7月クールのTBS日曜劇場『19番目のカルテ』で、「総合診療」という言葉を初めて知った方は多いのではないでしょうか。"何科に行けばいいだろう"と悩むこと、ありますよね。ただ、"総合診療って最近よく聞くけど、何で注目されているの?"と思う方もいるのではないでしょうか。そこで、この記事では、「ドラマで扱われたから」ということだけではない、総合診療が注目されている要因を紹介します。
日曜劇場『19番目のカルテ』で松本潤演じる「総合診療医」ってなに?

  • 「何科に行けばいいだろう」と悩むことはありませんか? ※写真はイメージ

高齢化で増加する"複数疾患をもつ患者"、求められる総合診療

ひとつ目の要因は、高齢社会に伴う患者ニーズの変化です。たとえば、論文において、65歳以上の約6割や、75歳以上の約8割が複数の疾患をもたれているとあります。このように、従来からの臓器別・分野別の高度医療に加えて、複数の疾患を抱える患者への対応という点から、総合診療の役割が重視されています。

  • 65歳以上の約6割や、75歳以上の約8割が複数の疾患をもたれている 出典: 内閣府 規制改革推進会議 第11回 健康・医療・介護ワーキンググループ 日本総合研究所 健康・医療政策コンソーシアム意見資料

不調をそのまま伝え相談できる――どの診療科か選ばなくてもよい

総合診療が注目されるふたつ目の要因は、患者にとっての直接的なメリットです。私たちは具合が悪くなったとき、症状によって「何科に行けばいいのだろう?」と迷うことが少なくありません。熱っぽくて、頭痛がしていて、腰の周りも痛い……内科? それとも整形外科? といった具合に判断に迷う経験をされた方もいるでしょう。

実際、日本総合研究所が2024年12月に実施した400名対象のアンケート調査によれば、「身体の不調を感じた際、何科を受診したらよいかわからなかった」という経験がある人は約5人に1人にのぼりました。この結果からも、少なからず多くの人々が自分の症状に対してどの診療科を受診すべきか悩み、「受診迷子」になった経験があることがうかがえます。

  • 「身体の不調を感じた際、何科を受診したらよいかわからなかった」という経験がある人は約5人に1人 出典: 日本総合研究所 「医療制度・医療提供体制に関する意識調査レポート」

また、たとえば、私たちは、内科を受診している際に、仮に足の痛みがあったとしても、それは整形外科に相談するものと考えて言わないようにしている方もいるのではないでしょうか。このように、私たちは、自身の心身の不調を、受診する診療科にあわせて、自らの判断で「分化」していることがあります。ただ、総合診療では、心身の不調をそのまま、感じた通りに、「未分化」のままで伝えることができます。

海外をみると、欧米等では、身近なクリニック・診療所などには、家庭医とも呼ばれる総合診療医がおり、家庭医に相談しやすい環境が整備されています。日本でも総合診療を担う医師が増えれば、私たちは「体調不良時にいつも相談できる先生」をもつ安心感を得られ、何科にいけばよいか迷うことも少なくなります。心身の不調をそのまま相談できる身近な医師の存在は、患者にとって心強い存在となります。

総合診療で新たに見えはじめた「患者と医師との関係性」

そして、3つめの要因には、日曜ドラマ『19番目のカルテ』をとおして、多くの人が求める「患者と医師の関係性」が顕在化されたことが挙げられます。「この先生なら、何でも話せる」――そんな信頼関係を築くことのできる医療のあり方が、今回のドラマで可視化されたように思います。

このドラマでは、私たちがほとんど経験したことがないが、望ましいと思っていた「患者と医師との関係性」が描かれているのではないでしょうか。

ただ患者から伝えられる言葉を基に診察することにとどまらず、患者のふとした行動や発言から違和感を見出し、丁寧なヒアリングを繰り返しながら疾患を見出していく。このような、自身の心身の不調に真摯に向き合ってくれる患者と総合診療医の関係を見て、自分の不調時においても、このような関係性の下で相談したいと思ったのではないかと思います。

従来のように、受診する診療科ごとに心身の不調を伝えるということだけではなく、診療科を意識せずに不調を伝えられる「患者と医師との関係性」を求める声がSNSなどで散見されています。

  • 写真はイメージ

今後の日本における総合診療への期待

以上のように、いま総合診療が注目される背景にはいくつかの要因があります。高齢化で複雑化する患者を包括的に診る役割、患者が診療科を意識せず相談できる存在、そして患者が望む医師との関係性の構築——総合診療は現代の日本の医療に求められるものと言ってもよいのではないでしょうか。

もっとも、総合診療医の専門医制度が始まって数年(初の専門医認定は2021年度)であることもあり、現在その数は決して多くありません。「総合診療医に診てもらったことがない」方が多いのが現状でしょう。しかし、着実に研修プログラムが整備され、若い医師たちもこの分野に挑戦し始めています。

そして、日本にはこの制度が始まる以前から、総合診療を追求してきた医師や医療従事者(看護師・薬剤師)などもおられます。これらの方々は、先行する欧米で学んだり、国内のプライマリ・ケアや家庭医療を扱う学会に所属したりするなどして研鑽を重ね、病院やクリニック・診療所で、総合診療に携わっています。これから、総合診療の普及がさらに期待されます。

松本潤さん主演の『19番目のカルテ』が描くように、「病気ではなく人を見る」総合診療は、新たな医療の受け方の可能性を示しています。総合診療を求める声が高まり、総合診療を受けられる環境が整備されると、多くの人が自身の心身の不調をより相談しやすくなるでしょう。

もし、今回のドラマをとおして、 "こんな先生がいてくれたら"と思う方は、どのような「患者と医師の関係性」を望んでいるか、ぜひシェアしてみてください。みなさまの声が、これからの医療の制度やあり方を動かす力になります。

さて、次回は、総合診療の普及を考える際の重要な要素として、患者が医療機関を自由に選べる「フリーアクセス」を維持しながら、総合診療の普及を目指す、医療機関における新たな「報酬体系」の可能性などについて、先行する台湾の制度にも触れて、みなさんと考えてみたいと思います。