
4月6日(日)、渋谷Spotify O-EAST&O-WESTの2会場にて、新たな音楽イベント「RIOT」が開催された。出演者はKroi、BREIMEN、Hedigans、w.a.u(collective band set)、さらさ(Band set)、PAS TASTA、JUMADIBA、S.A.R. 、Roka(O.A.)の9組。オフィシャルレポートを掲載する。
本イベントを主催したのは、Kroiなどを担当するマネージャーが代表を務めるマネジメント/レーベル・anon。SNSやストリーミングサービスの興隆によって、2020年代はリスナーもミュージシャンもジャンルを超えて音楽に触れる”ボーダレスでミクスチャー”な時代になっているが、音楽フェス/イベントのラインナップは一辺倒であり形骸化が進んでいることをanonは危惧し、多様な音楽をキュレーションするフェスとして『RIOT』を立ち上げた。
Roka (Photo by Renzo Masuda)
オープニングアクトとして出演したのはanon所属の注目株、シンガーソングライター・Roka。ギター、ベース、キーボード、ドラムに加えてコーラスが2人入った編成で、イベントの1曲目からいきなりメインディッシュを味わったような感覚になるほど、贅沢な歌とグルーヴで会場を揺らした。昨年リリースした「CUTENESS」「冷めぬまま」に加えて、近日リリース予定の3rdシングル「So In Love」も披露。オーディエンスはR&BやソウルをルーツにするRokaの歌に酔いしれた時間だった。
S.A.R. (Photo by Kaito Ono)
Kroiと同じIRORI Recordsからメジャーデビューが決定しているオルタナティブクルー・S.A.R.は、O-WESTに入場規制がかかるほどの人気っぷり。最新曲「Back to Wild」や「Side by Side」など、4つの楽器と歌を緻密に構築しながら緩急を操り、santa(Vo)の英語と日本語を混ぜたスムースな歌声が漂う中に、Imu Sam (Gt,MC)の英語のアクセントが立つラップがスパイスを効かせる。そのコーラスワークからもブラックミュージックへの愛がふんだんに感じられる「Uptown」は、自然とコール&レスポンスが起こるほどS.A.R.のアンセムと化している。S.A.R.が自分たちの美学と音楽性を曲げずにメジャーシーンを掻き回せば、日本のメインストリームの景色はまた大きく変わるだろう。そんなことを期待したくなるステージだった。
w.a.u (Photo by Renzo Masuda)
クリエイティブコレクティブ/レーベル・w.a.uのセットは、w.a.u.のプロデューサー陣であるKota Matsukawa(voquote)、Ryuju Tanoue、Kazuho Otsuka(01sail)、Reo Anzai(Sakepnk)、Gai seki、Koki Furukawaがバックバンドを務め、コーラスとしてRaylowgh Annno、Julia Takadaが参加するスペシャルな編成で、reina、さらさ、Lil Summer、Ámina、MÖSHIがボーカリストとして入れ替わり登場するスタイル。まずステージに上がったのは、Spotifyが選ぶ注目の次世代アーティスト「RADAR: Early Noise 2025」に選出されており、国内のR&Bシーンに新たな風を吹かせているreina。そこにさらさ、Lil Summerが順番にジョインすると、それぞれの個性的なフロウや歌声がw.a.uの演奏に溶け込み、フロアにいる一人ひとりの身体へ染み込んでいった。日本とスーダンをルーツに持つシンガー・Áminaは「With My Heart」の1曲のみの登場だったが、90s R&Bを再解釈したトラックとともにパワフルな歌を届けると、会場がどよめくほどの歓声と拍手が鳴った。最後はロンドンの芸術大学出身のラッパー/ファッションデザイナー・MÖSHIが登場し、重たいビートと歪んだギターが鳴り響く中でメンバーがヘドバンまでする状況を作り出し、空気を塗り替えてステージを颯爽と去った。多彩なリズムや音色が鳴り響いた50分は、日本のオルタナティブR&B/ネオソウルカルチャーが確実に面白く進化していることを確信させるものだった。
