
ブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)は新たな道を開拓し続けるバンドだ。デビュー当初にフロントパーソンを務めたアイザック・ウッドの脱退を経て再出発した彼ら彼女らが、2023年の『Live at Bush Hall』に続く通算4作目のニューアルバム『Forever Howlong』を完成させた。
既報のとおり、今作ではタイラー・ハイド、ジョージア・エラリー、メイ・カーショウという女性メンバーがリード・ボーカルと作曲を分担。ジェームズ・フォード(アークティック・モンキーズ他)をプロデューサーに迎え、芳醇かつ色彩豊かなチェンバー・ポップを奏でている。アイザック期のポストパンク的な緊張感は遠く過ぎ去り、バンドは越境精神とマキシマリズムを継承しつつ、さらにその先へと歩を進めた。
2023年4月の来日公演で「Salem Sisters」「Two Horses」「Nancy Tries to Take the Night」の3曲が世界初披露されたように、今作には近年のツアーを通じて磨きをかけたレパートリーを収録。制作にあたって(今回も)コンセプトは設けなかったそうだが、全編に通底するハッピーサッドな甘酸っぱさが、ソング・サイクルとしての統一感をもたらしている。「私たちがどういう人間で、どこに向かっていて、どんなものが好きなのか。みんなで模索しながら進めていった」というメイの説明どおり、3人のソングライターに加え、男性陣のルイス・エヴァンス、チャーリー・ウェイン、ルーク・マークもそれぞれの個性を発揮しつつ、互いを尊重し、影響を与え合うことで新たな傑作が誕生した。
そういう意味では、前作で〈BC, NR friends forever〉と永遠の絆を掲げた6人が、よりBC, NRらしくあること、共同体としての結束を深めることが、今作のコンセプトだったとも言えるのかもしれない。「このアルバムは人生そのもの」と語るチャーリーは、今作でほとんど演奏経験のなかったリコーダーに挑戦しており、この楽器は第4章における”変化”と”民主主義”のシンボルとなっている。その辺りの経緯も含めて、彼とメイに語ってもらった。
※2025年12月に来日決定、詳細は記事末尾にて
タイラー・ハイド作曲の「Happy Birthday」
メイ(写真左上)は今作からアコーディオンを導入、チャーリー(左下)はドラムを担当(Photo by Eddie Whelan)
”誰かと寄り添いたい”という気持ち
—1月末に先行リリースされた「Besties」を聴いた時点で、BC,NRのチャプター4も最高だと確信しました。サウンドは祝祭感に満ちていますが、歌詞を読むとほろ苦い。ジョージアさんの作曲ですが、お二人はどんな印象を抱いていますか?
チャーリー:ジョージアが「Besties」を書いたのは、このアルバムの制作が最終段階に差し掛かった頃だった。その時点で、すでに多くの曲が仕上がっていて、僕たち自身は「アルバムはほぼひとつの作品としてまとまった」と感じていたんだよね。
その頃、ロンドンでいくつかライブをやったとき、友人から「新曲は素晴らしいけど、もう1〜2曲グルーヴィーなものが欲しいかもね」と冗談めかして言われたんだけど、僕は名案かもしれないと思った。自分たちがまさにグルーヴィーな曲を求めていたんじゃないかって気づかされたんだ。「Besties」はバンドとして会話しながら演奏しているように感じられて、僕たちとしては珍しいスタイルの曲なんだよね。
メイ:そう、「すごく綺麗に書かれているな」と思った。コードが途切れることなく、シームレスに流れていく感じ。一見シンプルに聞こえるけれど、巧妙な作りになっている。最初から最後まで一貫したムードがあるのもいいよね。「ここで拍子を変えてみよう」とかやってみたくなることもあるけど、そういうことをしなくてもエネルギーを保つことができるんだなって。本当によくできた曲だよね。
—アルバム全体を聴いて、時代を超越したようなフォークアンサンブルに驚かされました。どこか中世的でもあり、1970年代の香りもあって、未来的でもある。サウンド面ではどんなコンセプトがあったのでしょう?
