
ガールズグループオーディション「No No Girls」開催と7人組グループHANAのデビューにより、ちゃんみなの新たな才能に注目が集まっている。これまで以上に認知を拡大してファン層を広げた今、新たに2つのシングルがリリースされた。一方は映画の主題歌(「I hate this love song」)、もう一方はアニメの主題歌として書き下ろされた作品(「WORK HARD」)で、さまざまな方面から彼女のクリエイティブが求められていることがわかるわけだが、特に後者の「WORK HARD」は、近年世界中で注目が集まっているジャージー・クラブをちゃんみな流に解釈したユニークな楽曲だ。今こうした楽曲をリリースする意図と背景について聞くとともに、「ストックは200曲ある」という脅威的な制作スピードの秘密、今後のHANAのプロデュースの方向性などについても聞いた。
今はHANAをしっかり育てたい
ー「No No Girls」はものすごい反響で、ある種の社会現象を起こしたと言えるかもしれませんが、ご自身ではあまり世間の反響を気にしていなかったそうですね。
やっぱりオーディション番組って「なんでこの子を落としたんだ」とか「なぜこの子が通過なんだ」みたいな声がどうしても出てきてしまうじゃないですか。それって私の判断に対してはもちろん、参加者の彼女たちに対しても失礼だと思うんです。
ーおっしゃる通りで、ただ、ちゃんみなのその思いを汲んでくれているファンも多かった印象です。
そうみたいですね。「なんでこの子が落ちてこの子が通過?みたいに言うのは違う」と言ってくれる人がたくさんいたと。私は昔からファンにとても恵まれていると思っています。よく見てくれているし、リテラシーが高いし、ちゃんと私の想いを汲んでくれる。だから私のファンネームは「ロイヤルファミリー」なんです。
ー各種SNSを眺めていると、歌詞の読解なんかもすごく踏み込んでいる方が目立ちますもんね。特にMVのコメント欄が毎回のように秀逸で驚きます。
本当に。自分で意図を説明する必要がないくらい深く解釈してくれていたり、たまに私ですらハッとする意見があったりして、本当に素敵で頼もしいなと感じています。
ー最終審査は「No No Girls THE FINAL」としてKアリーナ横浜にて2万人のお客さんの前で開催され、YouTubeの生配信は同時接続56万人と、とんでもない数の人々が注目していたわけですが、三次選考に残った全員であの舞台を作るというアイデアは最初からあったものなんでしょうか?
構想はありました。具体的に話を始めたのは会場が決まってからです。やっぱり、参加して、見送ったのでさようなら、ではあまりにも悲しいじゃないですか。達成感も得られないだろうし。これだけたくさんの人たちが応援してくれていた事実はきっと彼女たちの自信になるし、新しいチャンスを掴む機会にもなる。それに、大きい会場でのパフォーマンスは誰しも夢見ることだから、絶対にやらせてあげたかったんですよね。
ーちょっと野暮な質問かもしれませんが、「No No Girls」はこれで完結ですか?
一応は完結です。もちろん、HANAに入らなかった子たちとも連絡は取り合っているけれど、その子たちを集めて「No No Girls 2」をやるとか、HANAに続くグループを作るとか、そういうことをする予定はありません。韓国語でHANAが数字の「1」を意味することから「2、3と続くのでは?」と憶測を立てている方もいらっしゃるようですが、やらないので、期待しないでください(笑)。私はHANAしか抱えられません。その代わりHANAはしっかり育てます。いつかHANAがしっかりと育ったら、その時にはもしかするとあるかもしれないけれど、今の段階ではないです。
ー改めて、出産を挟んでオーディションを成功させること、その直後にガールズグループのデビューシングルを制作してリリースすること、しかもその曲がこれ以上ないほどの名曲であること、さらには、この後詳しく聞きますが、自身の新曲まで連続でリリースすることなど、常識では考えられないペースでクリエイティブが進んでいて、ファンとしては嬉しい一方、もう少し休んでもいいのでは、と思う気持ちもあるんですが……。
わかります(笑)。でも予定が決まっちゃってるんですよ。スケジュールにそう書いてある。だからやるしかない。結局、やると言ってしまっている自分が悪いですね。選んでいるのは自分だし。こればっかりは現実的に仕方がないです。やるしかない。責任感は昔から強いほうなので。
七人七色の声と世界観。曲によってバランスを変える
ーそのHANAは「ROSE」で鮮烈なデビューを飾りました。楽曲もMVも素晴らしいクオリティで、各メンバーの特徴を非常に巧みに捉えている気がします。
HANAには七人七色の声と世界観があるので、曲によって中心になるメンバーを変えられるんです。よく聞かれるけれど、HANAにはセンターやリーダーはいません。それは曲によって変えている。しいて言うなら、HANAの今のリーダーは私(笑)。
