先日、ヤマハ発動機が開発を進める汎用小型電動プラットフォーム「ディアパソン」に関するメディア向け説明会が開催された。

登壇したのは、同社技術研究本部 共創・新ビジネス開発部の大東淳氏。ディアパソンの技術解説にとどまらず、同社が描く未来ビジョンや、そこに至るまでの計画、理念について語った。

  • ディアパソン C580のカスタムバージョン

既存の価値観や認知にとらわれない「未来経営」というアプローチ

大東氏は冒頭、同社が掲げる長期ビジョン「Art for Human Possibilities」について紹介。「“人はもっと幸せになる”。これは私たちの目指すテーマであり、方向です」と語り、その実現のために同社が持つモビリティ技術、ロボティクス技術を組み合わせ、ヤマハ発動機ならではのソリューションを生み出すことに注力していると説明する。

その姿勢は、技術ビジョンにも反映されている。「楽しさの追求と社会課題の解決でみんなの未来を作る」ことを掲げ、「知能化」「エネルギーマネジメント」「ソフトウェア・サービス」という3つの“コア技術”を強化。さらに「人機官能」(人と機械を高い次元で一体化させること)の視点を取り入れた「人間研究」を加えることで、より深く人の可能性を引き出す商品・サービスの開発を目指すという。

  • ヤマハ発動機 技術研究本部で新規事業開発シニアストラテジーリードを務める大東淳氏

大東氏が所属する共創・新ビジネス開発部は、新しい産業やビジネスモデルを生み出すインキュベーターとしての役割を担う。「社会課題に対して、必要な技術やビジネスモデルを組み合わせ、サステナブルな社会の変化を後押しするのが我々の役割です」と大東氏は語る。

そのアプローチとして導入しているのが「未来経営」という考え方だ。

「未来経営とは、既存の価値観や認知にとらわれず、『未来にはこういう商品やサービスがあるはず』という予想をもとに、それをいち早く市場に投入し、フィードバックを得ながら磨いていくというアプローチです」(大東氏)

“既存アセット”を活用した「ディアパソン」というプラットフォーム

  • 大東氏(右)とヤマハモーターP&D台湾の小屋孝男氏(左)

こうした考えのもとに誕生したのが、「ディアパソン」という汎用小型電動プラットフォームである。

ディアパソンは、2023年3月に初公開され、2024年1月の東京オートサロンで7つのモデルが披露された。従来の“物”中心の発想を超え、人、物、お金、情報がネットワークとなって循環する、新たな時代の「場」を創出するプラットフォームを目指すという。

「我々メーカーは、新しい事業を始めるとき、莫大な投資と時間をかけて新組織を立ち上げるのが常ですが、今はもうそうした大量生産・大量消費モデルの限界が見えています」と大東氏は指摘。ディアパソンでは、そうした従来型の思考から脱却し、“既存アセット”を活用する方針を採用する。

「新規開発ではなく、既存の資産を活用するのがポイントです。しかも自社だけでなく、社外に優れたアセットがあればいち早く取り入れていく。ヤマハは自動車を作らなかったからこそ、最小人数でスピーディに動けるという強みもある。素早く行動していきます」(大東氏)

  • ディアパソンC580試乗会の様子

ディアパソンは、自動車でいう「車台」(車の骨格)のような構造ではなく、モジュール単位で構築される。これにより、地域ごとのニーズや価値観の多様化に柔軟に対応し、より迅速な製品展開が可能となる。

「ひとつの大きな投資で巨大な製品をつくるのではなく、必要に応じて個々のモジュールを組み合わせていく。この方が効率的で早いので、我々はモジュール単位のプラットホームをつくりたいと考えています」

ディアパソンが目指す未来像について大東氏は、「人々が区分されることなく、自由な道具を手に入れ、より豊かで活力のある生活を実現してほしい。我々の新しいコア技術をベースに、今後、人々に必要な身体能力の補完、判断力の補完などを強化しながら、『未来経営』のアプローチでどんどん進化させたいと考えています」と語った。

出発点は「高齢者の移動問題」の課題解決

  • まずは「高齢者の移動問題」の課題解決へ

もともとバイクのイメージが強いヤマハ発動機だが、なぜこうして新たな挑戦を進めるのか。大東氏に話を聞いた。

「技術研究本部のミッションは、新しい領域を切り開くこと。既存事業だけに満足せず、次の柱を探していくのが役割です。事業ポートフォリオのように、複数の“卵”を用意して、どれが将来の柱になるかを見極めていく。極端に言えば、バイクの“卵”もいつか割れるかもしれない。だからこそ、次の可能性を探り続けなければいけないんです」

今回開発されたディアパソンも、まさにそうした視点から生まれたものだ。

「もともとは行政との会話の中で、高齢者の移動課題をどう解決するかという話が出発点でした。ただ、高齢者の中には『まだ自分は運転できる』という自信を持っている方も多い。だったら、返納しても乗りたいと思えるような、安全で新しい乗り物をつくろう、と考えました」

そこで着目したのが農業だ。

「日本の農業って、担い手の年齢がすごく高いんです。60~75歳が中心で、免許を手放すことは生活や生きがいにも関わってくる。でも、その子ども世代はやっぱり事故の心配もある。ならば、安全でスタイリッシュな、小型特殊や原付免許で乗れるモビリティが必要だと考えました」と大東氏は語った。

ディアパソンは単なる代替手段ではなく、“かっこよさ”や“働く意欲”も重視して設計されている。バイクだけに頼らない。ヤマハ発動機の新たな挑戦は、次世代の社会課題に応える試みでもあるのだ。