今日も世の中のあちこちで、さまざまなタイプの「昭和人間」が、若者に呆れられたり眉をひそめられたりしています。

当人たちはけっして悪気はないのですが、そこがまた厄介なところ。とはいえ、ムゲに扱うわけにもいきません。

家電製品にせよ電子機器にせよ、上手に付き合っていくためには「トリセツ」をしっかり読んでおく必要があります。昭和人間もしかり。

自覚がないまま暴言を吐いたりピントのズレたアドバイスをしてきたりといった不具合が起きたときは、どう対処すればいいのか。平和で無難な取り扱い方のコツを頭に入れておきましょう。

よく見る「#昭和人間」の2つのジャンル

昭和人間と若者とのあいだに横たわるのが、あらゆるジャンルにおける「常識のギャップ」です。

そこから生まれる不具合が、若者にとっては悩みの種になりがち。日常生活でとくに頻繁に遭遇するのが、この2つのジャンルです。

●その1「結婚と出産にまつわる常識のギャップ」
●その2「会社観や働き方にまつわる常識のギャップ」

昭和人間は無意識のうちに、時にはよかれと思って、これらのジャンルにまつわる「不適切な発言」を口にしがち。

2つのジャンルを例にあげながら、昭和人間と若者の常識にはなぜギャップが生じてしまうのか、果敢に探ってみましょう。

もはや「昭和の家族観」が幻想になったことが、「結婚と出産にまつわる常識のギャップ」を生む

昭和の時代は「男は結婚して一人前」であり「若いうちにいい人と結婚して子どもを産むことが女の幸せ」でした。

子どもはふたり以上が「当たり前」だったし、男女ともに独身のまま年齢を重ねた人は「かわいそう」という視線を向けられがちでした。

さすがの昭和人間でも、令和の今、この類のことを口にする人はほとんどいないはず。

しかし、「近ごろはうるさくなったからね」なんて言ってる人は、何も変わってないし、何もわかっていません。

そして、無意識のうちに昭和の価値観を引きずっている可能性があるのは、男性だけじゃなく女性も同じです。

国勢調査に基づく内閣府の調査によると、男女の50歳時未婚率(お役所的には「生涯未婚率」。

50歳を超えて結婚する人は「想定外」扱いなんですね……)は年々増加していて、令和2(2020)年は男性が28.3%、女性は17.8%です。

「結婚しない人生」は、もはやぜんぜん珍しくありません。

昭和真っただ中の昭和45(1970)年は男性1.7%、女性3.3%で、昭和55(1980)年も男性2.6%、女性4.5%と、結婚しない人は「ごく一部の例外」という世の中でした。

国の制度も会社の制度も子どもに対する親の期待も子ども自身の将来像も、すべてが「誰もがいつかは結婚する」という前提の上に成り立っていたといえるでしょう。

子どものほうはどうか。

厚生労働省「人口動態統計」によると、ひとりの女性が一生のあいだに出産する子どもの人数を示す「合計特殊出生率」は、昭和50(1975)年に2を下回り、その後も減少傾向が続いて、2023年には過去最低を更新する1.2でした。

「夫婦の完結出生児数」も、昭和15(1940)年の調査では4.3人、昭和32(1957)年が3.6人、2021年は1.9人です。

「ひとりっ子」の割合は、昭和50年代から平成の中頃までは約10%でしたが、平成22(2010)年の調査で一気に増えて、約20%となりました。

「ひとりっ子」だけでなく、子どもがいない夫婦も増加しているというデータもあります。「人口動態統計」によると、第1子出生時の母親の年齢は、昭和50(1975)年は25.7歳、令和4(2022)年は30.9歳。

20代で第1子を産むのは「早いほう」です。今後も、こうした傾向はさらに強まっていくでしょう。

結婚や出産の「当たり前」は、大きく変わりました。

しかし、一部の(もしかしたら多くの)昭和人間の頭の中には、昔ながらの「年頃になったら結婚するのが当たり前」「結婚したら子どもを産むのが当たり前」という「昭和の家族観」が染みついています。