JUMADIBA (Photo by Kaito Ono)
w.a.uとMÖSHIが作り出した空気を受け継いだのは、O-WESTのステージに登場したJUMADIBA。JUMADIBAもまた、国内のヒップホップシーンや日本語でラップすることの可能性を広げているアーティストである。最新曲「Chrome Hearts」含め、飾らない姿のままマイクを握り、まるで和紙に筆で綴るような滑らかなフロウを続けた。脳内の景色を広げてくれるトラックにオーディエンスが身体を揺らしていると、「今日はみんなと目が合いますね」とフロアのリアクションに喜ぶ。最後は「初めてJUMADIBAを見た人!」という呼びかけに多くの手が上がったフロアに向けて、「音楽を始めたときに自分で作ったビート」「これが自分の曲だなとずっと思ってる」という「Spike!」を名刺代わりに届けた。
Hedigans (Photo by Renzo Masuda)
Hedigansはスタートから「LOVE(XL)」の曲名通り、人間に対する特大の愛を音楽に乗せる。「その後…」では、野生的な発声も交えた演奏にYONCE(Vo,Gt)が自然と手を叩いたり拳を突き上げたりすると、オーディエンスも本能が呼び覚まされたかのように盛り上がる。MCでは「それぞれですか?」と呼びかけて、「今日もそれぞれだな。誰ひとりとして同じじゃない。いいですね」と一人ひとりの自由を肯定。音楽への愛を歌に乗せた「再生」で至福なメロディを耳に流し込んだかと思えば、「説教くさいおっさんのルンバ」「敗北の作法」ではサイケデリックなムードも加えてオーディエンスを圧倒させる。「敗北の作法」の曲中で「負けたことがある人!」という異例な煽りをして、たくさんの手が上がったのに「手を上げても何もないから」というところまでHedigansらしい。最後はメンバーも自由にステージ上を動き回った「Oshare」でロックバンドとしての爆発力を見せた。あらゆる社会の束縛をほどき、人間らしさを思い出させてくれる音楽、それがHedigansだ。
PAS TASTA (Photo by Kaito Ono)
hirihiri、Kabanagu、phritz、quoree、ウ山あまね、yuigot、6人の気鋭プロデューサー/アーティストによる音楽ユニット・PAS TASTAは、DJセットで登場。PAS TASTAの音源からは、友達が公園で集まって「音楽」という遊びを楽しんでいるような空気が浮かんでくるが、ライブでも、一人ずつDJを交代しながら全員がターンテーブルの周りでハネているのが微笑ましい。The Beatles「Come Together」、The Kid LAROI & Justin Bieber「STAY」などの究極のポップソングのリミックスをかけながら、キタニタツヤがボーカルを取ったことでも注目を集める「亜東京」、マイクでシャウトした「BULLDOZER+」など、PAS TASTAの楽曲も交える。その姿勢には、ハイパーポップやインターネット音楽にとどまるのではなく「とにかくデッカいJ-POP」を標榜するPAS TASTAの意志が込められているようだった。途中でJUMADIBAが登場し、「DOSHABURI」を歌った瞬間は、待ってましたと言わんばかりの熱気がフロアに生まれていた。
BREIMEN (Photo by Renzo Masuda)
オルタナティブファンクバンド・BREIMENは、「脱げぱんつ」でジョージ林(Sax)がサックスソロを吹き荒らしたあと、「あんたがたどこさ」にはメンバー紹介を兼ねたセッションを挟む。2曲を終えたところで、すでに20分が経過している。持ち時間30分のフェスセットではありえない環境を提供するのが『RIOT』であり、ライブではフロントマン・高木祥太(Vo,Ba)が指揮を執りながらアレンジとアドリブを盛り込みまくるのがBREIMENだ。「D・T・F」ではいけだゆうた(Key)によるジャズを基調としたソロプレイを挟むなど、「オルタナティブファンクバンド」を掲げながらもファンクだけでなく多様な音楽要素を自分たちのモノにしているが、その情緒溢れる歌/詩と5人のキャラクターによってポップに仕立がるのがBREIMENの魅力。TVアニメ『Dr.STONE』のエンディングテーマ「Rolling Stone」、初期の名曲「IWBYL」を続けたあと、最後はオーディエンスがその壮大なサウンドスケープに息を呑んだ「L・G・O」。驚異的な振り幅を見せながら、特別な集中力や技量が必要なことも余裕綽々とやってしまうBREIMENの凄さを目の当たりにした。
