No Busesが語るポップネスと実験性の追求、システムへの怒り、「あなた」への想い

もはや、孤高のバンドだ。デビュー当初からそのサウンドは、現行シーンとは一線を画していた。とはいえ、まだ当時はいくつか引き合いに出せるバンドがあったはずだ。しかしリリースを重ねるごとにその作風は変化し、ますますの独創性を獲得。結果的に、No Busesの3年ぶり4作目のアルバム『NB2』は、進化の特異点としか言いようのない境地に達している。

ここにパッケージされているのは、大幅に増えた日本語詞が生む曖昧さや感情の機微、音の間(ま)や呼吸感、そして音像に宿る湿度や温度。とりわけ、近藤大彗がCwondo名義で精力的に活動し吸収してきた近年の実験の蓄積が、本作には大きく跳ね返ってきているように思う。2025年以降の音楽シーンにボディブローのように効いてくるに違いない『NB2』の飛躍を探るべく、近藤大彗(Vo, Gt)と和田晴貴(Gt)に話を聞いた。

追求したのは「自分たちのポップネス」

—後藤晋也さんと市川壱盛さんが脱退して以降、初めてのアルバムです。制作において以前と変化はありましたか?

近藤:僕は以前からメンバーの好みや方向性がかぶる範囲で作っていたので、人数が減って三人になったことでその範囲が広くなって、結果的に自分のやりたいことに近くなった気がします。自分は、1stアルバムのガレージロックやインディロックと言われていた頃の作品というのがそこまで好きになれなくて……今は拙さも理解できた上で好きな部分も出てきましたが。というのも、あの時は何も分からずに作っていたから。それがずっと引っかかってて、いつか蹴りをつけたいと思っていました。今作は、それができた気がします。

和田:でも、基本的な作り方自体は変わってないと思います。近藤のデモを皆で聴いて、意見を言い合って作っていくというのは以前からそうですね。

近藤:自分たちのポップネスにフォーカスしたところは変わったかもしれない。シンセを使ったりダンスミュージックにしたりで蹴りをつける方法もあったんですけど、そういうアプローチじゃないところで、ちゃんと良いものを作りたいなと考えてました。

近藤大彗(Vo, Gt) Photo by Rio Watanabe

—まず今回のアルバムを聴いて思ったのは、今作は近藤さんのソロ活動であるCwondo名義での経験がけっこう反映されているんじゃないか、ということでした。

近藤:それはあると思います。自分から出てくるアイデアの手数が増えてきたから、バンドに渡すものも増えた。

和田:アルバムを重ねるごとに、デモ段階の音源がどんどん洗練されてきている気がしますね。Cwondoの尖っているテイストは入ってきていいと思うし、それがちゃんとNo Busesの枠で消化できれば良い。僕は純粋にいちリスナーとして、Cwondoの音楽が好きなんですよ。No Busesの近藤とは切り離して聴いています。

—Cwondoの音楽って日記っぽいというか、近藤さんの日々の心象風景が揺らぎとして描かれていると思うんです。それがNo Busesにも投影されることで、デビュー当初のガレージな音の良さはもちろん残しつつ、アルバムはこれまで以上に繊細に聴こえました。

近藤:今回、メロディを思いついた時と歌詞を書くスパンを、ガッと短くしました。今までは、譜割りに適合した歌詞を書くことに執着がありすぎたんですよ。でも、そこをくっつけたから繊細に聴こえるのかもしれない。普段思っていることが、ダイレクトに出るようになりました。

—なるほど。過去の作品にさかのぼればさかのぼるほど、歌詞とボーカルがサウンドと一体化していて、リズミカルですよね。今作は、けっこう「歌」に近くなってきました。感情が乗っている。何かきっかけがあったんですか?

近藤:活動しはじめた時は、何に関しても自信がなかったんですよ。でも、最近は少しずつ自分の身近なことを人に話せるようになってきた。バンドを始めた時は(メンタル面で)通院もしていて、今はそういう面でもちょっと楽になってきてるのかもしれないです。まだこういうインタビューの場では緊張しちゃうんですけど……。単純に、人と関わることが増えたというのも大きいと思います。ちゃんと人の話を聞くようになってから、皆表に出さないけど色んなことがあるんだなと思うようになった。

和田晴貴(Gt) Photo by Rio Watanabe

—今、近藤さんが関わっているのはロックシーンの人たちだけじゃないですもんね。色んなジャンルやコミュニティの人がいると思うんですけど、コミュニケーションをとっていて、何か違いを感じることはありますか?

