人口1万人のまち・長野県小布施町をフィールドに、2050年の日本社会の未来を構想し、創造していくカレッジ「ミライ構想カレッジ in 小布施」。

少子高齢化や地方の過疎化、経済格差、気候変動といったさまざまな課題に対し、小布施町と東京大学、NTT東日本が同カレッジに参加する次世代の人材とともに、構想するだけではなく実装までを目的として取り組んでいくという。

そんなカレッジ第1期の参加者による最終成果発表会が2月9日、小布施町役場の公民館講堂にて開催。その模様をお届けする。

小布施の町を舞台に構想から具体的な実装までを検討

「ミライ構想カレッジ in 小布施」では、社会を構成する基盤を「経済」「環境」「共同体」の3要素と捉え、この3つを踏まえた2050年の未来に向けた実践に取り組んできた。

さまざまなバックグラウンドを持つ参加者を応募で集い、小布施町での3回の合宿と1回のセッション、オンラインも活用したプログラムを行った。プログラムで検討した事業アイデアは、参加者らと協議のうえで実装に向けて支援が検討されるという。

参加者らは「経済」「環境」「共同体」の3チームに分かれてプログラムを実施。小布施町でのフィールドワークから課題や未来への提言を捉え、東京でのバックキャスト思考を経て、どのようなことを実装するのかを考え、実証期間を経て、今回の最終成果発表会となった。

発表会には、NTT東日本から代表取締役副社長の星野理彰氏、長野支店 支店長の茂谷浩子氏、東京大学からは社会連携・産学官協創を担当する副理事 櫻井明氏。

小布施町からは町長の大宮透氏、産業振興課 課長の宮﨑貴司氏、環境グランドデザイン推進室 次長の井関将人氏、八十二銀行からは小布施支店 支店長 保科文秀氏が参加し、成果発表に耳を傾けた。

3チームがそれぞれの実証から最終結果を発表

「共同体」チームは、「暮らし続けたくなる地域」をテーマに取り組んだ。地域の美しい日常を支える「景色の人」という概念を提唱し、誰もがその一員となる社会を目指した。

実証では、クリスマス会や地域カフェの支援を通じ、居場所づくりの重要性を検証。まちのことを「わたしごと」と捉え、持続可能な地域運営にはコーディネーターの役割や情報の見える化が不可欠であると結論づけた。

「環境」チームは、防災意識の低さと持続可能な社会の実現をテーマに検討した。競争社会ではなく、自給自足を軸にした共生社会を目指すべきと提言。

実証では、公共農園での自然農法体験や防災ワークショップを実施し、町民の参加を促す仕組みづくりの重要性を確認した。

そして、環境先進都市を目指す小布施町だが、住民の主体的参加には課題が残る。そこで、環境防災に楽しみながら関われる拠点を設け、実証・体験を通じて意識向上を図ることを提言するのだった。

最後に「経済」チームは、農業と観光を融合させ、持続可能な地域経済の創出を目指した。現在の小布施町の観光は短時間の消費型が中心で、経済効果の拡大が課題だった。

実証では、農業体験ツアーを実施し、収穫や食文化を楽しむプログラムを展開。参加者の反応を踏まえ、より洗練された体験型観光の構築を提案した。

会場には小布施町民らも訪れ、町の未来を考える提案に聞き入っていた。

発表会後には、それぞれの発表内容を振り返り再検討するワークショップも行われた。東京大学・小泉秀樹教授や新雄太特任助教らのもと、他チームからの質問やより良いアイデアなど、自由なディスカッションが行われ、内容のブラッシュアップを行っていった。

カレッジに参加した東京都在住の大学生、工藤和也さん(京都府・長岡京市出身)さんは、「地域に足がついた人材になりたいという想いがあり、就職活動でも地域の持っている魅力を外につなげていくことができるようなネットワークを持っている会社で働きたいと考えていました。カレッジでは、実際に関係性を構築していくということがどういうことなのか、そこを実践的に感じ取れるのではないかと考えて参加することにしました」と参加の動機を話した。

  • カレッジに参加した大学生の工藤和也さん

「私たち学生や大学、企業といった外部の人だけでなく、小布施町の方々が主体的に参加している点に可能性を感じます。経済チームでは、農家やまちづくりの専門家など多様な視点が集まり、新たな地域の形成を模索しました。小布施の人々はおおらかで開放的であり、受け入れてもらえている実感がありましたね。

そして、町の現場を理解できたことは大きな学びであり、人為的な問題やコストなど、実現の壁が多いことも痛感しました。今回のご縁を大切にし、地域活性やインフラの分野で得た知識を周囲に還元していきたいです」と、多くの学びと可能性を感じ取ったと述べる。

カレッジから見えてきたこととは? 運営側の声

運営側として参加したメンバーにも、感想や手ごたえなどのコメントをしてもらった。

東京大学の教授 小泉秀樹氏、特任助教の新雄太氏は今回のカレッジを経て「大きな共創コミュニティ・ネットワークができていくのではないか」と期待する。

  • 左から、東京大学の小泉秀樹氏と新雄太氏

「小布施町とは約10年前から共同研究を行い、学生が演習の中で農村集落の再生を中心に取り上げ、町への提案を続けてきました。私たちはまちづくりの専門家として、プロジェクトの進行をサポートし、NTT東日本とも連携しながら、現場でのコーディネーションを円滑に進めてきました。

