レッド・ツェッペリン『Physical Graffiti』50周年 ジミー・ペイジが語る2枚組傑作の真実

レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の6作目となる『Physical Graffiti』がリリースされたのは、1975年2月24日のことだった。あれから50年。ジミー・ペイジがこの傑作の制作秘話を語る。

1975年、レッド・ツェッペリンが『Physical Graffiti』をリリースする頃には、彼らはもはや何かを証明する必要はなかった。ロンドンのオリンピック・スタジオにある一室でこの2枚組のミキシングを手がけたバンドのギタリスト兼プロデューサー、ジミー・ペイジは「僕らが歩んできた道のりがあったからこそ、これが記念碑的な作品になると全員が確信していた」と語る。「それは発見の旅であり、未知の地を探検するような冒険だった」。

それまでの5枚のアルバムで、ヘヴィなブルース・ロックと内省的なイングリッシュ・フォークを融合させた独自のサウンドを確立してきた彼らは、『Physical Graffiti』を勝利の凱旋として位置づけた。自身のレーベル、スワン・ソングを立ち上げるほどの成功を収めていた彼らにとって、このレーベル第一弾リリースは圧倒的な勝利宣言となった。80分超の大作には、最もハードなロック曲(「The Wanton Song」「Custard Pie」「Houses of the Holy」)、壮大なサイケデリック作品(「Kashmir」「In the Light」「Ten Years Gone」)、そして甘美なロックンロール(「Black Country Girl」「Boogie With Stu」)が収められている。このアルバムは、レッド・ツェッペリンの壮大さと芸術性の両面を見事に体現している。

ペイジは2015年に、レッド・ツェッペリンの他の作品とともに『Physical Graffiti』を刷新し、オリジナルLPのリマスター版と、未発表の別ミックスやデモ音源をまとめたボーナスディスクを制作した。控えめなラフミックスの「Houses of the Holy」や、オーバーダブ前の「Trampled Under Foot」(「Brandy and Coke」として収録)といった微細な変更から、アルバムの異次元への扉となった「In the Light」のサイケデリックな原型「Everybody Makes It Through」のような大胆な変更まで、幅広い音源を収録している。

アルバムの制作初期を振り返りながら、ペイジは記念碑的な4作目のアルバムを録音した18世紀の英国の邸宅、ヘッドリー・グランジに戻った時の興奮を語る。「以前の実り多い経験があったからこそ、ヘッドリー・グランジでの可能性を知っていた」と彼は言う。「そこでしか生み出せない魔法があることを、僕らは知っていたんだ」

ーヘッドリー・グランジに戻ることの何が楽しみだったんですか?

ペイジ:4作目のアルバムの「When the Levee Breaks」で、メインホールでドラムをどう録音したか覚えていた。そして4作目の「Rock & Roll」や、『Physical Graffiti』では「Trampled Under Foot」のように、リフから始まって突然生まれる曲もあった。僕は音楽的に胸が高鳴っていた。メンバー全員がそこに集まり、僕や他のメンバーが持っている素材を練り上げていく過程全体が楽しみだったんだ。

ーセッション前に自宅で曲を書いていたそうですが、その時点でアレイスター・クロウリーの旧邸に住んでいたんですか?

ペイジ:いや、クロウリーの家ではない。当時はサセックスの田舎に住んでいて、そこがとても興味深い建物だったんだ。最上階にマルチトラックスタジオを設置していたので、音の質感を追求するのに理想的な環境だった。「Ten Years Gone」のギターオーケストレーション全体をその家で作り上げ、「The Wanton Song」と「Sick Again」を書き上げ、『Kashmir』の構想もそこで生まれた。

ーヘッドリー・グランジでのセッションはどのように始まったのでしょう?

ペイジ:僕とジョン・ボーナムとで始めた。僕は少なくとも6曲を用意していた。まず最初に取り組みたかったのが「Kashmir」で、ホールでドラムを録音して豊かなサウンドを作り、そこにリフを重ねていく計画だった。カスケード(滝状に連続する流れ)するブラスパートのアイデアを試しながら、ギターの土台を固めていった。僕は最初からそのギターパートをオーケストラで補強することを念頭に置いていた。ジョンとは相性が抜群だったので、彼と一緒にスタートを切れて本当に良かったよ。

