大正製薬が、長寿につながることが期待される栄養素や生活習慣について解説している。
エピジェネティクスと生活習慣の関係
7月25日、厚生労働省が最新の「日本人の平均寿命」を発表した(男の平均寿命は81.09年、女の平均寿命は87.13年)。
数字の上では長生きできる時代になっているが、本当に目指したいのは、「健康で若々しく歳を重ねること」。そのために鍵を握るのが、毎日の生活習慣だが、最近では、遺伝子の働き方に影響を与える「エピジェネティクス(後天的な遺伝子制御の状態)」の視点から、生活習慣と健康や老化の兼ね合いを見つめ直す研究が進んでいる。エピジェネティック(遺伝子的)な変化は、生活習慣や環境によって良くも悪くもなり得る。
たとえば若いうちは、食事や運動でその状態をリセットしやすいとされるが、長年にわたる不摂生やストレスが続くと、その影響が定着しやすくなり、簡単には元に戻らなくなることも。イメージとしては、「遺伝子の上に貼られた付箋紙」。貼ったり剥がしたりして加えたり取り除いたりできる一方で、長く貼られていた付箋の跡が残るように、習慣の長期の積み重ねが解消できない健康障害につながることもある。つまり、早いうちに対策をとることで、より良い状態に戻せる可能性が、科学的にも示されつつある。
50歳以上が後悔した生活習慣とは
同社が2025年6月に全国の50歳以上の男女1,000人を対象に行った調査によると、「若い頃から気を付けておきたかったと後悔、または反省している生活習慣は?」という質問に対して、3割以上が「後悔・反省している生活習慣はない」(319人)と回答しているが、後悔、または反省していることのトップ5は「肌や髪などのエイジングケア」(267人)、「運動習慣(頻度・強度を含む)」(237人)、「喫煙習慣」(169人)、「ストレス状態(人間関係等のストレス環境を放置していた)」(147人)、「食事量が過多だった(食事量・頻度の過多)」(135人)という順になった。
生活習慣が健康にどう影響を及ぼすのか、エピジェネティクスの視点でとらえるとより具体的にその相関を解明できるようになるという。今回、エイジマネジメント研究の専門家で、Rhelixa社の生物学的年齢検査「エピクロックテスト」の科学顧問でもある日比野佐和子医師に、エピジェネティクスの視点で推奨できることを聞いた。
食と生活習慣の重要性、今後さらに明らかに
私たちの遺伝子は、本来もっている「健康を維持するための正しい働き方」を備えている。ところが、長年にわたる不摂生な食生活やストレス、睡眠不足、喫煙などの悪い生活習慣が続くと、その影響が「エピジェネティックな変化」として蓄積され、遺伝子の働きが本来のバランスから乱れてしまうという。これは、いわば"遺伝子のスイッチ"が誤ってオン・オフされるような状態。たとえば、本来ならば活発に働いてほしい細胞修復や抗炎症の機能をもつ遺伝子が沈黙してしまったり、逆に炎症を引き起こす遺伝子が過度に活性化したりすると、病気や老化のリスクが高まることになる。
近年の研究では、特定の栄養素や生活習慣の改善を通じてこのような「エピジェネティクス」を"書き換える"こと、「エピジェネティック・リプログラミング」が可能であることが分かっていきた。これまでの解析から、「魚介類中心の食生活」、「定期的な有酸素運動」、「良質な睡眠環境」が、より若々しいエピジェネティック年齢と相関していることが示されている。つまり、食事や生活環境を意識的に整えることが、遺伝子レベルでの老化防止や健康維持につながることが、今後遺伝子レベルで明らかになるという。
長寿につながることが期待される食事とは
長寿を目指すなら、まずはバランスの良い食事が土台となる。なかでも、地中海沿岸地域の伝統的な食生活「地中海食」は、世界中の研究者がアンチエイジング対策として推奨している。