メイ:今回も明確なコンセプトがあったわけではなかったかな。「こういう要素を盛り込もう」みたいに考えたわけではなかった。それよりは、私たちがどういう人間で、どこに向かっていて、どんなものが好きなのか。みんなで模索しつつ進めていった感じ。少しだけコンフォート・ゾーンから押し出されるような感覚もあって。質問の答えになっているかわからないけど……。
つまり、何か特定のコンセプトがあったわけではなくて、一曲ずつ作っていったということ。それがまた次の曲へとつながっていくような感じ。ビリヤードの球が転がっていくうち、気付いたらテーブルのうえに”全体像”が浮かび上がってくるような、そんなイメージ……チャーリーはどう思う? この比喩、合ってるかな?
チャーリー:結構いい喩えかもね(笑)。一曲作ると、それが次の曲に影響を与えて、今の自分たちのソングライティングのスタイルが形成されていくというか。最初から全体像を決めて、それに当てはめるように調整しながら作るというよりは、まずは曲作りを進めて、他の曲の要素も取り入れながら、自然な流れで全体像が形作られていった。
だから、「70年代っぽいサウンドにしよう」とか「1570年代っぽくしよう」なんて、特定の方向性を決めていたわけではないんだ。これまでも僕たちの音楽って、メンバーそれぞれの好みが交じり合うようなものだったし、今回のアルバムもそういう作品になったと思う。
—なるほど。一つ前の質問で話したようなことを特に感じたのは、メイさんが作曲した「For the Cold Country」です。
メイ:この曲はもともとピアノで書いたの。曲を先に作ってから歌詞を当てはめていく作業がいつも難しくて。個人的には言葉を形にするより、音楽を形にするほうが簡単なんだよね。1年以上かけて書いた曲で、その間ずっと「こういうことを表現したい」という思いを抱えていた。かなり苦労したけど、結果的にはその1年間の出来事や感情が反映された曲になったと思う。
他の曲を改めて聴き返してみると、タイラーやジョージアの曲にも、どこか共通するテーマがあるように感じる。”誰かと寄り添いたい”という気持ちが根底にあるというか……そういう感情っていうのは普遍的なテーマでもあるけど、このアルバムのひとつの要素になっているのは間違いないと思う。
チャーリー:メイがこの曲の大まかな骨組みとなる部分を弾いていたのを、よく覚えてるよ。たしか『Bush Hall』のミックスをしていた頃だったから、もう何年も前の話だね。(アルバム制作期間の)最初から最後までずっと存在し続けてきた数少ない楽曲のひとつで、ずっと書き続けられていたような印象がある。他の収録曲でいう「Nancy (Tries to Take the Night)」や「Two Horses」とも似た雰囲気があって、スケール感の大きな曲だよね。ただ、歌詞については誰かと話したことがなくて。メイとは話したことがあるけど、今ここではあまり触れたくないかな(笑)。
曲の構造でいうと、ピアノで書かれたものをバンドのアレンジに落とし込むのが難しかった。特にドラムパートの方向性を見つけるのが大変だったね。メイのピアノ曲って、すぐにドラムを当てはめられるようなものばかりじゃないから。でも、そういう制約があるからこそ、新しいアイデアが生まれることも多いし達成感もある。いつ演奏しても楽しいし、アルバムの中でしっかりと”居場所”を持っている。この曲なりのやり方でね……うまく言えないんだけどさ(笑)。
個々の音楽的嗜好が、ひとつの音を創り出していく
—「For the Cold Country」では、メイさんの表情豊かな歌声にも感激しました。個人的にはレジーナ・スペクターを想起させられますが、どんなシンガーソングライターに影響を受けてきたと感じていますか?