「Kashmir」制作秘話、ドローンへの興味

ー「Kashmir」が生まれた背景について聞かせてください。

ペイジ:リフとカスケードするパートのアイデアは、12弦エレキギターとブラスで演奏される部分だが、ここはヘッドリーに行く前から練っていた。全く別の曲の一部で、その最後でアコースティックギターパートを逆回しで弾いていた時、ファンファーレのような、カスケードする音が聞こえ、その後にリフが続いた。「おっ」と思った。最後に偶然生まれたんだ。「これはいける。ドラムを中心に組み立てて、ジョン・ボーナムと一緒にやろう」と考えた。彼が絶対に気に入ると分かっていたので、最初に彼と試したのがこの曲だった。彼は本当に気に入って、僕らは何度もリフを繰り返し演奏した。子供っぽいリフだからね。音楽的には「フレール・ジャック」(フランスの童歌)のような輪唱で、その上にいろいろな要素を重ねることができる。このリフを軸に、インパクトがあり、荘厳で、かつ興味深い曲にしようと考えていた。ヘッドリーの音響とホールでのドラム録音を中心に作り上げる予定だった。そう聴こえていたし、そう(ビジョンが)見えていた。そして、オーケストラも加えることを想定していた。

「Kashmir」は、ブラスと弦楽器に加えてフルオーケストラを導入した最初の曲となった。アルバム3作目の「Friends」では小規模な弦楽セッションを使用したけど、この曲は本当に壮大で実質的なものにしようとしていた。

ーロバート・プラントは「Kashmir」の歌詞について、二人でモロッコを旅した時の経験から生まれたと語っていますが、リフも同様ですか?

ペイジ:いや、曲の構造全体は既に壮大で実質的な形を取っていた。ロバートが「モロッコにいた時に書いた歌詞を試してみたい」と言ってきて、そうしたんだ。でもそれは曲の基本構造が出来上がってからずっと後のことだった。

ー最新のコンパニオンディスク(※同アルバムのデラックス・エディションに付属)には「ラフ・オーケストラ・ミックス」が収録されていますが、特徴的な点は?

ペイジ:このバージョンではドラムのフェイジングが目立たない。全く異なるミックスだが、ミキシングでの配置は本当に良い。古い3D映画のように、物が目の前を通り過ぎる時に触れそうになるような3D的な遠近感がある。音の風景として、そんな感じだ。背景を含めて、すべてにフォーカスが合っている。

ーコンパニオンディスクで最も驚きの曲は、後に「In the Light」となる「Everybody Makes It Through」だと思います。この変化はどのように起こったのでしょう?

ペイジ:そのバージョンは、リフのアイデアを組み合わせて構成されている。「Everybody Makes It Through」の時点では、ロバートは参考用のガイドボーカルを歌っている。ドローン(イントロ)もまだない。最終版では常にドローンがあるけど、これはボウ・ギター(弓で弾くギター)によるもので、スイッチのオン・オフのような音が聞こえる。そこにジョン・ポール・ジョーンズが素晴らしいシンセサイザーパートを入れて『In the Light』のオープニングを作り上げた。本当に素晴らしい。そしてロバートが、僕にはブルガリア民族音楽のような響きに聞こえるボーカルを入れた。それぞれが個別に加えた要素がよく分かる。

これらの追加音源について言えば、スタジオ・アルバム版の方が良いのは確かだが、他のバージョンも非常に興味深く、重要な意味があると思う。

ーあの曲は、アルバムの他の曲と比べてより発展したように思えますね。

ペイジ:「Custard Pie」や「Trampled Under Foot」のように、一発目のテイクで完成した曲もあった。コンパニオンディスクに収録されている「Brandy and Coke」(後の「Trampled Under Foot」)は、エネルギッシュな演奏が印象的で、オーバーダブなどの追加作業の過程がよく分かる。「In My Time of Dying」も特筆すべき例だ。11分に及ぶフルバージョンには、編集やドロップイン、オーバーダブが一切ない。レッド・ツェッペリンが、すべての展開を含むこの長大な楽曲を、1-2-3-4のカウントから一発撮りで演奏したものだ。

ーそもそも、なぜ当時ドローンに興味を持ったのでしょう?

ペイジ:実は、『How the West Was Won』に収録されているロングビーチとLAフォーラムでのコンサート冒頭で使用したドローンは、アコースティックギターをトラッキングしたものだった。ヤードバーズ時代、さらにそれ以前から、僕はボウイング奏法を駆使してきた。エレキギターでは真剣に取り組んでいたが、今回はアコースティックギターをコードにチューニングして弓で弾き、オーケストラやクシシュトフ・ペンデレツキのような現代音楽作曲家の作品のように音を重ねて密度を表現したかったんだ。彼もきっと気に入っただろうね(笑)。ドローンの使用は以前からアイデアとしてあったけど、このアルバムで本当に効果を発揮した。言わばアンビエント音楽の先駆けとなる試みだったと言えるだろう。

ージョン・ポール・ジョーンズが「In the Light」はライブで演奏しない、なぜなら再現するのが難しすぎるという発言を読んだことがあります。

ペイジ:演奏すること自体は可能だった。当時、シンセサイザーがモノフォニックだったからかもしれない。77年のツアーでは演奏できたはずだし、O2アリーナでのコンサートでも可能だっただろう。今日のキーボードはより完成度が高いからね。でも、その曲は(レパートリーの)候補にすら上がらなかった。検討することもなかったんだ。

『Physical Graffiti』がダブルアルバムになった理由

ーアルバムの話に戻ると、以前のセッションから温めていたもう1曲が「The Rover」です。その曲は完成させるのに時間がかかったのでしょうか?

