
アルゼンチン出身のデュオ、”カトパコ”ことCA7RIEL & Paco Amoroso(カトリエル&パコ・アモロソ)が、いま世界中の注目を集めている。NPRの「Tiny Desk Concert」のパフォーマンス映像はすでに3000万回再生を突破。今年3月にはミニ・アルバム『PAPOTA』をリリースし、4月のコーチェラ出演を経て、7月にはフジロックに出演する。プログレッシヴ・トラップと形容される実験性に富んだサウンド、奔放なユーモアとエネルギーを兼ね備えた異才デュオに最新インタビューで迫る。
左からPaco、CA7RIEL
昨年、ラテン音楽界で最もエキサイティングな存在として注目を集めるきっかけとなった「Tiny Desk」でのパフォーマンスがバイラルになる以前、CA7RIEL & Paco Amorosoの幼なじみデュオは、母国ブエノスアイレスでアンダーグラウンドのロックバンド「Astor」として7年間、無名のまま活動を続け、自らのスタイルを磨き上げていた。
「前のバンドでは結局アルバムを出すことはできなかったけど、ひたすらライブをやり続けて、失敗から学びまくったよ」とCA7RIELは、アルゼンチンのスラングを交えたスペイン語で語る。「ステージの上こそ、自分の真価を見せる場所なんだ。ギャラでピザを3枚買って、会場にビールをおねだりして、"オマエらカッコいいから"と言ってもらってタダで飲ませてもらう。それが俺たちのライフスタイルだった」
「重く感じたことはなかった」とPacoが続ける。「観客50人とか、少ないファンの前で、自分たちで機材を運んで演奏してたけど、全部がでっかいパーティーみたいなもんだった。当時の俺らにとって資本主義の概念なんてまるで違ってたよ。世界はここ数年で変わりすぎたし、俺たちも一緒に変わった。でも全部が変わったわけじゃない。今でもツアーすれば赤字になるし、友達のミュージシャンたちを一緒に連れて行くのをやめられないんだ」
CA7RIELとPacoは小学校で出会った。ジャズ、ヒップホップ、プログレッシヴ・ロックに夢中だった彼らの現在のドラマーの腕には、エマーソン・レイク・アンド・パーマーのロゴのタトゥーが入っているという。かつてのバンドでは、プログレとファンク、レゲエを融合させていた。運命を変えるため、彼らはラップを始め、アルゼンチンで爆発的に盛り上がっていたトラップシーンに飛び込み、2019年のヒット曲「OUKE」でブレイク。デビュー・アルバム『Baño María』は昨年リリースされ、歌詞は二人が手がけ、ロサンゼルスを拠点に活躍するFederico Vindverら実力派プロデューサー陣が音楽面を支えた。
世界に発見された「Tiny Desk」の舞台裏
「Tiny Desk」出演のチャンスが舞い込むと、彼らはすかさず動き、アメリカのアレンジャーを起用。さらに、ブラスセクション、パーカッション、女性ボーカルを加えてバンドを強化。NPRワシントンD.C.のオフィスでの収録に向けて、米国でリハーサルを行った。ディープなファンクとラテンジャズに、CA7RIELのギター、Pacoのハスキーなフロウ、そして二人のいたずらっぽいユーモアが混ざり合った「Tiny Desk」でのライブは、肩の力が抜けた多幸感とリラックスした友情がにじみ出ており、ラテンアメリカ音楽の魅力を象徴するようなソウルフルなエネルギーに満ちていた。
特にセッションの2曲目「El Único」は、彼らのアプローチをよく表している。PacoとCA7RIELが最近の艶事について冗談交じりに語り合い、最終的にそれが同じ女性の話だったと判明する――そんな内容で、サビのパンチライン〈俺たち、同じ女の子と寝てたんだ〉(weve been f*cking the same girl)がネットミーム化して一躍話題に。その後に続く電気ピアノのソロは、70年代のチック・コリア率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーの神秘的な空気を思わせる。ときに下品な表現を楽しむ一方で、音楽的な訓練の洗練は一切隠さない。結果的に彼らの「Tiny Desk」は、華麗さと野蛮さが見事に共存するパフォーマンスとなった。当時はまだほとんど無名だったにもかかわらず、この映像は公開されるや否や大きな反響を呼んでいる。
「このセッションがどう実現したかって話、今思うと笑えるよ」とPaco。「準備期間は2週間。何も進まなくて焦ってたし、リハでは体調を崩すし、衣装は最悪だし、ブラスはクソみたいな演奏してた。でも、結局そんなの関係なかった。ちゃんと準備したのにダメな時もあるし、今回は"油漏れながら"(訳注:スペイン語圏の言い回しで「ヤバいくらいビビってた」の意)現場入りした感じだったけど、最高だった。ずっと一緒にやってきた友達ばかりだから、ケミストリーがあって、魔法が起きた。期待値ゼロだったことも成功の要因だったと思う」
「俺たちは裏切り合ったりしない」とCA7RIELも加える。「演奏がひどければ、ちゃんと言うよ。でも、それをちゃんと自分たちで立て直す。無理にお互い気を遣うようなことはしない。自分たちの納得いくまで音を磨き続けてるだけなんだ」
そして今、世界中が彼らに注目している。2025年のツアー「Baño María」 では、4月のコーチェラ、7月のパリ版ロラパルーザをはじめ、欧米各地を回る多数の公演が予定されている。
最新EP『PAPOTA』(タイトルは筋肉増強剤のスラング)は、「Tiny Desk」全編と、新曲4曲を収録。リードシングル「IMPOSTOR」は、突如訪れた成功の戸惑いや、音楽業界人からの的外れなアドバイス、「自分はまがいものではないか」と感じるインポスター症候群の苦悩を、ユーモアと感傷を織り交ぜて描いている。そして、〈終わったな/俺たち、もう終わりだよ〉(Fucked up / I think were fucked up)と英語で歌うサビには、〈「Demasiada presión〉(プレッシャーが重すぎる)」というスペイン語のフレーズも乗る。
CA7RIELとPacoは、ここまでの大きな成功を想像していたのだろうか?「世界を回って、誰かに”君たちの音楽が好きだよ”って言われる──そんな夢はずっと抱いていた」とPacoは言う。「でも、こんなにもたくさんの人に言われるなんて、想像もしてなかった。本当に現実とは思えないよ」
「俺たちはすぐに飽きるから、毎回何か新しいことをやろうとしてる」とCA7RIELは続ける。「人をザワつかせる方法なんて、いくらでもあるからね」
全米テレビ初登場で筋肉スーツ着用パフォーマンス。今年4月、「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」にて
カトリエル&パコ・アモロソ
『PAPOTA』
再生・購入:https://ca7rielpaco.lnk.to/papotaNW
FUJI ROCK FESTIVAL '25
2025年7月25日(金)、26日(土)、27日(日)
新潟県・湯沢町 苗場スキー場
※カトリエル&パコ・アモロソは7月26日(土)出演