今回のカレッジでは『共創』をテーマに、町の外の人々とともに新たな未来を実践的に模索。東大の学生の積極的な関わりやNTT東日本のアイデアが融合し、化学反応が生まれ、新しい地域の在り方を検討することができました。この取り組みが共創のコミュニティを生み、さらに各地へと広がり、小布施町にも還元される大きなネットワークへと成長する可能性を感じています」(小泉氏)

「小布施町は人口1万人ながら年間100万人が訪れる特異な町です。町外の人々とどのように関わり、まちづくりを進めるかが重要であり、その鍵となるのが『価値の交換』です。今回のカレッジでは、単なる関与にとどまらず、『共創人口』という新たな概念を提唱しました。

消費者が作り手へと変わる関係性を築き、共にまちを創ることがまちづくりの本質ではないか。その仮説を検証する場がこのカレッジであり、その考えが広がっていくことを期待しています」(新氏)

小布施町長の大宮氏は、「これまでの小布施町のノウハウを、外部からの視点で言語化したかった」とカレッジへの取り組みの狙いを語った。

  • 小布施町 町長 大宮透氏

「小布施町では、2012年から約6年間、『小布施若者会議』という取り組みを実施していました。これは、小布施町内外を対象に、共創的な事業を生み出すプロジェクトでした。町が主体となって運営し、ノウハウを蓄積することができましたが、一方で、町単独の取り組みでは、関わる人がいなくなると継続が難しくなるという課題もありました。

今回の『ミライ構想カレッジ in 小布施』は、町だけでなく、東京大学やNTT東日本という新しい視点を持つパートナーとともに展開できる点が非常に重要だと考えています。これまで積み重ねてきたノウハウを、外部の視点を取り入れることでより発展的なものにし、明確に言語化することができるのではないかと期待しています。

共創人口の取り組みは、突発的な変化を生み出すものではなく、じわじわとコミュニティを広げ、少しずつ内側から変化を起こしていくプロジェクトです。そのため、当初の目的とは異なる新たな変化が生まれる可能性もあります。このカレッジでは、参加者が高い熱量を持って議論や検討を進めており、そのアイデアを町としてしっかり受け止め、実現のために役場が何をすべきかを考えていきたいと思います。

共創とは、単に参加者がプロジェクトを作るのではなく、町も主体的に関わりながら一緒に進めていくことです。私たちは自分事としてこの取り組みに向き合い、共に前へ進んでいきたいと考えています」(大宮氏)

また、NTT東日本 代表取締役 副社長 星野氏は、今後のカレッジにも「想像以上のものが出てくるように、積極的に関わり貢献したい」と話す。

  • NTT東日本 代表取締役副社長 星野理彰氏

「今回のカレッジでの地域活性や社会貢献への取り組みは、私たちが取り組んでいるソーシャルイノベーションの活動と非常に合致していました。小布施町とは、岩松院の『八方睨み鳳凰図』のデジタル化プロジェクトなどで関わりが深く、東京大学も小布施町と共同で活動を行ってきた経緯があります。それぞれの想いが交わる場所として、小布施町が自然と結びついたのかもしれません。

私たちは、このカレッジの活動の中でテクノロジーや技術的なサポートが必要とされる場面で積極的に貢献したいと考えています。例えば、AIの活用やこれまでの地域活性の事例を小布施町の取り組みに応用することも可能です。NTT東日本にとっても、企業としての直接的な利益を生み出す部分と、新たな仕事の創造につながる部分の境界は明確なものではないと考えています。

必要とされることが生まれたとき、それに積極的に関わることで、新しいアイデアや事業の展開につながることもあります。求められる技術やサポートに応じて柔軟に対応することで、新たな可能性が生まれ、地域や企業にとっても価値のある取り組みへと発展していくのです。

例えば、私たちは農業用の農薬散布ドローンの製造を行う会社を立ち上げました。当初はドローンの提供から始まりましたが、その後、点検業務へと広がり、現在では農薬そのものの提供や散布まで手がけるようになっています。ドローンの点検を担当していたメンバーが、その流れで農薬散布にも関わるようになり、事業の幅が自然と広がっていったのです。

こうした変化が示すように、未来に必要とされる仕事がどのような形で生まれるのかは、予測できるものではありません。むしろ、思いがけない交わりの中で新たな可能性が生まれ、それが農家のみなさんの課題解決にもつながっていくのではないでしょうか。

これまで、住民や自治体だけでは円滑に進めるのが難しい場面もあり、その原因が明確になっていないことも多くありました。しかし、単にNTT東日本の技術を導入すれば解決するわけではなく、『どの技術をどのように活用すれば地域の課題解決につながるのか』を共に考え、実績を積み重ねながら最適な方法を見つけ出していくことが大切です。

今回のカレッジには東京大学も参加し、異なる視点が加わったことで、従来とはまったく異なるアプローチが生まれています。特に、学生の熱意が住民の意識を動かすような影響力を持っている点は、非常に印象的です。事前に計算したわけではないからこそ、想定以上の成果が生まれることがあります。私たちも、この取り組みに深く関わり、積極的に貢献していきたいと考えています」(星野氏)

「ミライ構想カレッジ in 小布施」は今後、第2期、第3期とさらなる参加者を募集し、フィールドワークなど新たな学びと語らい、試行錯誤に挑戦していくという。