
2025年6月21日・22日、Suchmosが横浜アリーナでワンマンライブ「The Blow Your Mind 2025」を開催した。2021年から活動を休止していたバンドにとって、国内でのワンマンライブは2019年9月の横浜スタジアム以来、約6年ぶり。僕は2日目を観たのだが、変わらないことと変わっていくこと、その両方を抱きしめながら今またこの場所で再会できたことを祝福するような、実に感動的なライブだった。
まず何より印象的だったのは、やんちゃな悪ガキの集まりであるSuchmosの雰囲気が完全に戻ってきていたこと。メンバーはバンドを組む以前に昔からの幼馴染や同級生であって、そんな彼らが楽器を使って遊ぶように音で会話をして、セッションでグルーヴを生み出していくことこそが「Suchmosらしさ」の根幹にある。活動休止前のライブはややシリアスさやストイックさが先に立つ場面もあったが、この日はバンドがひさびさに同じステージに立ち、音を鳴らすことを誰よりも本人たちが楽しんでいて、その感覚がオーディエンスとシェアされていたのが最高。「俺らは勝手に楽しむから、あなた方も勝手にやってください」というYONCEの言葉がこんなに似合うバンドも他にいない。
この感覚はセットリストにも明確に表れていて、アンコール含めた19曲のうち、ファーストの『THE BAY』から5曲、セカンドの『THE KIDS』から4曲が披露され、重厚でプログレッシブな作風となったサード『THE ANYMAL』からの選曲はなし。新曲も6曲披露されたが、デビューEP『Essence』収録の「Life Easy」も含め、初期の楽曲がセットリストの大半を占めたのは、2025年のSuchmosのフレッシュなムードを象徴していた。
もちろん、活動休止を「修行の期間」としていたようにメンバーはこの4年間でそれぞれの活動を続けてきて、フレッシュでありながらも演奏はむしろパワーアップしていたと言える。TAIKINGは自身のソロ活動に加え、2020年代を代表する2人のソロアーティスト、藤井 風とVaundyのサポートを務めてきたことは改めて特筆すべきだし、TAIHEIも自身のバンドである賽をはじめ、STUTSやHaruyなど、様々なアーティスト・プロジェクトに関わってきた。OKと、KCEE改めKaiki Oharaに関しては表出った活動の情報こそあまり目にしなかったが、この日のダイナミックなドラミングやシャープなスクラッチを見れば、彼らもまたそれぞれの修行期間を経てこの場に立っていることが伝わってきた。
YONCEに関しては近年Hedigansとしての活動を本格化させ、その歌声はさらなるスケール感を獲得していたが、セクシーなファルセットであり、自由奔放なステージングはやはりSuchmosならではのもの。MCも含めた彼の言動こそがSuchmosの精神性を体現していると改めて感じられる。バンドの代名詞的な一曲である「STAY TUNE」を「カバー曲をやります」と言って始めたのはなんともYONCEらしいし、<戦争は儲かるか?平和はゴミか? 信じてやまない Everyhings gonna be alright>と歌う「Alright」は4年前よりも切実に響く。「みんなで一つに……なりません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください」と話してから、この曲の決め台詞である「ノリ方は自由!」を叫んで始まった「MINT」は間違いなくライブ中盤のハイライトであり、<調子はどうだい? 兄弟、徘徊しないかい?>という言葉にそれぞれが想いを重ねたこの曲は、4年の月日を経て、オーディエンスとの絆がより強まったことを証明していたように思う。
もう一人、確実にこの日のキーマンとなったのが、ベーシストの山本連である。昨年10月に活動再開が発表され、横浜アリーナ公演が告知されるとSNSでは歓喜の輪が広がったが、それと同時に誰しもが思ったのが、「HSUの代わりをどうするのか?」だった。前述した「楽器を使って遊ぶように音で会話をして、セッションでグルーヴを生み出していくこと」によるSuchmosらしさ、その軸にあったのは間違いなくHSUのベースであり、彼なしでSuchmosのグルーヴをいかに構築していくのかは、活動再開における最重要事項であったはずだ。
