制限50キロの道路でも原付バイクは30キロ、日本人の0.1割も知らない根拠とは!

【問題】 高速自動車国道の本線車道での普通自動車(三輪とけん引車を除く)の法定最高速度は、時速120kmである。 〇?×?」というクイズを、JAFMateさんのX(旧Twitter)に見つけた。

正解は「×」。法定速度はあくまで時速100kmだから…。ぴんとこない方がおいでかも。なぜ「×」が正解なのか、僭越ながら私めが解説させてもらおうと思う。そのうえで、私のほうから、超難問を出題しちゃおう。

そもそも道路交通法(以下、道交法)では、最高速度(いわゆる制限速度)についての規定は、こうなっている。

「車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない」(第22条第1項)

まずは標識などで指定された最高速度(指定最高速度。以下、指定速度)を守りなさい。その他の道路、つまり標識がない道路では、政令のほうで定めた速度(法定最高速度。以下、法定速度)を守りなさいってことだ。

「道路標識等」とは、道路標識また又は道路標示をいう(第2条第1項第4号)。指定速度などの交通規制は、都道府県の公安委員会が決める(第4条第1項)。

「政令」とは道交法施行令だ。例えば施行令の第11条が、いわゆる一般道ではクルマは60キロまで、原付バイクは30キロまで、などと定めている。施行令の第27条が、高速道路では、バスやクルマやバイク(大型自二と普通自二)などは100キロまでと定めている。これが「法定速度」だ。

指定速度、つまり標識の制限速度が優先、標識がない場合は法定速度、そういう組み立てなのである。ゆえに、法定100キロの高速道路に制限120キロの標識があったり、法定60キロの一般道(バイパスなど)に制限70キロの標識があったりするのだ。

指定速度と法定速度のこと、知らない人がけっこうおいでと見込んで、JAFMateさんはクイズにしたんだろうね。さあ、以上を踏まえて、私めから超難問を出題しよう。こうだ。

【問題】 指定速度が優先なのに、原付バイクは法定速度を守れ、それって本当?

■指定速度が優先なのに、原付バイクは法定速度、その根拠は!

「なに言ってんの。40キロや50キロ制限の標識があっても、原付は法定30キロ、常識じゃん(笑)」

と思うでしょ。私もそう思った。だけど、ようく考えてほしい。前述のとおり、指定速度が優先なんだよ。原付バイクだけは法定速度が優先だというなら、指定速度が20キロの道路はどうなるの? 20キロ制限の標識って、たまにあるでしょ。クルマは20キロ以下で走れ、原付バイクは30キロまでOK?

おかしい。どうなってるんだ。交通違反マニアな私は、道交法を、道交法施行令を、道交法施行規則を調べた。精査した。しかしどうにも謎が解けない。もしかしてこれは、国をあげての壮大なポカミス? 「ミスっちゃいました。てへっ」では済まんでしょ!

もう、警察庁を問い詰めるしかない。となったところで、ふと思いついた。念のため「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」(いわゆる標識令)をチェックしとこう。チェックした。がーん! なんと、謎は標識令に隠されていた!

標識令の第2条にこうある。

「道路標識の種類、設置場所等は、別表第一のとおりとする。」

「別表第一(第二条関係)」には「案内標識」、「警戒標識」、「規制標識」、「指示標識」、「補助標識」の5種類が、もうたーくさん定められている。そのうちの「規制標識」に、こういうのがあるのだ。「……」で一部省略する。「交通法」は誤記じゃない。道路交通法を「交通法」と呼ぶと標識令の第7条にある。

種類:最高速度

番号:(323)

表示する意味:交通法第二十二条の道路標識により……

設置場所:……区域又は道路の区間の前面及び……区間内の……」

核心は、「表示する意味」だ。が、やたら長いうえ、丸カッコが入り乱れまくっちゃって、解読困難の極みといえる。慣れない方は耳から煙りがたちのぼり、全裸で外へ走り出しそう。ここに引用するのは控える。チャレンジ精神のある方は、「e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/ 」の検索窓に「道路標識」と入力して実行ボタンをどうぞ。くれぐれもお気を付けて。

■制限速度の標識に隠された特別な「意味」

私はこの道40余年のマニアだ。全裸ぎりぎりで解読に成功した。最高速度の標識は、原付バイクについては、2つの「意味」を持つんだね。

1、原付バイクは原則対象外

2、指定速度が原付バイクの法定速度より低い場合のみ、原付バイクも対象とする

標識令がそう定めているので、原付バイクは、指定速度が40キロでも50キロでも、法定30キロを守りなさい、指定速度が20キロなら、指定速度を守りなさい、となるんだね。

これぞまさしく、日本人の0.1割も知らない、スーパーハナタカ(鼻高)知識に違いない。いや、私もねえ、今回ふと気になって調べてみるまで、ぜんぜん知らなかった。なんとなく「原付は30キロ」と思い込んでいた。交通違反は奥が深い、つくづくそう思ったのであった。

なお、「なぜ30キロなのか」については、ご存知のとおりだ。すなわち、50問中45問正解で合格の簡単な学科試験だけで、16歳から運転免許を取得できる、そのような車両ゆえ、安全のため速度は30キロまでとするのだ、と。

文=今井亮一

肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。