機材スポーツで上達するコツは、上手に機材を使いこなすこと。コーナーを上手に曲がるのも、パンク修理をささっと片付けるのだって、その実は大差がない。初心者だから上手に出来ないのは仕方ないが、我慢したり、諦めてしまうのはもったいない。ビギナーが最初にぶつかる壁、パンク修理だって、少しの知識と工夫をすれば誰でもできる。
前回の記事「正しい知識とコツをマスターして、パンク修理の苦手意識を克服する」では、リムの構造を理解してタイヤのビードを中央の凹みに落とす。これを丁寧に徹底すれば、なにも難しいことをしなくても、プロのように素手だけで作業も可能だ。
プロの作業を見ると動きに無駄なく、特に力を使うようでもなく、特別なテクニックは不要に見える。だが、真似ようとすると、素人にはそれが難しい。そこで、最新のギアを使って、より簡単に、ラクにパンク修理ができるアイテムを紹介しよう。
まず、パンク修理の基本は、原因となった異物を排除し、空気が抜けた穴を塞ぐことである。この極めてシンプルな作業は慣れてしまえば難しくない。だが、未だに工具や構造が進化を続けている分野でもあり、パンク修理に自信がない人は初心者に限らず、たくさんいるものだ。
タイヤレバー
テコの原理によって、タイヤの脱着をサポートしてくれるのがタイヤレバーだ。シンプルで古くからある工具だが、毎年のようにユニークな製品が新しいメーカーから登場し、定番品も定期的にアップデートする存在でもある。
私がスポーツバイクのパンク修理をするようになって、もう40年にもなる。タイヤレバーはシンプルだが、イイモノを探そうと思うと奥が深く、面白い工具だ。
これまでに多くのレバーを購入してきたが、良し悪しをすぐに見分けるのは未だに難しい。タイヤを持ち上げるスプーン部の形状は重要だが、使用するタイヤ&リムとの相性によっても評価は異なる。また、素材の硬度と強度のバランスが良くないと作業中に割れたり、折れることもある。
耐候性が悪くて1年も持たずに折れるレバーもあれば、磨耗することでリムとタイヤへの負荷を軽減する設計の製品もある。
新機構のタイヤレバーを買うときは、失敗も楽しみのうちと心得ておくほうがいい。失敗したくないならば、その製品が出てから1年ぐらいは待って、評判を確かめてから買うこと。
ちなみに私が現在使用しているのはマックオフ・リムスティックス タイヤレバーとクランクブラザーズ・スライダータイヤレバーの2種類。マックオフは携帯性には劣るが、肉厚な樹脂で強度も耐久性も十分。装着が困難なチューブレスタイプでも安心して作業ができる。
クランクブラザーズはビードがリムから外れないようにするタイヤスライダーを装着し、安定した作業が行える。
携帯電動ポンプ
路肩でウンザリするほど空気入れをポンピング。あのパンク修理でもっとも面倒臭い作業から解放してくれるのが携帯電動ポンプだ。滅多に使わないし、割高なのでは……と導入を躊躇う人もいるだろう。私がそうだった。だが、一度使うと想像以上に便利で手放せなくなる。
CYCPLUSは携帯電動ポンプのパイオニアで、販売数や完成度でも群を抜いた存在。3モデルがラインナップされているが、オススメはセカンドグレードのAS2PRO。
0.1bar単位で計測できるエアゲージ機能がついているので、パンク修理の時はもちろん、ツーリングや新しいタイヤを購入した際のセッティング出しにも活躍してくれる。上位モデルもあるが、重量やスペック、コストパフォーマンスを考慮するとAS2PROがベスト。
TPUチューブ
TPU(Thermoplastic Polyurethane)チューブは、ヒルクライマーや軽量マニアから人気のインナーチューブだ。一般的なブチルチューブよりも圧倒的に軽く、耐パンク性も同等以上の性能を誇る。
パンク修理アイテムとしては、コンパクトになるので省スペース化と装備の軽量化を両立させられる。ただし、総じて耐熱性は高くない。カーボンリム+リムブレーキの組み合わせは、使用を避けるべきだろう。
安価なTPUチューブもあるが、バルブの精度が不安定な製品もある。チューボリート・チューボロードは高価な部類になるが、TPUの先駆的なブランドでブラッシュアップを繰り返して完成度は高い。
プラグ式修理キット
TLR(チューブレスレディ)タイヤがパンクしたときに、ビードを落とすのに苦労する人は多い。そんなトラブルを回避したい人にはプラグ式修理キットだ。
穴の空いた部分に外側からプラグを挿入し、空気の漏れを防ぐ修理方法だ。クルマやモーターサイクルでは普及している修理方法なので、慣れている人もいるだろう。
総合アクセサリーメーカーのトピーク・チュビカートリッジR16はCO2ボンベと組み合わせれば、もっとも作業時間の早いパンク修理法。そのためイベント参加時など、素早くコース復帰したいときには最適だ。
シーラント
TLRタイヤに注入し、タイヤのリムの隙間と埋めてくれるシーラント(乳化ゴム)剤は、パンク時も穴を塞いで走りながらにしてパンク修理をしてくれる。
シーラント剤は装填した後、一定の時間が経つとタイヤの内部で固まってしまう。そのため定期的にタイヤの内部を洗浄したり、シーラントを追加しなければならない。また、液体が中に入ることで、ホイールの重量バランスを取れない。
シーラント剤の性能を横並びにして評価することはできないが、基本的にはタイヤメーカーの純正品が間違いない。ただし、アンモニア系シーラント剤はリムへの攻撃性が高く、ホイールメーカーが使用を禁止している場合もあるので、互換性を良く調べて使うこと。
サードパーティー製で注目したいのはフジチカのMAKUHALだ。このシーラント剤は天然ゴムを主成分とするラテックス系で、タイヤ内部をシーラント剤でコーティングし、余計な分を抜き取るのが特長だ。
余計なシーラント剤を抜くことにより、タイヤ内部で偏ってシーラントが固まることがなく、重量も軽い。液体がないので、ホイールバランスが取れるためシリアスライダーから人気が高い。
施工方法はひと手間かかるが、他のシーラント剤のように定期的なメンテナンスが不要なのは大きなメリットだろう。また、専用のプラグ式修理キットが用意されるなど、サポートも充実している。
エアライナー
タイヤインサートはオフロード用に開発されたアンチパンクシステムだ。タイヤ内部に発泡材を入れることで、空気が抜けた状態でも走行できる。
パンク状態でも時速20㎞以下で50㎞まで走行可能なので、その場で修理できなくてもショップまでは辿り着ける。エアライナーの脱着は初心者にとって敷居が高いので、ショップに任せた方がいいだろう。シーラント剤と組み合わせることで、耐パンク性では最強のホイールが完成する。パンク修理が不安で一人で走りに行けない人にとって、これほど心強い組み合わせはない。
パンク修理は面倒だし、一生経験しないで済むなら最高だ。しかし、1日で何回もパンクすることだってある。だが、パンクに対する恐怖で乗らないのが、もっともつまらないことだ。
TLRタイヤが主流になって以来、パンクの発生率は下がっている。グッズも進化しているので、メカが苦手な人こそ機材の進化にアンテナをはっておこう。