しかし、ベースを担当するのが山本連であることが発表されたとき、彼のことを知る人であれば「それならきっと大丈夫」と確信を持ったに違いない。HSUと同じ洗足学園音楽大学のジャズ科出身で、年齢的にはHSUの一個下である山本は当時からバンドをよく知る人物であり、途中のMCでは横浜の古着屋で会ったり、一緒にスマブラをした思い出が語られたのはとてもSuchmosらしかった。バークリー音楽大学への留学後は様々なアーティストをサポートする一方、STEREO CHAMPやLAGHEADSのメンバーとしても活動してきたが、そもそもジャズやファンクをルーツに持つプレイヤーが、J-POPのシーンとライブハウスやクラブのシーンを自由に行き来するようになったのも「Suchmos以降」であり、山本もまさにそんな時代を体現する存在だ。
実際この日のステージにおける山本のプレイは抜群で、「DUMBO」や「Burn」といったベースがわかりやすく楽曲の軸を担う曲においては、完全に彼のプレイがバンドを引っ張っていた。立ち姿やノリ方にしてもどこかHSUと通じるものがあって、やはりこのポジションを任せられるのは彼しかいないと、改めて強く実感する。彼のフィット感は新曲においても顕著で、この日2曲目に披露された「Eye to Eye」はまさに目と目を合わせながらセッションで作られたであろう仕上がり。イントロダクション的な「Pacific」に続いて、実質的なライブの始まりの曲として「Eye to Eye」を演奏することは、バンドにとっても山本にとっても非常に重要だったはずだ。
山本を含む現在のバンドによるセッション感がより強く出ていたのがライブ後半に披露された2曲の新曲で、ベースフレーズの反復を軸とするアグレッシブな演奏に乗せて、YONCEが「お前生きているかい!」と叫ぶ「To You」にしろ、曲が途中で止まって、場内が真っ暗なまま長々と話し続けたかと思ったら、また急に曲が始まる自由すぎる構成の「Latin」にしろ、とにかく演奏を楽しんでいて、それを未完成のままでも披露しちゃおうという遊び心とノリが強く感じられる。そこからKaikiのスクラッチをフィーチャーしたダンストラック的な展開がアガる「GAGA」、スケール感抜群の「VOLT-AGE」を続け、本編ラストで披露されたのがやはりベースがグルーヴを引っ張る「YMM」だったことも、Suchmosの本来的なあり方を強く印象付けるものだった。なお、「YMM」は6人になったSuchmosが最初のスタジオセッションで演奏した曲である。
アンコールではHSUこと小杉隼太について改めて触れ、「失ったものは帰ってこないということを、この4年間で嫌というほど理解しました」と話し、「Suchmosというバンドとして一個区切りをつけたい。みんなで目を瞑って、深呼吸でもしませんか?」と、20秒ほどの時間が設けられた。さらに、来週が隼太の誕生日であること、彼には2人の息子がいることを話し、「彼らのおもちゃ代を稼ぐことが俺たちの仕事だと思ってます。昨日はそんなつるっぱげのクソバカな友達に捧げる歌をやったんですけど、今日は新しい命に捧げる歌をやりたいと思います」というYONCEの言葉に続いて、OKが「俺に隼太がくれた最後の言葉は『一番好きだぞ』でした」と加えて、OKのカウントから新曲の「BOY」が披露された。
Suchmosは今も変わらずやんちゃな悪ガキたちだが、この4年で様々な経験をして、人間的には深みを増し、成熟をしてきた。それは新曲の歌詞によく表れていて、「BOY」はもちろん、Suchmos流のウェディングソングともいうべき「Marry」も、全員が30代となった今の彼らだからこそ書けた楽曲だと感じる。そしてやはり、EPからの先行曲として最初に配信された「Whole of Flower」の<雪解け 堰を切って 涙を湛えるころ Shine a light for heal>であり<Sadness is not gone in my head but 道は 照らされている>という言葉が、悲しみの先にある現在を祝福しようとする今のバンドのモードを明確に示していると言えるだろう。
「あなたたちはそれぞれの仕事に都合をつけて、それぞれの経済的な事情に都合をつけたりして、今日この時間にわざわざこの薄暗い場所に集まった、変な人たちです。私たちはそんな変なあなたたちの前で、大汗をかきながら、必死こいて、やや酸欠になりながら、歌ったり楽器を演奏している変な人たちです。変な人同士、仲良くしよう」とYONCEが話して、TAIHEIの美しいピアノソロから始まったラストナンバーは「Life Easy」。誰のためでもなく、自分のために生きることが、結果的には誰かのためになる。周りの声は気にせず、悠々自適に、ただ他者に対する思いやりは持って。Suchmosと同じ時代を生きることの喜びを感じる、素晴らしい一夜だった。