メイ:レジーナ・スペクターは、シンガーソングライターとしての自分に確実に影響を与えてくれたと思う。10代の頃は、彼女やフィオナ・アップルをよく聴いていたし、若い頃にはトーリ・エイモスにハマっていた時期もある。彼女たちもピアノで曲を作ることが多いから。
でも最近は、もう少し歌詞に意識を向けるようになってきたんだ。去年いちばんよく聴いていたのはドリー・プレヴィンで、彼女はギターで作曲するの……で、実は今週から、私もギターで曲を書き始めたんだよ、チャーリー(笑)。
チャーリー:そうなの!? それは興味深いな。
メイ:(ピアノとは)全然違う感じだね。まったく別の作曲法っていう感じ。もちろん、私はギターがちゃんと弾けるわけじゃないけど、だからこそ出てくるアイデアもあるし、いいチャレンジになってると思う。そういえば10歳か11歳の頃は日本の曲、アンジェラ・アキとかもよく弾いてたんだ。彼女みたいにピアノを弾きながら、ドラマチックに歌うスタイルに惹かれていて。それが今の音楽性にも少し表れているのかも。
メイのソロ弾き語りライブ、今年3月にウィンドミルで開催
BC,NRは2022年の初期EPで、レジーナ・スペクター「Us」をカバーしている
—BC,NRがアルバムごとに公開しているプレイリストで、メイさんはドリー・プレヴィンの曲を2つ選んでいました。興味深い人生を歩んできたシンガーソングライターですよね。
メイ:バンドとして曲を書くとき、ごく個人的なことをストレートに表現するのが難しいと感じることがあるの。ツアーを重ねるなかで、プライベートなことを歌うのって怖さがあるというか。だから、少しぼかしたり、別の言い回しをしたりすることで、聴き手が自由に解釈できるようにするのもひとつの方法かなとも思う。
でも、ドリーの場合は、自分が言いたいことを包み隠さず歌詞にしている。深い洞察力に満ちているし、ありのままの彼女が伝わってくるのも好き。悩みや苛立ちがそのまま歌詞に投影されていて、そこが魅力的なんだよね。歌詞からにじみ出る彼女の人柄に惹かれるし、その言葉に共感できるから深く心に響くんだろうね。
ドリー・プレヴィン(Dory Previn)は1950年代から作詞家として活動したあと、70年代に私的なテーマを赤裸々に綴ったソロ作を発表。2024年にドキュメンタリー映画『On My Way to Where』が公開されるなど再評価が進んでいる
—同じプレイリストで、チャーリーさんがベル・アンド・セバスチャンの曲を選んでいたのも印象的でした。
チャーリー:最近もずっと聴いてたからね。自分にとっては特別なバンドで、10代の頃にかなり愛聴していたし、ここ数年は特に秋とか春になると聴きたくなる。彼らの音楽はtwee(トゥイー)な雰囲気もあって、トゥーマッチに思えるときもあるけど、ハマるときは本当にハマるんだよね。スチュアート・マードックの歌詞も大好き。派手な表現や壮大なテーマに頼ることなく、小さな物語を淡々と描いていく感じ。何気ない悲しみや喜び、ふと過ぎていくような瞬間が、実は大きな意味を持っている——そうやって丁寧に観察し、繊細に切り取っている感じが本当に美しいと思う。
—おっしゃる通り、ベル・アンド・セバスチャンの音楽は多くtweeと形容されてきましたよね。『Forever Howlong』がtweeアルバムだとは思いませんが、その要素を含んでいるようには感じました。
チャーリー:うん、確かにtweeっぽさはあると思う。tweeって、ちょっと否定的なニュアンスで使われることが多い気もするけど、それにも理由があるんだろうね。甘すぎたり、作り物っぽく感じられたりすることもあるから。でも、その雰囲気がうまく機能すれば、とても効果的な要素になり得るとも思う。ただ、今回のアルバムについて「もっとtweeに振ってみよう」といったことは、あまり意識してなかった気がするけどね。曲作りの過程では、その瞬間ごとの「これがしっくりくる」っていう感覚を大事にしているから、方向性についてあえて言語化しすぎずに進んでいた部分もあると思う。
—今回のアルバムについて、他に影響源として思い当たるアーティストはいますか?