ー曲によって変えているのはすでに「Drop」と「ROSE」で伝わっていると思います。七人七色の声と世界観、しかもこの短期間でみんなまた歌がうまくなっていますよね。「ROSE」がリリースされた時、SNSでは「この歌声、誰?」という声がたくさんありました。あまりにも歌唱力が上がったように聴こえるメンバーがいたので。
それ、KOHARUですね? KOHARUはこの短期間でめちゃくちゃ歌がうまくなってるし、今後もっともっとうまくなりますよ。持っている声がめちゃくちゃ素晴らしいので、本当に今後が楽しみです。
ー「ROSE」は歌詞もまた素晴らしくて、ピックアップすればキリがないんですが、ひとつだけあげるとしたら、個人的にはMOMOKAさんが歌う〈このBaddestトゲは自分に刺してた〉が特に刺さりました。
私もそこが好きです。「Baddest」って結構、フレックスな単語というか、「私がいちばん悪い女だ」みたいなスラング的な言い方なんだけど、それを他人ではなく自分に向けるのが彼女たちらしいし、私らしくもあると思ったんですよね。
それともうひとつ好きなのが「まだこの世界にありがたいと思いたいらしい」。YURIの「生きてることを憎んで」と対比になっている部分ですね。特に「らしい」がポイント。ありがたいと思いたい「らしい」という不確実な思いから立ち上がっている。その前にMAHINAが「汗や涙も枯れてきた頃に まだ立ち上がる私を疑い」と立ち上がる自分すら疑う心境を歌った上で、それでもまだこの世界にありがたいと思いたいらしいという。
ーこのMAHINAさんとMOMOKAさんにYURIさんが絡むパートは素晴らしいですよね。
あそこはふたりのラップとYURIのパートが両サイドから聴こえるようにしたかったんです。YURIに関しては「間に合ってくれて本当にありがとう」と思っています。「No No Girls」を見てくれている人ならわかると思うけれど、YURIは作詞能力もすごいんですよ。他の子たちより頭ひとつ飛び抜けているかもしれないくらい、本当に作詞に長けている。早く自分で歌詞を書くようになってほしいです。
仕事の上ではみんな平等。だからこそ、個人個人がそれぞれ力をつける必要がある
ーHANAとしてプロデュースを進める一方で、新曲「WORK HARD」は、ディズニー+「スター」で独占配信されるアニメ『BULLET/BULLET バレット/バレット』の主題歌ですが、今までのちゃんみな作品にはないトラックで新鮮でした。
ジャージー・クラブですね。すでにいろんな人が使っているドラムパターンではありますが、今このタイミングでこういう曲を出すのは面白いと思って。アニメの内容が面白かったし、この十年くらいの自分にも通じるものがあると感じたので、テーマにもインスピレーションを受けて、この曲を聴きながらWORK HARDできるような楽曲にしたいと思いました。
ー「No No Girls」とHANAを通してこれまでより広い層に認知された直後にこういった楽曲をリリースするのは、実にちゃんみならしいなと思いました。もっとポップに、いわゆる「置きにいく」ような楽曲を出して真ん中を狙うこともできたわけじゃないですか。でもそうはしない。
だって、私の「置きにいく」楽曲を聴きたい人なんています?
ー思い返せば、デビュー曲からして「FXXKER」ですもんね。
振り返るとウケますよね、「FXXKER」と叫んでメジャーデビューする18歳って(笑)。今回の「WORK HARD」は、歌詞に賛否の分かれそうなフレーズがあります。「すぐパワハラってさ パワーない君はどうなん」とか。勘違いしてほしくないのは、私はパワハラを肯定しているわけではないということ。パワハラは良くないです。パワハラを受けている人は早急にしかるべきところに相談すべきだと思う。私が言いたいのは、「ハラスメント・ハラスメント」という言葉があるくらい、人に指摘をしない社会になっているのも良くないんじゃないかってことなんです。
たとえば私は、アーティストという立場上、仕事で指摘されることが少ないんです。「ちゃんみな、これは良くないよ」「これってどうなの?」「これはやめたほうがいいと思う」と言ってくれる人がほとんどいない。これってすごく不健康なことだと思っていて。ちゃんと指摘してくれないのなら一緒に仕事をしている意味がないとすら思うんですよね。
もちろん立場の違いはあるし、部長とか社長とか、そういった上下関係はたしかに存在しているんだけれど、でも、仕事を進める上ではみんなが平等であるべきだと思うんです。それなのに「あの人は自分より上」「あの人は自分より下」と、勝手に自分の中で上下を決めている人が多いと感じる。同じ目標を追いかけてる以上そんなのないんですよ。だからこそ、みんながちゃんと自分で自分にパワーをつけなければいけない。
ー「パワー」とは、具体的に何を表していますか?