ペイジ:『Houses of the Holy』(聖なる館)の時期にスターグローブス(邸宅)で作り始めた曲だ。ヘッドリーでの2回目の滞在時にギターのオーバーダブを行い、オリンピック・スタジオでミックスした。「The Rover」の特徴は、その堂々としたギターのアティテュードにある。リンク・レイの「Rumble」を聴けば明らかで、これは所信表明みたいなものだ。そういう類のものが、僕のDNAのなかに組み込まれていると言わざるを得ない。

ー『Physical Graffiti』が最終的にダブルアルバムになったのはどうしてですか?

ペイジ:ヘッドリーでの最初の滞在時に残った素材を活かす機会となったから。4thアルバムから外れた「Boogie With Stu」「Night Flight」「Down by the Seaside」の3曲もあった。考えてみれば、4thアルバムのどの曲もこれらに置き換えられるものではなかった。それぞれが独自の魅力と個性を持っていたからね。

さらに、「Houses of the Holy」という曲が同名のアルバムに収録されていなかったのもあるから、すでに4曲あった。これだけの作曲・録音プロセスを十分に活かせる機会を得て、僕は決して無駄な曲を入れたダブルアルバムにはしたくなかった。レッド・ツェッペリンの音楽の精神性を保ちながら、すべての曲が個性的で、それぞれが異なる響きを持つダブルアルバムにしたかったんだ。

ー当時のあなたは、レーベル運営についても考えなければならなかったわけですよね。

ペイジ:これはピーター・グラントがバンドのためにアトランティックと共に立ち上げた、スワン・ソング・レコードからの最初の(レッド・ツェッペリンの)アルバムだった。レコードレーベルを持つことは素晴らしいアイデアだった。僕らが本当に好きで尊敬するアーティストを紹介する機会となったから。例えば、最初のリリースの一つとなったポール・ロジャースのバンド、バッド・カンパニーや、プリティ・シングスなどね。彼らのスワン・ソングでの作品は素晴らしいものだった。

ーあなたは『フィジカル・グラフィティ』と同時期に、ケネス・アンガーの映画『ルシファー・ライジング』のサウンドトラックにも取り組んでいました。

ペイジ:そうだね。自宅にマルチトラックがあったおかげで、様々な楽器を実験的に使用し、楽器本来の音とは全く異なる音作りができた。タブラは本来のタブラらしさを失い、大きなタンブーラも相当異なる音になっている。これから発売されるバージョンにはギターガイドが入っている。他のバージョンでは除外したアコースティックギターが入っているんだ。かなり興味深い仕上がりになっているよ。

ー『ルシファー・ライジング』と『Physical Graffiti』との間に、何か共通点があったと言えそうですか?

ペイジ:ああいった実験的な要素は、必ずしもレッド・ツェッペリンの方向性とは一致しないことはわかっていた。それでも、すべての作品には何かしら共通するものがある。あれは僕個人のスケッチブックのようなもので、かなりラディカルな試みをしていた。あらゆる面で自分の限界に挑戦していたんだ。

ーあなたが「Physical Graffiti」というタイトルを発案したとき、その背景にあるコンセプトは何だったのですか?

ペイジ:当時、建物にはグラフィティが現れ始めていた。そこに書かれているのはウィリアム・ブレイクの引用で、今日私たちが知っているようなヒップホップ時代の落書きとは異なるものだった。それでも落書きは存在していて、僕はそれに対する物理的な反応のようなものを想像した。録音スタジオでの作業は、磁気テープに記録される時点で一種の落書きのようなものだ。音楽はいわばフィジカルを顕示するもぼだったんだ。

ー最後に、あなたは今、新しい「ギタープロジェクト」に取り組んでいるそうですね。また、それはアコースティックギターの演奏から始まったとも。どういったものなのでしょう?

ペイジ:アルバムとして形になるプロジェクトを予定している。もう少し先の話になるが、とても楽しみにしている。これまで僕が試みてきたすべての分野、アコースティックやエレキギターなど、様々なアプローチの集大成となるだろう。つまり、アコースティックだけでもエレキだけでもない、僕の全てを注ぎ込んだものになる。

From Rolling Stone US.