建築業界の“人手不足問題”の真相は? クラフトバンク総研所長・髙木健次「人手不足の原因はリーマン・ショック、氷河期世代の離職による“中堅層の空洞化”」
TOKYO FMグループの「ミュージックバード」で放送のラジオ番組「デジタル建設ジャーナル」。建設業界のデジタル化・DXを進めるクラフトバンク株式会社が、全国各地で活躍し、地域を支える建設業の方をゲストにお迎えするインタビュー番組です。一般になかなか伝わりにくい建設業界の物語を全国のリスナーに広めます。

5月11日(日)の放送では、最新の建設業界を解説した書籍「建設ビジネス」の著者であり、クラフトバンク総研所長の髙木健次さんをゲストに招き、建築業界の真の姿や書籍の反響などを伺いました。

(左から)髙木健次さん、パーソナリティの田久保彰太

◆建設業界の“いま”をわかりやすく解説した書籍

今回は特別編として、建設業界のリアルな現状とこれからの展望を発信する「クラフトバンク総研」に注目。2025年1月に書籍「建設ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)を出版した所長・髙木健次さんをゲストに迎え、同書に込めた思いや建築業界の実情について伺いました。

髙木さんは事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業、東日本大震災の被害を受けた企業などの再生に従事。その後、クラフトバンク株式会社の前身である内装工事会社に入社します。2019年、建設会社の経営者向けに経営に役立つデータ、事例などをわかりやすく発信する民間研究所兼オウンドメディア「クラフトバンク総研」を立ち上げ、所長に就任。現在はテレビの報道番組の監修・解説、メディアへの寄稿、業界団体、安全大会等での講演などで活躍中です。

クラフトバンク総研では、クラフトバンク株式会社のプラットフォームが保有する独自の建設業界のデータベースを活用。建設会社の経営者やその支援に従事する専門家に向けて、経営に役立つ情報、データ、事例をわかりやすく発信しています。

そんな髙木さんが執筆した「建設ビジネス」は、「建設業界を初めて知る人」にも理解できるよう、丁寧に構成されています。書籍のベースは、新しくクラフトバンクに入社した社員向けの研修資料。本書は大学の就活センターなどでも扱われており、新入社員はもちろん、建設会社の経営者やゼネコン関係者といった業界のプロからも注目されているといいます。

建設業界は、土木、非住宅、住宅、改修・解体と分野が多岐にわたります。「建設ビジネス」では、各業界を章ごとに掘り下げ、それぞれの特徴を解説しています。書籍には他にも、「工業高校・高専から学ぶ建設業界の採用・人材育成の世界」や「給与明細から学ぶ建設業界の給料と働き方の世界」といった内容も。「序盤は入門書ですけども、後半はプロの方が読んだら“よく踏み込んだね”と感じる本だと思います」と髙木さんは説明しました。

◆建築業界の“人手不足問題”の真相は?

建設業は一般の人には馴染みが薄いかもしれませんが、スマートフォンの利用、荷物の配送、北国での除雪など、生活の裏には建設会社の存在があります。ソフトバンクなどの大手通信会社も、基地局やデータセンターの建設のために工事会社を抱えています。「我々の生活に不可欠なのが建設業です」と髙木さんは話します。

また、建設業界の人手不足問題についても言及しています。「若い人が入ってこないから人手不足と思われがちですが、実際には少子化にもかかわらず、新卒の就職者は増加しています。特に女子学生の増加が目立ち、女子大の建築学科も増加傾向にあります」と言います。

その背景には、アパレルや保育など従来の人気分野の低迷があり、建築学科の相対的な魅力が高まっていることが挙げられます。ただし、これは関東中心の傾向であり、施工管理職が中心で職人職は増えていません。

職人のなかでも、土木や電気の職は大きく減ってはおらず、減少が目立つのは大工と左官です。「職種や地域の差もありますが、全体として見ると若い建設業就業者は増えています。このことは意外と知らない人が多いです」と話します。また、外国人労働者は増えているものの、全体に占める割合は4パーセント未満と依然として低く、他産業と比べて外国人の活用は広がっていません。

髙木さんいわく、人手不足の原因は30〜40代(リーマン・ショック、就職氷河期世代)の離職による“中堅層の空洞化”だといいます。企業側は賃上げで引き留めを試みていますが、ゼネコンから不動産デベロッパーへ、地方から都市部への転職が進み、人材の流出に歯止めがかかっていないのが実情です。

建設職人に関しては、法律で人材紹介や派遣が厳しく制限されているため、エージェントを使った即戦力採用ができません。結果的に、辞めた職人の補充が難しく、他業界に人材が流出する一方になっています。こうした構造的な問題が、「若者が入ってこないから人手不足」といった誤解を招いています。

若い人材が入ってきている点では建設業界に将来性はあるものの、課題は依然として多いとされています。日給制が38パーセント残存している現状や、人材が育ち切れず若者が定着しない問題も指摘されています。「人材が入ってきているけど定着しなかったり、他業界に人が流れる法令があることって知られていないんですよね」と髙木さんは背景にあるものを説明します。

◆「建設ビジネス」の反響を紹介

「建設ビジネス」の発売から4ヵ月。さまざまな読者から多くの反響が寄せられているといいます。髙木さんが印象的だと感じたのは、実家の建設会社を継いだというある男性からの連絡でした。もともとは大手企業に勤めていたそうですが、父の急逝をきっかけに実家を継ぎ、突然「建設会社の社長」という立場に。異業種からの転身で何をどう学べばいいのかもわからず、心が折れかけていたそうですが、「建設ビジネス」を読んで心機一転したそうです。

さらに、髙木さんが忘れられないエピソードは、建設会社の社長と結婚し、経理を任されることになったという女性からの言葉です。「どこから手をつけたらいいのかまったくわからなかったそうですが、私の講演が終わったあとに、たくさんの付箋を貼った本を持ってきて“助かりました”とお礼を言ってくださいました」と振り返ります。

他にも、大手企業に勤める読者の1人からは、自身の母校に本を寄贈したいと申し出があったそうで、その紹介を通じて大学の就職支援センターにも書籍が寄贈されました。工業高校の進路指導の教材としても広がりを見せるなど、さまざまな反響があったということです。

髙木さんは未来の担い手を増やしたいという思いから、大企業から中小まであらゆる人々との協力のもと、書籍を完成させることができたと話します。「まだの方はぜひ手に取っていただけるとありがたいです」と最後に呼びかけました。

<番組概要>

番組名:デジタル建設ジャーナル

放送日時:毎週日曜日 15:00-15:55

パーソナリティ:中辻景子、田久保彰太

番組Webサイト:https://musicbird.jp/cfm/timetable/kensetsu/