すぐに折れない心を持つとか、責任を持って仕事をするとか、そういうことです。
ーなるほど。この楽曲からは「怒り」というよりも「呆れ」のニュアンスを感じました。強い言葉を使っているけれど、歌い方は力が抜けている。「はぁ?」みたいな。
そうそう、まさにそんな感じです。「ねえ、その感じって、どうなん?」っていう。むしろ自分自身や頑張っている人に向けた応援歌だと思っていますね。
ーWORK HARDって直訳したら「がんばれ」ですもんね。
そうですね。ただこのメッセージやニュアンスはなかなか言葉で伝えるのは難しくて、音楽だからこそ伝えられるものかもしれないと思っています。
才能よりも努力と経験
ー4月にリリースを発表している「I hate this love song」は、映画『か「」く「」し「」ご「」と「』の主題歌ですが、映画の公式サイトには「ボーカルの雰囲気も普段と違う感じで表現してみました」と公式コメントを寄せています。一聴して「You Just Walk In My Life」に近い歌い方だと感じました。あの曲も運命的な恋を歌った曲です。
確かにあの曲に近いけれど、今回はこれまでに使わなかった技術を使っています。具体的には、今の自分の年齢に合った感じにするために小さいビブラートを入れて、ちょっと静かに歌ってみました。
◆楽曲が使用された映画予告映像
ー過去に作った未発表曲がベースになっているそうですね。
8年ほど前に作った、自分の初恋をテーマにした楽曲をブラッシュアップしたんです。小学生の頃の、自分の気持ちを相手に伝えたいような伝えたくないような気持ちがこの映画のテーマにぴったりだったので。原作もとってもかわいい小説なんですよ。
ー未発表のストック曲が200曲もあると聞きました。そんなにたくさん作れるのは、改めてすごい才能です。
いや、これは才能ではないと思います。私はよくアメリカで現地のミュージシャンたちとスタジオセッションしながら制作するんですけど、そこで過去にすごく苦い経験をしているんです。向こうは「Yes or No」の文化だから、制作中にしょっちゅう「Do you like it?」と聞かれ、私はそういう時につい「……Yeah」と言ってしまう癖があったんです。そうするとどんどん自分の好きではない方向に制作が進んでしまうんですね。せっかく自分の作品を作りに行っているのに、好きではない感じの作品が完成して、それをレコーディングすることになってしまう。私が好きではない楽曲と、私が伝えたい歌詞ではない歌を歌って、発音も違うと直されて……。
そんな経験があったから、それ以降、私は「負けない」という気持ちで「Do you like it?」に対して「No」とはっきり伝え、時には「Let me do that」と主導権を握ってバーっと自分で歌詞を書いたりメロディを変えたり、そんなふうに制作するようになりました。そういう経験を経てだんだん早くたくさん楽曲を作れるようになってきたんです。
昔は、セッションでトラックだけ作り、メロを入れて持ち帰って、それから1週間くらいかけて歌詞などを作ってからレコーディングして、その後にもう一度レコーディング、さらにやり直しのレコーディング……とやっていたから1曲作るのに1カ月くらいかかっていました。今はもう、2時間あれば1曲作れますね。アメリカでの経験と努力のおかげだと思います。
ー思いつかないことはないんですか?
思いつかなかったらスタジオに行かないですね。思いついたタイミングで「今日スタジオ取れますか?」って連絡します。もちろん、自宅の寝室にピアノを置くなどして思いついたアイデアを逃さないようには気をつけています。その時すぐに形にしないと忘れちゃうから。だから、思いついたらすぐ形にして、すぐ連絡することが大事。深夜に突然リリックだけガーッと書いて、お世話になっているトラックメイカーさんに「これに合わせたトラック作ってもらえませんか?」っていきなり連絡したりとかもしています(笑)。
ーでは最後に、これから全国12都市14公演のツアーが控えていますが、どんなライブになるんでしょうか? 意気込みをお願いします。
今回は初めて、携帯・スマホでの撮影をOKにしました。ありがたいことに、規模が大きくなるにつれてだんだんチケットが取りづらい状況になってきて、なかなか足を運べない人も増えてきてしまったので、そんな人たちにもライブを届けたくて。いろんな問題が生じる可能性もあるけれど、そこは私のファンのみんなを信じたい。その上で、会場に足を運んでくれた人には「やっぱり生のほうが凄かった」と証明します。他にもいろんな演出を考えているので楽しみにしていてほしいです。久々にみなさんと会えるのが今から楽しみです!
「WORK HARD」
ちゃんみな
配信中