さらさ (Photo by Kaito Ono)
w.a.uのステージにも登場し、O-WESTのトリを担ったさらさもまた、国内のオルタナティブR&B/ネオソウルシーンを更新しているシンガーソングライターである。この日はバンドメンバーにyuya saito(Gt/ex. yonawo)、松浦千昇(Dr)、オオツカマナミ(Ba)、石田玄紀(Key,Sax)を引き連れて登場。中盤のMCでは、コロナ禍に作った「グレーゾーン」に込めた「自分の考えや想いに必ずしも白黒つけなくていい」といった彼女の考えを丁寧に語り伝えた。そんなメッセージをたゆたう音の上で届けると、《気ままに踊れたら》という歌詞の通り、フロアは思い通りのまま身体を揺らす。『RIOT』に集まる音楽ラバーたちのリアクションにさらさは、「ノリノリだね」と微笑んだり手をハートにして感謝を伝えたりする。最後は「Amber」で締めくくり、心の中の青い部分を紡ぐさらさの懐の深い歌は、聴き手の哀しみをすくいあげて心をフラットに戻してくれるものであることを感じさせた。
Kroi (Photo by Renzo Masuda)
『RIOT』初回のヘッドライナーを飾ったのは、Kroi。盟友・BREIMENに負けじと、変幻自在なライブアレンジを施しながら迫力あるバンドアンサンブルで圧倒させる。全力で駆け抜けながら、パンパンなフロアがイントロで歓声を上げるほどの人気曲「Sesame」から「Amber」へ繋げたとき、内田怜央(Vo,Gt)は声を詰まらせた。代わりにオーディエンスが合唱を始める。曲を終えたところで、「喉潰したわ!」「マネージャーの安藤はインディの頃から一緒にやってきた戦友。安藤の晴れ舞台に感極まって喉を潰しました」と内田。後半は急遽セットリストを変更し、まずは「HORN」。予定通り演奏した「侵攻」では、歌うようなギターソロでも魅せた。最後は「潰れるのも早いけど、治るのも早い」と勢い付けて、腹の底からシャウトしてみせてから「Juden」。それぞれのソロ回しでも歓声を誘い、《Everybody Funky》のコール&レスポンスで大円団を迎えた。アンコールでは、ジェットコースターのような勢いのライブアレンジでアウトロの余韻も長めの「Fire Brain」を爆発させた。ピンチを熱狂に変えたKroiだった。
ジャンルを横断しながら新たな音楽を生み出しているアーティストたちが集結した『RIOT』。オーディエンスは自由に踊りながら音楽を楽しみ尽くし、フロアはずっと多幸感に満ちていた。Kroi・内田は「絶対に2回目やってください! みんな絶対に2回目も来てください!」と『RIOT』第2回の開催を予感させた。それを叶えるためにもっとも必要なこととは、内田が最後に残した言葉の通りだろうーー「こういうヤバい夜をこれからもみんなで作っていこうと思うので、音楽を好きでいてください」。
テキスト:矢島由佳子
<開催概要>
「RIOT」
2025年4月6日(日)東京・渋谷Spotify O-EAST / WEST(2会場)
時間:14:30開場 15:30開演
出演アーティスト:Kroi / さらさ(Band set) / S.A.R. / w.a.u (collective band set) / JUMADIBA / PAS TASTA / Hedigans / Roka(O.A.)
主催:anon LLC
制作:01creative
問い合わせ先:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (平日12:00~15:00)
イベント公式SNS
Instagram:https://www.instagram.com/riot_tokyo_