メイ:他には誰だろう……ザ・バンドの名前を挙げる人は多いけど、私たち自身としては、そこまで大きく意識しているわけではないかな。チャーリーはどう思う?
チャーリー:ザ・バンドについては、音楽的な影響というよりも、バンドとしての”あり方”や”雰囲気”みたいな部分に影響を受けている気がするな。彼らの演奏はとてもグルーヴィーで、それぞれのプレイが完璧に噛み合っているんだよね。それは、グルーヴ感を大切にするバンドなら、誰しも目指したくなるようなものだと思う。
音楽的な面では、ジュディ・シルのレコードとか、ビーチ・ボーイズ『Smiley Smile』もそうだし、ジム・オルークの『Halfway to a Threeway』も当時よく聴いていた。ウィルコの影響もある程度あったと思う。ただ、そういう影響って本当に個人的なものなんだよね。「このアルバムはこのアーティストに影響を受けた」と語ることもできるけど、実際にはメンバーが持ち寄った個々の音楽的嗜好が混ざり合うことで、ひとつの音を創り出していく感じなんだよね。だからこそ、面白いものが生まれているんじゃないかな。
はじめてのリコーダーとバンドの民主主義
—ザ・バンドの”あり方”の部分について、もう少し詳しく伺いたいです。それは、バンドという共同体としての結束力みたいなものを指しているのでしょうか?
メイ:彼らはそういう部分に関しても長けていたと思う。新しい作品を世に出すって、どこかで怖くもあるんだよね。特に、これまでやってきたこととは違うものを提示しようとすると、好きだと思ってくれる人もいれば、そうじゃない人もいるわけで。そういう反応があること自体は受け入れられるけど、やっぱりどこか怖いものだと思う。
だからこそ、メンバー同士で確認し合ったり、その曲についてどう感じているかを話し合う時間は大切なの。6人もいれば、それぞれの意見や好みも違うから、ひとつの形にまとめるのは本当に難しい。それでも、全員が納得できるアルバムにしたかったし、そのうえで自分らしさや自分の好みもしっかり反映させたかった。そうやって、個々の視点を大切にしながら全体を作り上げていくことができたのは、すごく良いプロセスだったと思う。
—BC,NRはアイザックさんの脱退以降、最近のアーティスト写真などを見ても、「民主的なバンド」としてのアイデンティティをこれまで以上に打ち出しているように映ります。みなさんにとって「民主的であること」はなぜ重要なのでしょうか?
メイ:民主性っていうのは、バンドの誰か一人ではなく、メンバー全員にとってのもの。私たちは6人で音楽を作っているから、たとえ意見が食い違ったとしても、そこはちゃんと時間をかけて話し合うし、決定するときもみんなで決める。「自分の意見を聞いてもらえている」と思えることが大切なの。全員が声を上げ、納得できていることが重要で、それがあるからこそ前に進めるんだと思う。
チャーリー:そのとおりだね。アイザックがいた頃の、ある種”専制君主制”みたいな時代から考えても、(昔と今でバンドが)そこまで劇的に変わったとは思わないけど、ひとつ大きな違いがあるとすれば、メンバーが奇数じゃなくて偶数になったってことかな。意見が真っ二つに割れたときは、決断するのに時間がかかる。それでも、全員の意見がしっかり尊重されるべきだし、それはずっと変わっていない。
Photo by Eddie Whelan
—今回のアルバムでもっとも「民主的」なハイライトは、タイトル曲「Forever Howlong」で、作曲者であるメイさん以外の5人がリコーダーを吹くパートだと思います。そもそも、なぜリコーダーをみんなで吹くことになったんでしょう?