近藤:トラックメイカーの人たちはひとりで向き合う時間が多いので、皆に聴いてもらうまでに誰とも意見を共有しないケースが多い。バンドは共有し合えるので、そういう点でやっぱりちょっと性質は違いますね。もちろん雑にくくったりはできないですけど、ひとりでやってる人たちはストレス過多なところがあると思う。自分が両方やってるから実感していることですけど。バンドで鳴らすのと、プロジェクトとにらめっこするのは全然違う。

—No Busesだと、プロデューサーの岩本岳士さんとの関係性も大きいんじゃないでしょうか。今作ではどういった会話をしたんでしょう?

近藤:どんなアルバムにしたいか、というところから話していきました。あと音楽の趣味も近いし、そもそもご本人が、僕が好きだった世代のアーティストなので(※バンド・QUATTROを経てプロデューサーに)。違うと思った時にちゃんと違うと言えて、折衷案を一緒に探っていけるところも良いですね。

—歌詞については、どうでしょうか。社会的なことや、世の中から受けた影響はありますか? というのも、今回そこが少し強まったなと感じたんです。

近藤:今までも英語でそういったことを書いていたんですけど、今は母語で歌うことが増えたぶん、伝わる感触が分かりやすいかもしれない。でも、受け取った時に、最終的には優しさに転換されるように書きたいなって思ってました。憤りもあるけれど、最後は優しさとして、ちゃんと柔らかく昇華されたら嬉しいなって。

「2010年前後のバンド」へのシンパシー

—柔らかさやポップネスを意識した理由はどこにあるんでしょうか。

近藤:このバンド自体、最初は楽しいからやりはじめて、そのうち人にも聴いてもらえるようになっていったんですよね。でも、ちゃんと考えるようになると、自分たちの音楽は全然良くないかもって思うようにもなった。ようやく、良い悪いのジャッジをする軸ができてきたんです。前は、耳に残るかどうかくらいしかジャッジの軸がなかったんですよ。それを、ポップかどうかという点で細かく分析できるようになった。録音する時の細かいタッチとか、ここが気持ち良いというポイントが共有できるようになってきたんです。なので、ポップネスを意識したというよりも、そもそもそういった違いに気を配れるようになった。

和田:そういった細かいポイントを、言葉で話し合えるようにもなりました。どうしても分からない時はメンバー間で訊いたりしますし。

Photo by Rio Watanabe

—デビュー当初は、バンド名の由来でもあるアークティック・モンキーズやザ・ストロークスが引き合いに出されていましたが、早い段階でそういったサウンドとは距離を置いた印象です。以前の作品に対して不満があったという話もありましたが、昔はうまくできなかったけど今はできるようになったことって、具体的にどういう部分なんでしょう?

近藤:やっぱり時間が経つにつれて、自分たちが聴く音楽の幅も広がっていって。そうなると最初の頃の「この範囲のことしかできないよね」っていう”レンジの狭さ”みたいなものが窮屈に感じてきたんです。でも、2枚目のアルバム(※2021年の『No Buses』)あたりから、そういう制限から少し離れられるようになった感覚はありました。1枚目(※2019年の『Boys Loved Her』)は「これで合ってるのかな?」って手探りで進めていたので、作ったあとにすごく後悔した部分もあって。でも2枚目以降は、しっかり手応えを感じながら制作できるようになった。その違いは大きいですね。

最近は曲を作ってる最中から、「どう着地させたらよくなるのか」っていうのがクリアに見えるようになってきました。あと、自分が好きな音楽との付き合い方も上手になってきたように思います。昔は、好きなものと自分にできることが大きく乖離していて、その差に納得がいかないまま進めていたのかもしれないですね。

—好きな音楽や、ここまでできたら良いなというアーティストは、例えば今回だとどういった人がいたんですか?

近藤:ML Buchもよく聴いてましたし、歌の奥行きや沁み方でいうとジャクソン・ブラウン。あとはアルバムを作る前から、ミスチルもいいなって話もしてました。個人的に、2010年前後のバンドが国内外問わず好きで……。

(※ここで近藤氏の携帯電話に長い着信が入る)

近藤:あ……vqくんから来てます……どうしよう。vqがすぐ電話してくるんです……。

—(笑)。

近藤:あとでちょっとかけ直します。

(鳴り止まない着信)

—vqさん、止まらないですね(笑)。

近藤:いつも一分くらいかけてくれるんです……。あ、止んだ。えっと……そういった2010年代前後のバンドだと0.8秒と衝撃。とかPsysalia Psysalis Psyche、tricot、Kidori Kidoriが好きだったんです。海外だとロス・キャンペシーノス!とか。バンドメンバーの共通項でいうと、そういうのが好き。完成したものを聴いたら、自分ではザ・ヴァクシーンズなんかにも近いのかなと思いました。あと、ダイナミックなことをする瞬間は、キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンが好きなところが出ていたり。

—さっき言っていたポップネスというのは、今挙げたバンドには共通で感じますか?

