55年目の節目に「ルノー5ターボ」3代目がBEVとして復活!|ターボ1からターボ3Eまでの軌跡

じつは2022年のモンディアル・ドゥ・パリで、ルノーが5ターボ3Eプロトタイプを発表した時、まさか市販に移されるなんて考えてもみなかった。すでに1980台の限定生産で2027年にデリバリーを開始することが発表されているが、その前日、筆者はパリから車で30分ほど西、ノルマンディ地方のすぐ手前にあるフラン工場で、市販バージョンの発表会見に立ち会った。

【画像】ルノー5ターボ2と初代R5、最新電動サンクこと5E-テックルノーなどの歴代モデルも展示されたルノー5ターボ発表会(写真24点)

そこまで足を運んでおいて未だ半信半疑だったが、会場の前で各国のプレスを迎えてくれたのは、5ターボ2と初代R5、そして最近欧州で納車が開始されたばかりの電動サンクこと5E-テックという、新旧の3台だった。R5こと通称縦置きFFのサンクは1972年のデビュー当時、ルノー4CVやシトロエン2CV、ルノー4といった先達の国民車に比べ、じつにモダンな存在だった。それは当時のフランス流黄金の中庸の象徴ですらあったといえる。だから1.4リッターエンジンにターボをスワップしてミドに積み、グループBホモロゲ・マシンとして生まれ変わった5ターボ1そして2の、過激さが際立っていたのだ。

受付を済ませ中に通されると、会場入り口には何と日本語のグラフィックがあった。「―(音引き)」の向きが縦書きに即していないものの、「ターボドリフト」そして「RENAULT 5 TURBO 3E」と読める。1970年代当時、アメリカでIMSAからターボをもち帰ってルノー・アルピーヌにもたらしたのはエンジニアのジャン・テラモルシだった。F1史上初のターボエンジンによる勝利を1979年にRS10で記録したのは周知の通り。ターボ・テクノロジーを大衆車にまで膾炙させたコンストラクターとしての自負があるのだ。それにしても、BEVなのにターボとはどういうことだろう?

そんな軽い疑問も吹っ飛ぶほどに、会場で報道陣を迎えたのは1978年のパリ・モーターショーに展示された5ターボのプロトタイプ(写真内奥)、そしてアルミニウムボディをまとって内装をマルチェロ・ガンディーニが手がけたという市販版の「5ターボ1」だった。

フォグランプや右リアフェンダー上のフューエルリッドの有無、ゴッツィのアルミホイールが4本スポークかエアロ風か、あるいはダッシュボード内に収まるエアコンのモジュールやセンターコンソールの意匠以外に、2車間に違いはほとんど認められない。レッド&ブルーの刺激的な内装と、サポートの特徴的なカタチからH型と呼ばれるバケットも同じで、ヴェリアのメーターにはアルピーヌのロゴがある。

違いはロールケージと時代を感じさせるヘルメットのデコレーションぐらいだろう。ちなみにターボによる最高出力は今日では驚くことに、160psに過ぎなかったが、3.66mの全長に1.75mの全幅というスーパーワイドなプロポーションそしてトレッドに、970kgという軽さだった。

続く部屋では5ターボ2以降、ジャン・ラニョッティが駆ったツール・ド・コルス仕様やマキシ・バージョン、日本でもなじみ深いエリック・コマスが走らせたスーパープロダクション仕様など、まばゆいばかりのコンディションのワークスカーが4台、置かれていた。

5ターボ2はつねにラリーとサーキットの双方を股にかけたモデルであり、1983年のツール・ド・コルスでは280psほどだった出力は、1985年マキシでは350ps、1987年のスーパープロダクションでは370psにまで高められていた。つまりパワーとしてデビュー当初の2倍以上にまで達してしまったのだ。

その後、ターボ・テクノロジーはコンストラクターにとってはダウンサイジングのようなパワーを落とさずにレスポンスや効率、燃費を求める方向だった一方で、日本のチューニングカーなどを通じてユーザー側ではカルチャーとして成熟、定着した。やはり5ターボ3Eの市販は、この過去文脈から眺める必要がある。