地中海食は、魚介類、オリーブオイル、ナッツ類、野菜、果物、全粒穀物、豆類などを中心に構成され、赤身肉や加工食品は控えめ。こうした食事スタイルは、良質な脂質や食物繊維、そして多様なポリフェノールを豊富に含んでおり、細胞レベルでの炎症や酸化ストレスを抑える効果が期待されている。
実際にスペインで行われた大規模な臨床研究では、魚介類を頻繁に摂り、赤肉・加工肉は週1回未満に抑え、毎日30gのナッツ、大さじ4杯のオリーブオイル、全粒穀物を主食にすることで心血管疾患の予防効果が得られると実証された。
魚、イカ、タコ、ホタテなど魚介類に豊富に含まれる「タウリン」は、細胞の浸透圧を整え、自律神経を安定させるとともに、強力な抗酸化作用も発揮する。さらに、美容医療などでも注目される「L-システイン」や「グルタチオン」は、体内の抗酸化環境を高め、ターンオーバー(細胞の生まれ変わり)を整える働きがある。これらは肌の再生を促し、老廃物の排出(デトックス)を助けることで、内側からの美しさにもつながる。サプリメントや点滴などで取り入れられるほか、レバー、ブロッコリー、アボカドといった食品にも多く含まれている。
オリーブオイルには抗酸化作用の高い「ポリフェノール」と「オレイン酸」が含まれ、細胞の老化を防ぐ。ナッツ類(特にくるみやアーモンド)は、ビタミンEやマグネシウムなどを豊富に含み、抗酸化・抗炎症作用に期待できる。
野菜や果物には、ビタミンCやカロテノイド、葉酸が含まれ、細胞の修復や免疫強化に貢献する。特に果物に多いポリフェノールは、エピジェネティックな遺伝子発現のコントロールにも関与していると考えられている。
全粒穀物は、ビタミンB群や食物繊維が豊富で、代謝や腸内環境を整えることで遺伝子のスイッチの正常化を助ける。また、豆類は植物性たんぱく質や鉄分、イソフラボンなどを含み、ホルモンバランスや抗炎症作用に寄与する。
加えて、サケやサバなどの脂の乗った魚や、きのこ類(干ししいたけなど)、卵黄に多く含まれるビタミンDは免疫調整作用があり、エピジェネティックな変化にも関与することが示唆されている。青魚(サバ、イワシ、サンマなど)やアマニ油、えごま油、チアシードなどが代表的な摂取源であるオメガ-3脂肪酸は、抗酸化作用を発揮する。牡蠣や、大豆製品、カシューナッツに豊富な亜鉛も、傷ついたDNAの修復や免疫調整に不可欠なミネラルといわれている。
ヨーグルト、キムチ、納豆といった発酵食品も、遺伝子の働きを支えるうえで役立つ。乳酸菌やビフィズス菌によって腸内フローラのバランスを整えることで、免疫細胞の7割が集まると言われる腸内環境が整い、免疫力や代謝を安定させる。これらの食品を日常的に取り入れることで、生物学的年齢を若々しく保つ土台が整うと考えられる。
エピゲノムの改善を目指す3つの生活習慣
エピジェネティクスの観点では、食生活のみならず、毎日の行動が遺伝子に与える影響が注目されている。特定の生活習慣は、遺伝子スイッチの"良い方向"への制御に寄与し、生物学的年齢の若返りや病気予防につながると考えられている。ここでは、エピゲノムを改善させることを目指す3つの基本習慣について目安を紹介する。
1.運動
毎日1万歩程度のウォーキングなどの適度な運動は、テロメア(染色体の末端にある遺伝情報を保護する「キャップ」のような役割を持ち、細胞が分裂するたびにこのテロメアは少しずつ短くなり、一定以上短くなると細胞の分裂が止まり、老化や機能低下につながる)の短縮を抑制し、生物学的年齢を若返らせる効果が期待されるといわれている。
2.睡眠
室温は外気との温度差を5℃以内(例:外気35℃なら室温28〜29℃)に設定し、41℃以下の湯船にゆっくり浸かることで副交感神経を優位にして、質の高い深い睡眠を確保できる。
3.環境(ストレス管理)
化学物質を極力排した住環境の整備や、週1回、自分の趣味を取り入れて、楽しいことをしたり、スケジュールを詰めすぎずに自由に過ごすなどのリラックスタイムで気持ちを切り替えることも、ストレスの軽減につながり、エピジェネティックに良い影響を与えることにつながると考えられる。
