30歳以上の約80%がかかっていると言われる「歯周病」。名前はよく知られている身近な病気ですが、その原因や全身への影響については、意外と知られていません。そこでこの記事では、歯周病が進行する原因や症状、正しい口腔ケア方法などをわかりやすくまとめました。お口の健康はもちろん、全身の健康を守るためにも、歯周病について正しい知識を身につけましょう。

■歯周病とは

歯周病とは、細菌の感染によって起こる炎症性疾患で、歯ぐき(歯肉)が赤く腫れたり歯が抜けてしまったりする病気です。口の中には400〜700種類もの細菌がいると言われていますが、通常はそれらが悪さをすることはありません。しかし、歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が不十分であったりすると、歯肉溝に細菌の集まりである「歯垢(プラーク)」ができて細菌が増え、歯肉に炎症が起こります。

歯周病は痛みがないことがほとんどですが、だからこそ気付かないうちに病気が進行して歯を失う可能性があります。進行すると、膿が出たり歯が動揺したりして、最終的には歯を抜かなければならなくなります。歯周病で起こる可能性のある症状には、以下のようなものがあります。

・朝起きた時、口の中がネバネバしているように感じる
・歯を磨くと歯肉から出血する
・歯肉が赤く腫れている
・歯肉にかゆみを感じる
・口臭がある
・歯が長くなったように感じる
・固いものを噛みにくい
・歯と歯の間に隙間ができた

また、最近の研究では、歯周病は歯や歯肉だけでなく、糖尿病や動脈硬化や心臓病、脳卒中、また高齢者で多い誤嚥性肺炎、妊婦の場合は早産など、全身に悪影響を及ぼすことがわかってきています。

■歯周病の原因

口の中にいる400〜700種類もの細菌は、普段は悪さをすることはないものの、歯磨きが不十分だったり砂糖を摂り過ぎたりすると、細菌がネバネバした物質を作り出し、歯の表面にくっつきます。これが歯垢ですが、歯垢は粘着性が強くうがいをした程度では落とせません。

この歯垢1mgの中には、約10億個の細菌がいると言われており、むし歯や歯周病を引き起こします。特に、歯周病を引き起こす細菌が多く存在していると言われています。歯周病は、そうした歯垢の中の細菌が歯肉に炎症を起こし、やがては歯を支えている骨を溶かしていく病気で、最後には歯を失う原因にもなるのです。

また、歯垢は取り除かないと固くなり、「歯石」と言われる物質に変化し歯の表面に強固に付着します。歯石はブラッシングだけでは取り除けないほど固いため、この歯石の中や周囲に細菌が入り込み、歯周病を進行させる毒素を出し続けてしまいます。

なお、歯周病は子どもから大人まで誰でもかかる可能性のある病気ですが、歯周病を進行させる原因としては以下のようなものが挙げられています。

・全身疾患(糖尿病、ホルモン異常、骨粗鬆症など)
・喫煙
・歯ぎしり
・合っていない義歯
・ストレス
・不規則な食習慣
・薬の長期服用
・部分的に歯がない
・口呼吸が多い
・両親が若い時から入れ歯だった
・免疫抑制剤を飲んでいる、免疫低下の状態

これらに当てはまる人は歯周病になりやすい、もしくは進行が速くなりやすいため、歯科医師に相談することをおすすめします。

■歯周病を予防するには

歯周病は、以前は「不治の病」と言われていましたが、現在では進行を阻止し、健康を取り戻すことが可能になりました。しかし、歯周病の原因は「歯垢」ですので、予防のためにはまず歯垢をためないこと、増やさないことが何より大切です。歯周病を防ぐには、以下のような点に気を付けて過ごしましょう。

<歯の正しいケアを行う>

歯周病の原因となる歯垢を取り除くには、まずは、毎日正しく歯磨きをすることが欠かせません。自分では磨けているつもりでも実際はうまく磨けていないことも多いため、歯科で正しい歯磨きの指導を受ける、または磨き方を相談するのも有効な方法でしょう。

毎日のケアに使う歯ブラシは、歯のすみずみまで毛先が当たり、歯垢を落としやすくするためにある程度の固さがあるものを選ぶのがおすすめです。毛先が開いた歯ブラシは新しいものに替え、まだ問題なく使えるように見えても1ヶ月に1回を目安に交換しましょう。また、歯ブラシだけでなくデンタルフロスや歯間ブラシも併用すると、歯垢をしっかり落とすことができます。

<生活習慣を見直す>

生活習慣が乱れると免疫力が低下し、細菌の感染症である歯周病になりやすくなると言われています。十分な休養や睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけるとともに、禁煙や節酒にも意識を向けましょう。

<定期的な歯科健診を受ける>

定期的に歯科健診を受け、歯の状態を確認しておくことも大切です。見た目には異常がなくても歯周病を発症していることがあるため、進行する前に医師に診てもらいましょう。また、歯垢が固くなって歯石になると自分で取り除くことは難しいため、健診時には歯石を除去してもらうこと、歯科衛生士に専門的なクリーニングをしてもらい、歯のメンテナンスをしておくことも重要です。

最後に歯周病の予防法に関して、歯科口腔外科の専門医に聞いてみました。

歯周病は歯と歯肉の境目の清掃が不十分であることが主な原因で、日ごろの歯磨きを習慣的に行うセルフケアで予防をすることができます。特に歯周病の予防には歯ブラシ以外に歯間ブラシやデンタルフロスを併用する口腔ケアが重要です。忙しい日々で難しいかもしれませんが、1日1回でもいいので使用をしてみてください。また、歯磨きをしていても、歯石はついてしまう部分はあります。最低半年に1回ほどの歯科医院での歯石除去と専門的なケアも歯周病の予防につながります。

また、口腔ケアは昨今流行している、インフルエンザやコロナウイルスなでのウイルス感染の予防にもつながる報告があります。歯周病は口の中の病気だけと考えずに、口の中の細菌が全身の血流を回り、心臓や肺に運ばれ、様々な全身疾患を引き起こすことがわかってきました。

初期のうちは、痛みなく進行するのが歯周病です、常に歯と歯茎の状態に着目し、歯茎が赤くなっている、出血するなどのサインを見逃さないようにし、できるだけ軽いうちにセルフケアを徹底し、治すことで、元の状態へ戻すことも可能です。

小原 圭太郎(こはら けいたろう)先生

一宮西病院 歯科口腔外科/部長
資格:日本歯科専門医機構認定 口腔外科専門医