メイ:あるとき、とあるボーカル素材を耳にしたんだけど、それはメロディが進むにつれて、別の声が前の音を保ったまま重なっていくような構造になっていて。それがとても美しくて、自分でも同じようなことを試してみたいと思ったの。それでまずは、ボーカルのハーモナイズにも挑戦してみたんだけど、同じ音域で歌える声が足りなくて。クラリネットでやってみようかとも考えたんだけど、ある意味リコーダーよりも難しい楽器なんだよね。一方で、みんなリコーダーを学ぶことには乗り気だった。
チャーリー:クラリネットって、リコーダーよりも値段が張るしね(笑)。あとは、リコーダーのほうが習得しやすいというのもある。イギリスでは基本的に、ほとんどの子どもが学校でリコーダーを習うから。
メイ:タイラーはクラリネットが吹けるからすぐに慣れたし、ルイスは管楽器奏者だから、自然とリコーダー・バンドのリーダー的存在になってくれた。
チャーリー:僕は15年くらいリコーダーに触ってなかったから、完全にゼロから練習し直さなければいけなかった。でも、だからこそ挑戦し甲斐があったし、自分たちにとっても革新的だったと思う。「これまでに一度もやったことのないことってなんだろう?」って話し合ったときに「みんなで同じ楽器を演奏する」というアイデアが出て。「それは絶対に面白いだろうな」と思った。
「Forever Howlong」で5人がリコーダーを演奏
—素敵なリコーダー・アンサンブルだと思います。温もりが感じられるし、かといってtweeなだけではない。
メイ:当初のアレンジはかなりシンプルだったけど、みんながリコーダーに慣れていくにつれて、技術的にも徐々に複雑になっていった。かなり時間のかかるプロセスだったけれど、粘り強く取り組んでくれて……とても感謝している。
チャーリー:最初は上手く吹けなくて、どこか間の抜けた感じで始まったんだけど(笑)、練習を重ねていくうちに「このプロセス自体が理にかなってるんじゃないか?」って思い始めた。音色や演奏力の制限から面白いアプローチが生まれたんだ。
曲の出だしがシンプルなのは、当初はうまく吹けなかったから。だけど、進行するにつれて複雑になっていく。だんだん上達するにつれて、いろんなパートを吹けるようになり、アレンジも複雑になっていったんだ。本当にクールな経験だったよ。
—チャーリーさんはリコーダーを習得するために、どんな練習をしたんですか?
チャーリー:自分の部屋で音の出し方を覚えようと、ひたすらキーキー音を鳴らしてたよ(笑)。BC,NRって”高度な演奏技術のあるバンド”だと言われがちだけど、ルークと僕、タイラーは、いわゆる音楽学校の出身ではない。自分の部屋で練習したり、友だちと一緒に演奏したりしながら成長してきたタイプだから、「自分の演奏力が他のメンバーより劣ってる」と感じるのは、これが初めてというわけでもなかった。
でも、僕はそれこそがBC,NRの面白さのひとつだと思ってる。自分自身をこういう奇妙な創造的状況に追い込み、そこにアジャストしていくなかで、何かを学び取ったり、新しいことに挑戦したりする。たとえ居心地の悪いことであったとしても、まずは思いきって飛び込んでみるんだ。今回はそれが「リコーダーを習得する」ことだったわけ。
メイ:録音もかなり時間のかかるプロセスだった。まず私がA♭メジャーでピアノと歌を録って、それをジェームズ・フォードが半音下げてGメジャーに。そのテイクに合わせて、5本のリコーダーを指揮しながら録音した。そのあと、リコーダーの音をA♭メジャーに戻し、最後に私がボーカルを録り直した。
この曲はもともとA♭メジャーで作っていたけど、リコーダーには吹きづらいキーだったの。こうした方法をとったのは、もともとこの曲がA♭メジャーで作られたものだから。だけど、リコーダーで吹くのは難しいから、演奏しやすいキーで練習・録音してもらったの。ただ、私としてはオリジナルのキーで歌いたかった。
このプロセスを経たことで、曲の流れが少し変わってしまったかもしれないけど、それは悪いことではないと思う。「船のパーツをすべて交換したとき、それは果たして同じ船と言えるのか?」みたいな感じね。でも、今回の方法を取ったのは意味があったし、やってみてよかったと思う。
季節は必ず移り変わっていく
