ヤマハ発動機が昨年10月、横浜オフィス内にオープンした共創スペース「リジェラボ」。単なる共用スペースではなく、“共創”の名の通り、さまざまな企業などと共に未来のビジネスを生み出していく場だという。

今回は、このプロジェクトを立ち上げたヤマハ発動機の共創推進グループリーダーである福田晋平さんに、リジェラボに込めた想いやこれから目指す未来について話をうかがった。

  • ヤマハ発動機の共創・新ビジネス開発部で共創推進グループリーダーを務める福田晋平さん

「地球も人も喜ぶ」新しい体験を生み出していく場所

――まず、「リジェラボ」とはどのような場所なのか、改めて教えていただけますか?

リジェラボは、2024年10月にオープンしたヤマハ発動機の共創スペースです。正式には「YAMAHA MOTOR Regenerative Lab」で、「リジェネラティブ」は“再生”といった意味の言葉になります。

  • コクリエーションスペース「リジェラボ」

――リジェネラティブ……まだあまり馴染みのない言葉ですよね。

そうですね。言葉自体もちょっと発音しづらいし、覚えづらいんですよね(笑)。そこで、「リジェネラティブラボ」を略して「リジェラボ」という愛称にしています。ヤマハモーターの“リジェネラティブ”を象徴する拠点という意味で名付けました。

――なぜ「リジェネラティブ(再生)」をテーマにしたのでしょうか?

もともと私たちヤマハ発動機は、バイクやボート、スノーモービルなど、自然の中で楽しむ乗り物を通して“感動体験”を提供してきました。しかし、これからの時代はただ自然を消費して遊ぶのではなく、「地球も人も喜ぶ」ような新しい体験を生み出していく必要があります。

そこで、サスティナブルをさらに一歩進めて、「自然環境そのものを再生していく」という考え方、“リジェネラティブ”な視点を新しい事業や活動にも据えていくことにしました。

ただし、このテーマは非常に広く、私たちヤマハ発動機だけでは到底成し遂げられません。だからこそ、有識者の方々や他企業、スタートアップなど、多様な人たちと共創するための場として、このリジェラボを立ち上げるに至りました。

――この空間自体の特徴、デザインへのこだわりについて教えてください。

たとえばテーブルなどには、東京オリンピックの近代五種競技で実際に使われていた、当社製プールの一部を使用しています。ほかにも、船の操船するためのハンドルを再利用したテーブルや、廃棄物処理場に捨てられていたスノーボードで作ったデスクなどもあります。

初めて訪れる方でも自然とリジェネラティブに関する会話が生まれるよう、いろんなアイデアを元に空間を設計しました。ざっと見て回りましょうか。

  • 廃棄されたスノーボードを利用して制作したデスク

  • この大人数用のソファも……

  • ヤマハ発動機の工場でエンジンを乗せるなどして使われていた台車をアップサイクルして活用している

  • テーブルや壁の素材には、ヤマハ発動機が製造した「プール」の底なども利用されている

  • プールを製造する過程で生じた端材なども展示。これを見た他企業の来訪者が、新たなリサイクルのアイデアを思いつく可能性も考慮しているという。まさに「共創」だ

  • 海洋プラスチックごみにもなる“漁網”から作られたイス

  • クッションは水上バイクの梱包剤をアップサイクル。従来のデザインをそのまま活かしている

共創するには、まずはその前に共感してもらうことが重要

――本当に、あらゆるものにエピソードが含まれているんですね。それでは改めて、この横浜という場所を選んだ理由には、どのような背景があるのでしょうか?

ひとつは人材獲得の観点です。これまでヤマハ発動機のR&Dや企画系のメンバーは静岡県磐田市の本社に集まっていました。でも今の時代、特に新入社員や中途採用において、静岡という場所がハードルになるケースもある。だから、首都圏に拠点を持つこと自体が大きな意味を持っていました。

もうひとつは、共創の観点です。スタートアップや大学、研究機関、大企業も含め、共創相手としてのリソースが圧倒的に東京を中心とした首都圏に集積しています。さらに、海外とのゲートウェイとして羽田空港も近いですし、首都圏に出ることで圧倒的に出会いの機会も増える。そんな理由から、この横浜に拠点を構えることにしました。

――実際、リジェラボは現在どういう空間として使われているのでしょうか?

ひとつは、私たちの活動を発信するための場です。「人と地球、両方が喜ぶような新しい遊びをつくりたい」という思いを、多くの人に知ってもらいたい。たとえば、オープニングイベントでは環境省の方や環境系スタートアップの方もお呼びして、パネルディスカッションやワークショップを行いました。NewsPicksさんの「Re:gionラジオ」の公開収録も行いました。

もうひとつは、他社との共創を促進する場です。たとえば「共創ミートアップ」として、周辺のメーカーやインフラ系企業、電鉄系企業の方々と「そもそも共創ってなんだろう?」というテーマでオープンにディスカッションする機会をつくっています。業界の垣根を超えて、新たな出会いやコラボレーションを生むきっかけを大切にしています。

そして最後に、私たち自身の実験・挑戦の場。今、実際にどんな新規事業を探っているのか、どんな課題があるのかをリアルに共有する「Now Regenerating」というシリーズイベントも毎月開催しています。その他、社内の他部門もこの場所を活用していて、車いすのディーラーミーティングや新商品の発表会など、さまざまな使い方をしています。

――最後に、今後リジェラボで目指していきたいビジョンがあれば教えてください。

共創するには、まずはその前に共感してもらうことが重要です。リジェネラティブの活動を促進していくため、今後も小規模イベント、大規模イベントの二軸で取り組んでいきたいと思います。また、社内外のいろいろな方にご利用いただき、「共創の確度を上げる」といった観点での利用率の活性化などにも取り組んでいきたいですね。


  • (左)一緒に案内していただいたヤマハ発動機共創・新ビジネス開発部共創推進グループ鈴木啓文さん、(右)福田晋平さん


共感がめぐり、共創が生まれ続ける拠点「リジェラボ」。このクリエイティブでサスティナブルな空間から生み出される、「人も地球も喜ぶ、新しい遊び」を我々も心待ちにしたい。