を受賞した経歴を持つ。当日は、キリンの研究者らがL.ラクティス プラズマ(プラズマ乳酸菌)について説明し、研究所内の様子も案内して回った。

  • 湘南アイパーク

    湘南アイパーク

■免疫機能の維持に役立つ「L.ラクティス プラズマ」とは

  • 湘南アイパークを訪れた清水結香さん

    湘南アイパークを訪れた清水結香さん

この日はまず、ヘルスサイエンス研究所の城内健太さんがL.ラクティス プラズマに関する研究について概要を解説した。

  • ヘルスサイエンス研究所の城内健太さん

    ヘルスサイエンス研究所の城内健太さん

城内さんはまず、免疫システムの司令塔として機能する「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」の重要性を強調。ウイルスなどの外敵が侵入すると、pDCはそれをいち早く察知し、NK細胞などの免疫細胞に一斉に指令を出して防御体制を敷く。このpDCを直接活性化できる世界で初めて発見された乳酸菌が、キリンの「L.ラクティス プラズマ」である。

L.ラクティス プラズマがpDCを活性化する鍵は、菌体内の「DNA」にあることも明かされた。加熱殺菌された菌体でもpDCを活性化できる理由もここにあり、飲料やヨーグルトだけでなく、サプリメントなどさまざまな商品形態への応用を可能にしているという。

また、非臨床試験によってL.ラクティス プラズマの摂取がウイルス感染による肺炎症状の改善、アンチエイジングへの効果が期待されることを報告。健康な成人を対象にした試験では、インフルエンザの累積罹患率の減少、「咳」や「熱っぽさ」など、風邪インフルエンザ様症状の自覚症状が軽減すること、また小学生を対象とした試験の結果、インフルエンザの罹患率が減少したことなども報告されている。

清水さん母娘からは、「なぜL.ラクティス プラズマだけがpDCに取り込まれやすいのか」「細胞が持つ受容体(レセプター)の仕組みは」といった質問が次々と飛び出し、研究者たちも専門用語をわかりやすく用いながら丁寧に回答していった。

城内さんのプレゼンを受け、結香さんも自身の研究成果を発表した。結香さんは、故郷・滋賀県の伝統食である「鮒寿司」に含まれる約200種類の乳酸菌を「しがきん」と命名。その中にがん細胞を攻撃するNK細胞を活性化させる力が秘められているのではないか、という仮説を立てている。自宅で鮒寿司を漬け、菌を分離・培養し、その性質を図鑑にまとめ、日本初の「乳酸菌図鑑」も完成させた。

  • 自身の研究成果を発表する結香さん

    自身の研究成果を発表する結香さん

発表の中で結香さんは、今後の研究における課題について、「どの乳酸菌が一番NK活性を高めるのか調べる方法がわからない」「がんを治す薬の作り方がわからない」「臨床試験のやり方がわからない」と語り、プロの意見を求めていく。

  • 真剣な眼差しで報告を受けるキリンの研究員たち

    真剣な眼差しで報告を受けるキリンの研究員たち

その真剣な問いかけに、キリンの研究者たちは「菌を培養するときの酸素の有無で菌の種類が変わるかもしれない」「培地の種類を変えてみるのも一つの手」「まず細胞を安全に扱える特別な設備が必要になる」「論文を探すときは、英語で検索すると世界中の研究が見つかる」と真摯に応答。具体的な実験手法から研究の進め方まで、さまざまなアドバイスが送られた。

■研究施設を見学

その後、実際にL.ラクティス プラズマの研究が行われている施設の見学へ。研究者らがまず案内したのは、菌の数を正確に測定する「フローサイトメトリー」という装置が置かれた部屋だ。

研究員が、L.ラクティス プラズマが含まれるサンプルと含まれない製品の測定結果を画面で見せると、その差は一目瞭然。製品に含まれる1,000億個という膨大な数の菌が、科学的な裏付けをもって保証されていることを実証した。

次に、マイナス80℃の超低温冷凍庫が並ぶ部屋へ。ここにはL.ラクティス プラズマをはじめとする貴重な菌株が、未来の研究のために厳重に保管されているという。

顕微鏡の部屋では、グラム染色によって紫色に染まったL.ラクティス プラズマを実際にレンズを通して観察した。その後はサプリメントの試作を行う部屋も訪問。ここには粉末状の原料を顆粒にする「流動層造粒機」や、それを錠剤へと固める「打錠機」など、普段見ることのできない大型の機械が並んでいた。

今回の訪問は、結香さんにとって、最先端の研究に触れ、専門家から直接指導を受ける貴重な機会となったに違いない。同時にキリンの研究者たちにとっても、純粋な探究心と情熱に触れ、自らの研究の意義を再認識する時間となったようだ。

この日プログラムを終えた城内さんは「(結香さんは)自分自身でいろいろ調べられていて、本当にすごい。私たちも気づきがありましたし、すごく楽しい時間を過ごせました」と振り返り、「設備が揃った施設などがあればもっといろんな研究に着手できると思いますし、キリンとしても今後、何か協力できることがあれば嬉しいですね」と語った。

結香さんは、「今まで見てきた研究所とは全く違った。少し大学の研究室に似ていたけど、キリンさんの研究所の方がずっと大きかった。すごく楽しかった」と感想を口にした。