—リコーダーの音色は温かいけど、「Forever Howlong」の曲調は切ない感じがします。歌詞の印象もあるからかもしれませんが。
メイ:歌詞は去年の12月に書いたもの。その頃、1年間に及ぶツアーが終わって、地元のケンブリッジに戻っていたの。でも、ケンブリッジには一緒に遊ぶ友だちがほとんどいなかったから、母が仕事から帰ってきた時に話すくらいで、あとは週に一度、運転教習の先生と話すくらいだった。だから、ほとんどの時間を一人で過ごしていた。落ち込んではいなかったけど、元気だったわけでもなくて。ただ、「まだ冬は長く続くんだな」と感じるような、そんな日々のことを書いた曲ね。
—この曲は、もともと「Soon It Will Be Spring(もうすぐ春が来る)」という仮タイトルだったそうですね。〈Forever Howlong〉というフレーズは、冒頭で話した「Besties」の歌詞にも出てきます。ジョージアさんが同曲を作ったのと、メイさんの曲が「Forever Howlong」という名前になったのは、どちらが先だったのでしょう?
チャーリー:実を言うと「Forever Howlong」は、「Besties」よりも前にアレンジしていた曲なんだ。この曲をアルバムのタイトルにすることが決まったのは、トラック名を最終的に決める段階になってからで、それまではまったく違う仮タイトルで呼んでいて、「Soon It Will Be Spring」でもなかった。
アルバムの冒頭曲である「Besties」に、このフレーズを入れようと提案したのはジョージアだった。そうすることで、〈Do you wanna play / Forever Howlong?〉という歌詞が「このアルバムを再生してみない?」という問いかけのようにも聞こえるし、アルバムの導入としてぴったりだと感じたみたい。
メイ:私たちは、最終的なタイトルを決める前に、適当な仮タイトルをつけておくことがよくあるの。ちなみに、この曲の最初の仮タイトルは「The Mare / Mayor of Cambridge(牝馬 / ケンブリッジの市長)」だった。
「Forever Howlong」というタイトルには「Soon It Will Be Spring」と通じる感覚があると思う。この曲のテーマは、12月に書いたということも深く関係していて。これから長く厳しい冬を越えていかなきゃいけない……そんな気持ちが強くなる時期でしょ。日が短くなり、寒く暗い日が続いていく。だけど、季節は必ず移り変わっていく。そんな思いをこのタイトルにも込めたつもり。
Photo by Eddie Whelan
—メイさんがお話してくれたように、「Forever Howlong」というタイトルには、ポジティブな希望とネガティブな諦念が同居していて、それはこのアルバム全体のあり方にも通じるような気がします。
チャーリー:つまり、それって結局のところ、人生全般における大きな気づきのひとつでもあると思うんだ。物事をどう見るかによって、自分が受け取るものも、どちらの方向に傾いていくかも、常に変わってくる。多くの場合、僕たちはその両方(希望と諦念)を同時に抱えていたり、その瞬間ごとに揺れ動いていたりする。そういう感覚はこのアルバムにも反映されていると思う。
アルバム全体としては、広義の”変化”をテーマにしている。それは音楽的な面でも歌詞の面でもそう。このアルバムは人生そのものであり、それをどう捉えるか……ということなんじゃないかな。あるときは幸せで、あるときは切ないものなんだと思う。
『Forever Howlong』
2025年4月4日リリース
ボーナストラック追加収録
Tシャツ付きセットも販売
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"Black Country, New Road JAPAN TOUR 2025"
12月8日(月)大阪 BIGCAT
12月9日(火)名古屋 JAMMIN'
12月10日(水)東京 EX THEATER ROPPONGI
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14879