近藤:感じます。ポップなことと刺激的なことのバランスが良いんだと思います。

Photo by Rio Watanabe

「邦楽ロック」と「実験的なシーン」をつなぐ

—バンド内でも、良かった音源をおすすめし合ったりもしますか?

近藤:あまりしてないかも。

和田:割とそれぞれ籠って聴いてるかもしれないです。

近藤:あ、でも国内のアーティストだと、すごいからライブ観に行った方がいいよ、とか言ってますね。僕は現場にいることが多いから、実際に観てよかったものは教えてます。

和田:それこそバンドでやってる自主企画イベント「I'm With You」のブッキングはほぼ近藤がやってくれてるので、そこで知ることが多いです。やっぱり聴く音楽は増えてますね。

近藤:そういう経験が、今回のアルバムに影響を与えているかもしれないです。前回(※「I'm With You 5」2月11日、下北沢THREEにて開催)はrowbaiさん、サ柄直生さん、倫瑠さん、DJでlostbaggageさん、坂田律子さん、VJで志見祥さんに出ていただいたんですけど、観に来てくれる人たちにもっと広めたいし、一緒に空間を共有したいという想いで二年間続けている。そういうのは、アルバムの内容に関係しているはずです。

「I'm With You」過去5回のフライヤー画像

—デビュー当初のNo Busesが多く聴かれていたようないわゆる邦楽ロックシーンと、Cwondoとして活動しているエクスペリメンタルな音楽シーンって、けっこう分かれているじゃないですか。『NB2』は、その両シーンをつなぐ一枚になるような音楽性だと思うんです。それこそイベント「Im With You」もですけど、No Busesの活動が両シーンのブリッジになるかもしれないなと思っていて。Cwondo名義でtricotのカバーをされていたAVYSSレーベルのコンピ『i.e』などもまさにそういった役割を果たす一枚でしたが。

近藤:そのような想いでやっているところもあるので、そう言ってもらえてうれしいですね。自主企画のイベントもそうですけど、自分たちが作ったもので自分たちだけが潤いたくないという気持ちもあるんです。(デビュー当初)良くないのに、ほんのちょっとだけバズってしまった時期があったことに対して、僕はある種の罪悪感を持っていて。その枠にもっと良いアーティストが入れたよな……とか考えるとすごく嫌なんです。そういう意味でも、自分たちの作品はちゃんと良いものを作らないと説得力がない。今回は良いものが作れたと思っているけど、今後もちゃんとやっていかないと。

—他のアーティストにも還元していきたい、それを続けていくためにも良い作品を作って説得力を高めていきたい、ということですね。

近藤:そうです。ソロでやり始めてからヒップホップの子とかトラックメイカー、エクスペリメンタルな音楽をやっている色んなアーティストと知り合う中で、でも自分の原点はバンドなのでそこを忘れないようにしたいという気持ちもあります。飽きたからってバンドから手を離すのは簡単だと思うんですけど、そうじゃなくて、同じものをずっと見つめ続けながら新たな良いところを引き出していきたい。それと同時に、すごい人たちを紹介する場もどんどん作っていきたいし。

—売れるための場づくりとかコミュニティづくりということが近年言われ過ぎていて、皆が何かしらそういったことをやっていると思うんですけど、でもそもそもの目的や想いが「周囲に還元していきたい」というところにある時点で、やっぱりNo Busesらしいなと感じます。

近藤:うん、これからも続けていこうと思います。

—あと、No Busesはデビュー当初から、むしろ国内以上に海外で聴かれていますよね。そういった点も、制作するうえで何か影響を与えているところはありますか?

近藤:それはあまりない気がします。器用じゃないので、こういう人に聴かれたいというところに狙って作ることはできないというのもあって。でも、聴かれたらうれしいですけどね。日本語でやったけど、ちゃんと海外にも伝わったらいいなって思います。

—息を吐くような抽象的な歌い方をしている曲もありますし、日本語というよりもムードで聴けるようになっているので、母国語が何であろうと感じるものはあるんじゃないかと思いました。

近藤:作りながら、メロディが崩れないようには探っていたので、そこを感じてもらえたらうれしいです。

—国内でも海外でも、今のNo Busesを知らない人にバンドについて説明するとしたらどのように表現しますか?

近藤:うーん……Jメロディ・グレート・バンドですかね(笑)。

—おぉ。「メロディ」というのがやっぱり入るんですね!

近藤:いや、Jメロディ・グレート・リズム・ちょっと変わってる時もあるバンド、みたいな感じかもしれない……。

—(笑)。

和田:自分は、「色んなことやってる、変だけどいいバンド」って説明しますかね。

近藤:でも、言うほど変な感じはしないけど……でも知らない人から見たらちょっと変なところもあるかもしれないのか……。

和田:うん……。

—ちなみに今作だと、メロディを追求した曲を挙げるとしたらどれですか?

