また、中園氏の脚本の魅力も日々感じているという。
「やなせさんの実際の言葉から取っているセリフも多いようです。嵩にその人生をなぞってもらうというだけではなく、作品全体にやなせさんの考え方やアンパンマンの要素がふんわり散りばめられていて、ドラマの大きな魅力になっていると思います」と称賛し、「命とか、生き死にということを真っすぐ描いていて、それは戦争を描くシーンに限らずたびたび出てくるテーマだと感じるので、その切実さは大切だと思いました」と語った。
また、やなせさんの作品からも強いメッセージを受け取ったという。
「哲学があって、やはりそれは戦争体験や幼少期の体験があったから生まれたものなんだなと感じました。『逆転しない正義とは、飢えた人にパンをあげることだ』という言葉は、戦争を体験していない私の口からは、こんなに実感を持って出てこないと思うんです。本当に身をもって体感されたから、アンパンマンが生まれているし、この気持ちに嘘がないなと。すごい強度だと思います」
第48回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の賞を受賞し、確かな演技力で見る者を魅了している河合。出演を決める際には「今、みなさんに見てもらうべきものは何だろうということは考えます」と明かす。
「今日1日そのドラマを見た後だけ楽しかったなと思えればそれも意味があるし、そうではなくて、何かずっと心に残っていくような、子供のときに見て大人になっても自分に影響を与えているようなものなど、いろんな種類があると思います。自分が心と体を使って今の人に見てほしいなと思っていたいです」
戦後80年という節目に、やなせさんの戦争体験、そして“戦争は大嫌い”というやなせさんの思いを届ける本作も、届ける意義があると強く感じているという。
「その声をもう一度はっきり伝えるべきだと思うし、反戦を担えてよかったなと思っています。今起こってしまっている戦争にも、私たちには実感がないところがありますが、もしかしたら当時の人も、よくわからないうちに大きなものに絡め取られていくような日々だったのではないかなと想像しました。みんな気がついたら、赤紙が来たら戦争に行かなきゃいけないシステムの中に居た、というだけのことかもしれません」
そして改めて「蘭子の場合は確実に戦争反対というところに進んでいった」と役柄の信念を紹介し、「まずは見ている人がちょっとでも豪と蘭子のことを思ってくれれば十分。そこから少しでも、みんなでもう1回考えるきっかけにつながったらいいなと思います」と期待していた。
2000年12月19日生まれ。東京都出身。2019年にデビューし、映画『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』(21)での演技が評価され、各賞の新人賞などを受賞。2024年1月に放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』で話題を集めた。主演映画『ナミビアの砂漠』『あんのこと』で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどで主演女優賞を受賞。近年の出演作にドラマ『RoOT / ルート』、劇場アニメ『ルックバック』、映画『敵』『悪い夏』『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』など。2025年度前期の連続テレビ小説『あんぱん』で朝ドラ初出演。映画『ルノワール』が6月20日公開予定。
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