次の部屋で待っていたのは5ターボ3Eプロトタイプ、電動化モデルで2022年のショーカーそのものだが、イエローとブラック&ホワイトの仕着せは都合3着めだという。

発表当時、トルク&出力は700Nm/370ps、バッテリーは42kWhで、インバーターとおぼしきモジュールがミドマウントとはいえリアハッチの高い位置に見えていた。ようはICE時代のマキシのスペックを受け継ぎつつ、わりと背の高いメガーヌE-テック用の電動パワートレインや5E-テックのバッテリーを受け継いでいるように見えた。確かにエキサイティングだが、灯火類やフェンダー&バンパーの隙間といった荒々しさゆえ、スタディモデルだろうという雰囲気の方が強く見えたのだ。

だから今回、最後に見せられた5ターボ3Eは市販版の外装モックアップ、まだローリングシャシーではないデザインの社内バリデーションが済んだであろう段階ながら、まったく別の車といえる内容に仕上がっていた。インバーターやECUやマイコンを積むモジュールはリア車軸周り、つまりミドシップ搭載だが、駆動モーターは左右の後輪、20インチホイール内にインホイール・モーターとして収められ、相対的にラゲッジスペースは広い。アルミニウムの専用プラットフォームにカーボンパネルのボディまで、専用設計された1台を、限定1980台のみ生産するという。そのエクスクルーシブさたるや、推して知るべしだ。

インホイール・モーターは、広いラゲッジルームをもたらすだけだけではない。通常のエンジンや電気モーターは、変速機より手前のクランク軸、つまり駆動軸のトルクでスペックを語るが、減速比も変速比も存在せずホイールに直結した電気モーター×2基の駆動方式である5ターボ3Eは、じつに4800Nm/547psを誇る。とはいえ、いきなり片輪あたり2400Nmを地面に対して発散しようものなら、トレッド面の剥離離脱や激しい摩耗が起きかねないだろう。これまでギア比を変えることで速度域に応じてカバーしていたものを、数ミリ秒単位で制御できる電気駆動によって直接に操ることで、一瞬にしてグリップを失わせることもできれば、スノーモードのような局面で柔らかく地面を掻くことも可能。トラクションにBEVならではのブーストを硬軟自在にかけることで、最高出力や数値をいたずらに追い求めるのではなく、ドライバーの感性に寄り添うBEVとしているというのだ。ちなみに車両開発を担当しているのはアルピーヌのエンジニアたちだ。

逆説的ながらBEV時代のターボらしさを追い求めた時点で、5ターボ3Eは人を置いてきぼりにするタイプの車ではない。インテリアはまだ画像のみの公開だったが、アルピーヌA290と共通するステアリング&ステアリングホイール内のスイッチのうち、OVボタンがドリフトコントロールを3段階、弱中強で受けもつことは確認できた。また通常ならシフトコンソールの位置から垂直に生えるレバーはサイドブレーキで、引く刹那に駆動は最適化、つまり限りなく止まると考えていいだろう。瞬発的にパワースライドにもっていけるだけでなく、荷重移動でも操りやすいホットハッチを目指しているのだ。その証拠に、ボディの前後配分は前46 :後54で、車重は1450㎏。理想的といえる重心の低さ、ワイドトレッドかつショートホイールベースのジオメトリーも相まって、ドリフトし易さを追求している。

元ホモロゲ・マシンの目指すところがドリフトとは、という言い方もあるだろが、5ターボならではのドライビング・ファンを全身から発する5ターボ3Eを、愛さずにはいられない。「ほとんどスクエアに近いジオメトリーで、あのトルク&パワーだから、縦にも前にもよく進むよ」とは、エンジニア氏の弁だ。そんなBEVの話は聞いたこともないが、1980台限定で価格はおそらく、15万ユーロ強(約2400万円)程度に落ち着く見込みで、オーダ―はすでに開かれている。デリバリーは2027年予定だ。

文・写真:南陽一浩 Words and Photography: Kazuhiro NANYO