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屈辱の91敗から一転、貯金生活を送っている埼玉西武ライオンズ。その勢いを象徴するのが、5月17日のオリックス戦で劇的勝利を呼び込んだ山田陽翔と滝澤夏央だ。名門出身の山田と育成上がりの滝澤。対照的なキャリアを持つ若獅子たちが、チームの未来を切り開く。(文・羽中田)
「1試合1試合、一軍という舞台を楽しみながら投げています」──お立ち台ではにかみながら語った山田陽翔の笑顔は、今季の西武に吹き込まれた新たな息吹を象徴していた。5月17日のオリックス戦では、西武の未来を担う若き2人が、劇的な勝利を呼び込んだ。
この日、延長10回表を山田がわずか9球で三者凡退に抑えると、その裏、打席へ向かった滝澤夏央がこの打席でサヨナラ打を放った。山田にとってはプロ初勝利、滝澤にとってはプロ初のサヨナラ打という、2人にとって忘れがたい記念日となったのだ。
新生・西武において覚醒の気配を感じさせる山田と滝澤だが、両者は対照的な道を歩んできたとも言える。
注目を浴びた高校時代。高卒3年目で大きく飛躍
山田は、甲子園通算11勝という実績を引っさげ、2022年ドラフト5位で西武に入団。鳴り物入りでプロの世界へ足を踏み入れた。
プロ入り後は一軍争いに加われず、苦しい時期を過ごした。そんな山田が飛躍のきっかけをつかんだのは、台湾ウインターリーグでの経験だった。9試合の登板で、防御率0.82という圧巻の成績を残したのだ。
そこから、チームの先輩右腕・森脇亮介の投球フォームを徹底的に研究し、中継ぎ右腕としての自身のスタイルを構築していった。フォームの安定とともに制球力も向上し、プロの打者を前にしても怯まない強いメンタルが際立ってきたのだ。
今季は開幕一軍こそ逃したものの、3月29日に一軍登録され、4月3日の敵地・楽天戦でプロ初登板。冷たい雨の中での登板ながら、1イニングを無失点に抑える堂々たるデビューを飾った。
5月17日のオリックス戦でついにプロ初勝利を挙げた山田は、「重たい」と表現した記念球を手に、初々しい笑顔を浮かべながらも、チームの勝ちパターンを担う責任感をにじませた。
山田はここまで13試合に登板し、いまだ無失点投球を継続中だ。甲子園のスターとして注目を浴びながらも、地道な下積みと努力で飛躍を遂げた選手と言える。
一方、山田の初勝利を支える決定打を放った滝澤は、育成から這い上がった選手だ。山田の1学年先輩に当たるが、関根学園高で甲子園出場経験はなく、決して全国区ではなかった。
育成から這い上がり、雑草魂で躍進
滝澤は、まさに雑草魂で這い上がってきた若獅子だ。2021年育成ドラフト2位で西武に入団。164cmと小柄ながら、俊足と守備力を武器にアピールを続けてきた。
2022年5月13日に支配下登録されると、同日の楽天戦で即一軍登録。「2番・遊撃」でスタメン出場し、第3打席でプロ初安打を記録。翌2023年4月15日にはプロ初ホームランを放つなど、順調に主力への階段を登ってきた。
今季は、西口文也新監督からセカンドのレギュラー候補として期待を受け、プロ初となる開幕一軍入りを果たした。遊撃の源田壮亮がけがで離脱した際は、代役として広い守備範囲で存在感を発揮し、堅守のチームにおいて信頼を得た。
5月17日のオリックス戦では、自身初の4安打に加え、プロ初となるサヨナラ打も放った。お立ち台では「自分が絶対に決めるという気持ちで打席に入った」とハートの強さを見せて、集まった西武ファンから大歓声を浴びた。
先輩の背中を追い、"西口チルドレン"が切り開く未来
近江高から鳴り物入りで入団し、ブルペンに欠かせない存在となった山田。それに対し、育成契約から這い上がって大きな飛躍を遂げた滝澤。2人は異なる道のりを歩んできたが、同じチームの核となる選手たちを手本に、成長の指針を明確にしていることは共通している。
山田はクローザー・平良海馬を、滝澤は7年連続でゴールデングラブ賞を受賞している源田を目標としている。「憧れの存在が目の前にいる」という環境は、彼らにとってこの上ない刺激となっている。
近年では、メジャーリーガーの菊池雄星が手掛けた「King Of the Hill(通称 KOH)」で髙橋光成らが自主トレを行ったように、西武は伝統的に、若手が先輩の背中を見て学び、成長してきた土壌がある。今季の山田や滝澤らの活躍の裏には、平良や源田の存在がある。
西武は西口新監督のもと、5月22日時点でリーグ2位、貯金5と、昨季とは一味違う戦いを演じている。昨季途中から監督代行を務めた渡辺久信氏は「1人でも2人でも多く一軍で活躍できるよう、時には厳しく言うことも大切なんじゃないかと思います」と就任会見で話したが、西口監督のもとで実を結び始めている。
"西口チルドレン"が1人でも多く一軍で活躍すれば、チームの勢いはさらに加速するだろう。日々成長していく彼らの活躍から、今後も目が離せない。
【了】