近藤:9曲目(「Kaze」)とかは、そうかもしれないです。何回もトライしました。でも、メロディと同じくらいリズムも大事ですよね。リズムは、8ビートにしても何にしても本当に小さいところで違いが出てくる。そう考えると、一番大事にしているのがポップネスやメロディ、というわけでもないかもしれないです。

システムへの怒り、「あなた」への想い

—最後に、歌詞について教えてください。世の中がいかにクソであり、その中で自分はどう生きていくか、というのがテーマにあるように感じました。たとえば「Our Broken Promises」とかは、どういうことを歌いたかったんでしょうか。

近藤:一年半前くらいに、ガザ内でのイスラエルの侵攻に本当に落ち込んでしまって……何も手がつかないくらいの頃にデモを作ったんですけど。きっかけはそれです。誰の物でもない土地や資産を自分の物として囲って……死んだら手放すことになるのに。国家というものがシステムとして出来上がってしまったうえで生まれているから、そこを覆していくのはほぼ難しいと思うんですけど、もっと全員がこの世界における「所有」について根源的に考えられたらいいなと思って書いた曲です。そうなると、そもそも僕たちが家を建てるのに土地を買うこと自体も変なことのように感じてきて。ちょっと宇宙に出たら領土とかないのに、たまたま生活している小さい範囲を奪い合うために殺し合いとかしてる人間って、本当に情けない生き物だなと思う。そういうことを書いてます。本当に小さいレベルのいがみ合いを少しずつなくしていったら、良くなっていくのかもしれないと希望をこめて。SNSでも本当に皆すぐ喧嘩するし、誰かが誰かに怒ってるし。それも分かるんだけど、どこかで誰かが止めれば止まるんじゃないかなと思って。

—「Inaho」の歌詞、たとえば〈稲穂は刈られる皆んな / 白米にする前 / クソが〉という一節もかなり怒ってますよね。

近藤:出来上がった年功序列に対して、思うところを書いてます。循環しない血税みたいなものを、上の世代のために払い続けることへの怒りというか……。下の世代が血反吐を吐いてるところを見ているだけの大人にはなりたくないなって思います。そして、自分が今生きているこの空間に対して不満があるのであれば、自分が変わるしかないなとも思う。

—「Im Your…」では〈ok Ill find you 来世〉というラインがあって、これもすごく良いですね。社会の話をしているけれど、「you」に語りかけている。

近藤:自分の家族とか、友人とか、周りの人とか、この先を生きていく人たちへ。自分のために生きるより、例えばこの先を生きていく子ども達にとって生きづらい世の中になってほしくない。苦しかったり、辛い思いをさせたくない、生まれてきて本当に幸せだったなという思える人生に必ずする。例えば来世すらも。そういう意味を込めてます。今回は、プライベートのことについてもフォーカスしつつ、みんなの目を見ながら歌っているアルバムでもあります。

戦争反対

あらゆる差別反対

家族、友人、隣人を愛すること

システムへの怒り

平和への祈り

宇宙を抱きしめること

自分は非力だがそれでも全力であなたのことを守る

生きてて良かったと心から思える人生に僕がする

そういうことを話してるアルバムですhttps://t.co/DZbVem6YGp pic.twitter.com/WieYLf1pcR — Cwondo 近藤 (@cwondo_) April 27, 2025

—そういえば近藤さんは最近、匿名でもバンドをやっているとポストされていましたね。

近藤:はい、匿名なので言えないですけど、やってます。デモを上げてます。音楽を始めた頃の感覚を思い出したいなって。どういう感覚だったっけ? って気になったんですよ。全然誰にも聴かれないので、あぁこういう感じだったよなって実感してます(笑)。

—SoundCloudに上げてるんですか?

近藤:サンクラとかYouTubeに上げてます。No BusesやCwondoからはたどれないようにしてますね。このまま聴かれないまま消滅する可能性もありますけど。やりたいことはやりたい時にやっておこうと思って。他にもuku kasaiとOniっていうバンドもやってるんですけど、そういった色んな経験を経ることで、No Busesというバンドの立ち位置も再確認できている気がします。『NB2』は、そうやって生まれたアルバムなんです。

No Buses

『NB2』

発売中

再生・購入:https://tugboat.lnk.to/NoBusesNB2

NB2 Release Tour

2025年5月10日(土)東京・The Garden Hall

2025年5月15日(木)名古屋・ElectricLadyLand

2025年5月16日(金)大阪・梅田CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00

前売チケット:

一般 ¥4,000 / U-18 ¥3,000

詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=4413