ドジャース、”常勝軍団”ゆえにWBC派遣には後ろ向き…?戦い続けることの影…

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 開催まで1年を切り、4年に一度の野球の祭典・ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)への熱気が高まっている。前回大会では、大谷翔平とマイク・トラウトの対決が実現するなど大きな盛り上がりを見せた一方で、エドウィン・ディアスの長期離脱につながる故障や、クレイトン・カーショーの不参加といった課題も浮き彫りになった。そこで今回は、WBCに参加することについてのリスク、選手に与える影響などを纏めた。(文:Eli)

 

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 なお、ここで取り上げる問題は、MLB選手のWBC参加そのものに反対する意図ではない。MLB球団は慈善事業ではない。すべての判断は利益とリスクを天秤にかけ行われている。

 

 以下の問題はその球団側の論理を紹介しているに過ぎない。また最終的に出場可否の判断は、リスクを負う球団と、実際にプレーする選手との話し合いに委ねられるべきである。

 

 

オフが短くなる

 2023年に行われた第5回大会の前例を踏まえると、WBCは3月上旬に各グループステージがスタートし、これが1週間ほど続いた後、決勝を含むノックアウトステージが3月中旬に行われる。実際、同大会では最も早いグループステージの試合が3月8日、決勝戦は3月21日に開催された。

 

 WBCが3月上旬に始まるということは、この時期にすでに強度の高い試合が行われるということだ。通常のスケジュールでは、3月上旬の選手たちはまだ調整段階にあり、強度を上げていく初期の時期にあたる。

 

 つまり、強度の高い期間が通常より1カ月前倒しで始まることになり、実質的にその分シーズンが長くなると言える。

 

 さらに、前年や開催年のプレーオフを含めて考えると、選手の負担は一層増す。たとえば、ロサンゼルス・ドジャースが2025年と2026年に2年連続でワールドシリーズに進出した場合、2025年のシーズン終了は10月末、2026年はWBC開催の影響で3月上旬にシーズンが実質スタートする。

 

 その結果、オフシーズンは調整期間も含めてわずか4か月程度に短縮される。これは、プレーオフやWBCがない場合の6か月間のオフと比べて、非常に短い期間だ。

 

 この短縮されたオフを経て再びワールドシリーズまで進出すれば、連続して8か月超のシーズンを戦うことになる。仮に故障がなかったとしても、登板数・出場数は通常よりも大幅に多くなるだろう。

 

 実際、2024-25シーズンではドジャースとニューヨーク・ヤンキースの両球団で故障者が相次いでいる。ヤンキースではゲリット・コールがトミー・ジョン手術によりシーズン全休、2024年の新人王ルイス・ヒルは広背筋の違和感、ジェイク・カジンズは肘関節屈筋の損傷で長期離脱中だ。

 

 ドジャースでも、プレーオフで大車輪の活躍を見せたブルペン陣から、マイケル・コペック(前腕部の炎症)、エヴァン・フィリップス(右肩の故障)、ブレイク・トライネン(シーズン中の前腕部違和感)と、次々に故障者が出ている。これらの故障すべてがプレーオフの影響とは言い切れないものの、休養が長いに越したことはない。

球団の財政的リスク

 MLBにおいてスーパースターは長期契約を結ぶのが通例であり、これは日本人選手についても例外ではない。

 

 前回WBC(2023年大会)で、1,000万ドル以上の契約を結んでいた日本人選手は、吉田正尚(5年9,000万ドル)、ダルビッシュ有(6年1億800万ドル)、大谷翔平(年俸調停による1年3,000万ドル)の3人だけだった。3人の契約を合計しても、総額はわずか2億2,800万ドルに過ぎなかった。

 

 しかし、2026年大会で同様のメンバーを招集するとなると、状況は大きく異なる。前述の3人に加え、山本由伸(10年2億6,000万ドル)、今永昇太(2年3,000万ドル)、鈴木誠也(1年1,900万ドル)、松井裕樹(2年1,225万ドル)と、長期かつ高額の残存契約を持つ選手たちが加わることになる。

 

 

 球団にとって最も避けたいのは、「いらない金」を使ってしまうことだ。特にその典型が、契約の不良債権化である。例えばワシントン・ナショナルズは2020年、スティーブン・ストラスバーグと7年2億4,500万ドルという大型契約を結んだが、度重なる故障の末に彼は事実上の引退状態となり、多額の資金が無駄になってしまった。

 

 ナショナルズは2025年と2026年にも、ストラスバーグにそれぞれ3,500万ドルを支払う必要がある。この資金があれば、チームはスーパースターの獲得や育成機関への投資に充てられたかもしれない。

 

 こうしたリスクを徹底的に避けたい球団にとって、長期契約を結んだ選手が故障の面ではリスクでしかないWBCに出場することは、頭の痛い問題となるだろう。

 

 特筆すべきは、大谷翔平の特殊性である。大谷はWBC開幕時点で8年5億6,000万ドルという、他の選手を遥かに超える契約を保持していた。

 

 また大谷の場合、彼のブランドに付随するスポンサー契約もある。所属するドジャースは、大谷の加入によって2024年シーズンのスポンサー収入だけで1~2億ドルを生み出したとされている。

 

 極めて可能性は低いとはいえ、大谷がWBC出場中に故障し、以後パフォーマンスが元に戻らなかった場合、こうした利益が消えるリスクを球団は抱えることになる。

MLB投手を入れることのデメリット

 前回大会では、MLB球団が投手をWBCに派遣する際に、強力な登板制限を設けた。これはWBCがスプリングトレーニングの時期と完全に重なるためであり、WBCの登板がそのままレギュラーシーズンに向けた調整の一環となるからだ。

 

 この登板制限には、先発投手の球数制限、リリーフ投手の連投禁止、一度ブルペンで肩を作ったら必ず登板し、追加のウォームアップは禁止――といった内容が含まれている。

 

 

 2023年のグループステージにおいて、アメリカ代表はこの制限に大きく苦しめられた。3月13日と14日にメキシコ、カナダとの連戦が予定されていたが、初戦のメキシコ戦では、第2先発として登板したブレイディ・シンガーが立ち上がりからピンチに陥った。

 

 この時点でスコアはメキシコの3-1リード。さらなる失点を防ぐにはシンガーを早めに交代させるのが理想だったが、球団から課された「最低球数制限」により交代が許されなかった。結局、シンガーはジョーイ・メネセスにホームランを浴び、スコアは1-7と大きく引き離されてしまった。

 

 さらに8回に登板したリリーフのダニエル・バードもピンチを招いた。当初のプランでは8回をバード、9回をデヴィン・ウィリアムスで締める予定だったが、バードが崩れたため、予定外の投入としてウィリアムスだけでなく、翌日のカナダ戦に温存予定だったライアン・プレスリーまで登板する事態となった。

 

 それでも、カナダ戦ではランス・リンが5回1失点、マイルズ・マイコラスが2回無失点と安定した投球を見せ、打線も12得点の猛攻を展開。結果的には難を逃れたものの、登板制限が勝ちを目指すチーム戦略に大きな影響を及ぼすことが浮き彫りとなった。

 

 日本代表に関してはMLB選手の割合が少ないため、NPB選手を活用することでこの問題を解決できる。一方でMLB選手が半分以上占めることが予想される他国の代表チームについては、所属球団が制限を解除・緩和しない限り、前回と同様の問題を抱えることになる。

 

 

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【了】