子ども向けのオンラインスクールやインタラクティブ教育プラットフォームの開発・運営などを手がける「miraii」は4月24日、新たなプロジェクトの発表会を開催した。
新プロジェクト「みらいいパーク」は小学生向けに50種の仕事体験を提供するオンライン体験サービス。その取り組みの一つとして、企業課題にα世代の子どもたちが挑む「CPO(チーフ・プレイフル・オフィサー)プロジェクト」もスタートさせるという。
■CPOの役割は「遊び心を通じて組織の想像力を高めること」
同社は、子どもたちに向けた金融教育、キャリア教育、個性教育を提供してきた企業。2018年の創業以来、全国の親子を対象にサービスを展開し、2025年3月にはイノビオットから現在の名称へと社名を変更した。
発表会の冒頭、miraiiの代表取締役である福田紘也氏がプロジェクト発足の背景とビジョンについて説明。「私たちは、子ども一人ひとりが可能性を切り開ける未来を守る、というミッションのもと活動しています」と福田氏。その取り組みの集大成としてこの日、「みらいいパーク」と「CPOプロジェクト」がスタートを切った。
福田氏によれば、CPOとは「Chief Playful Officer」、日本語に訳すと「最高遊び心責任者」。この役職を子どもたちの中から選出し、企業活動にα世代(2010年代以降生まれ)の感性や価値観を取り入れていく。福田氏は「子どもの遊び心が企業を刺激し、企業、親子、社会全体の変化の起点となることを目指している」とその意義を語った。
さらに福田氏は、社会と教育の間にあるギャップについても触れた。
「社会は副業・兼業など働き方が多様化し、好きなことを仕事にできる可能性が広がっています。しかし、(学校教育という)画一的な教育システムの中では、個性豊かな子どもたちが同じ尺度で測られ、徐々に個性を失ってしまう現実があります」
この課題に向き合うべく立ち上げたのが、オンライン職業体験サービス「みらいいパーク」だ。約50種類の職業を無料で体験でき、ゲームやワークショップを通じて子どもたちが職業への興味を広げられる仕組みとなっている。昨年4月にベータ版をリリースし、すでに小中学生1.7万人が利用しているという。
さらに、自己肯定感や非認知能力を育む「みらいいアカデミア」も展開。こちらは独自のコーチング資格を持つコーチが子どもたち一人ひとりにオンラインで寄り添うサービスだ。驚異の継続率98.6%を記録しており、子どもたちの成長に寄与している。
こうした取り組みの延長線上にあるのが、今回発表された「CPOプロジェクト」である。
「企業との取り組みの中で感じたのは、新しい発想がなかなか生まれない、正解ばかりを探してしまう、会議がマンネリ化しているという課題でした」
この原因を「固定型マインドセット」、すなわち「人の能力は変えられない」という考え方にあると指摘し、逆に「努力や学習によって能力は伸びる」と信じる「成長型マインドセット」の重要性を説いた。
「α世代の子どもたちは、好奇心旺盛で、成長型マインドセットを持っています。彼らが真剣な会議に参加するだけで、大人の発言が優しく丁寧になり、会議がクリエイティブに変わるんです」
こうした体験をもとに、福田氏は「子どもたちの純粋な問いや発想が、企業にイノベーションを起こす触媒になる」と確信したという。
「CPOの役割は、遊び心を通じて組織の想像力を高めること。『なんで?』『こう思う』と自由に発言することが、企業の思考停止を解きほぐし、成長型マインドセットの起点になると信じています」
■「自分の思ったことが役に立って嬉しかった」
続いては情報経営イノベーション専門職大学の松村太郎教授が登壇。国際的な観点からCPOプロジェクトの意義を解説した。
「『勉強しなさい』『宿題やったの』といった声かけが当たり前だった世界から、『楽しかったの?』と問いかける未来へ。CPOの広がりによって、そんな変化が生まれるかもしれません」
今回のCPOプロジェクトについて松村教授は、「子どもの遊び心を企業の新しいプロダクトやサービスに活かす、極めてユニークな取り組みであり、単なる話題作りではない」と評価。NASAの調査を引き合いに出し、「5歳児は創造性テストで98%のスコアを出す一方、30歳では2%に落ち込む」と紹介。教育や社会が固定概念を植え付け、創造性を抑え込んでしまう現状を指摘した。
「子どもたちの創造性をどう活かすか。企業が枠にとらわれない発想でビジネスを進めていく上では、その視点が不可欠。 企業が子どもたちをCPOとして迎えるとき、彼らの天才的な想像力をダイレクトに組織に取り込むというところが、このプロジェクトのひとつの醍醐になると思います」
さらに、企業参画事例として、パナソニック エレクトリックワークス社の植田真矢氏が登壇。CPOに選ばれた子どもたちは、大阪・関西万博に出展中のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」で演出に参画するなど、取り組みを深めている。
植田氏はCPOプロジェクトについて、「我々企業側としては、CPOの子供たちの意見をしっかり、真摯に受け止めて、我々の考えに活かしていくっていうことが重要。最近は将来世代との対話が注目されていますが、CPOという活動が今後、その具体的な事例として広がっていくことに期待しています」と語った。
トークセッションのパートでは、CPOメンバーの入田優くんも登壇。みらいいアカデミアでパナソニックが実施した「光を楽しむ未来をつくる〜α世代との共創プロジェクト」に参加し、約4カ月間にわたって共創活動に取り組んだ。
「『これを言ったら変に思われるかな』ということでも、実際に言ってみたら、『それ面白いね』と言われて驚きました。 自分の思ったことが役に立って嬉しかったです」
入田くんはパナソニックが開発中のIoT照明「ILLUMME」を使い、ペットの犬が深夜にトイレをした際に報せてくれるセンサーを開発。犬がオリジナルのシートに乗り、10秒間居続けたらライトが光る仕組みを採用した。
「お母さんに『何か大変なことはないか』って聞いたときに、『夜にペットのトイレの処理をするのが面倒』と聞いて、それを楽しく解決できるような作品を作りました。 光の色や光り方で人の気持ちをワクワクさせたり、逆に自分が楽しくなったりすることが分かりました。ILLUMMEを使えば、僕でも光で人の心を変えられると知って嬉しかったです」
子どもたちの遊び心が、企業を変える。miraiiが描くこの新しい挑戦が、社会にどのようなインパクトをもたらすのか。今後の展開に注目が集まる。