昭和人間が、何かの拍子に「もう30だろ。そろそろ身を固めないとな」「早く二人目を産んであげなきゃね」といった"暴言"を吐いてしまうのは、そのため。

「今の時代において、なぜその発言が不適切か」を説明しても、すんなり納得できるぐらいなら最初からその手のことを言ったりはしません。

カチンと来るでしょうけど、本気で腹を立てたり反発したりしたところで疲れるだけです。「そういうことを言いたがる生き物」だと思って聞き流しましょう。

地方の土産物屋さんで懐かしいアイテムを見つけたときのように、「うわー、こういうのまだあったんだ」といった気持ちで観察すると、次はどんなことを言い出すか楽しみになる……かも。

経済成長と終身雇用と年功序列が雲散霧消したことが「会社観や働き方にまつわる常識のギャップ」を生む

若者から見ると、昭和人間の「会社」や「働き方」に対する考え方には、激しい違和感を覚えます。

令和の常識に照らし合わせると、昭和の働き方は「ダメな部分」だらけ。

ただ、終身雇用(会社がずっと面倒を見る)や年功序列(年齢を重ねると給料も地位も上がっていく)という仕組みや、日本経済は成長し続けて明日は今日よりも豊かになるという前提が、理不尽な働き方への不満を押さえつけてきた一面がありました。

それらがすべて崩れた今、何かと自己犠牲を強いる昭和な働き方がまったく理解できないのは当然と言えるでしょう。

ただ、かつての前提がなくなったのは確かですが、それに代わる頼りになる前提が出てきたかというと、そんな感じではなさそうです。

昭和の働き方を否定するのはいいとしても、新しいスタイルを見つけなければなりません。

何を隠そう昭和人間は、若い世代の皆さんの行く末がちょっと心配です。余計なお世話なのは重々承知していますが、よかったら耳を傾けてください。

大半の昭和人間は、昭和の働き方の常識が通用しないのはよくわかっていても、令和的な働き方の常識に全面的に賛同する気にはなれません。

それは「今みたいに上司や先輩に甘やかされるのが当然と思っている若手は、10年後20年後、ちゃんと仕事をやっていけるのか?」ということ。大げさに言うと「日本の将来は大丈夫か?」とさえ思います。

元気がないからと思って励ましの言葉をかければ「プレッシャーをかけられた。パワハラだ」と非難する、仕事のやり方について「それは違うよ」と注意すると「傷ついた」とこっちを悪者にする、アドバイスをしたくても「お説教はけっこうです」とケンカ腰になる、そもそも若くて伸び盛りで上司や先輩にあれこれ言ってもらえる時期に、仕事に本気で取り組まないことのもったいなさに気付いていない……。

もちろん、すべての若者がそうだとは思っていません。メディアがイメージを作り上げている部分もあるでしょう。

ただ、まだ半人前である自分の至らなさと向き合いたくないが故に、世間の風向きに乗っかりながら、それなりに意を決して注意してくれた側を悪者にしている人もいるかもしれません。

だとしたら、それはズルい了見だし、何より損です。

もしかしたら「このままじゃマズイかも」と気づいた若者にとっては、たちまち頭ひとつ抜け出すことができるラッキーな状況かもしれません。

そのへんを見据えつつ、自分なりのワークライフバランスを見つけてください。ご多幸をお祈りいたします。

「常識のギャップ」や「価値観の違い」は目くじらを立てるより楽しんだほうが有益

遭遇しがちな二つの例について書きましたが、ほかにも「ジェンダー」をめぐる問題やメディアとの付き合い方など、昭和と令和とでは山ほど「常識のギャップ」があります。

人類の歴史においてこれまでも同じことが繰り返されてきましたが、若者の皆さんにとって上の世代である昭和人間は、何かと目障りな存在であり続けるでしょう。

そして昭和人間は昭和人間で、いつの時代もそうだったように、下の世代である若者に対して、随所で物足りなさやもどかしさを覚えずにいられません。若者をイラッとさせる発言をしてしまうことも、きっと多々あります。

ここでご紹介したように、昭和人間の無神経な言動に腹が立ったら、昭和人間が過ごしてきた時代背景に思いを馳せてみましょう。

そうすると「今、自分は貴重なサンプルを目の当たりにしている」と思えたり、「まあ、しょうがないかな」と寛大な気持ちになれたりするかもしれません。

常識のギャップや価値観の違いに対しては、相手のアラ探しをして攻撃したところで不毛です。

よかったら、面白がったり反面教師にしたりしてください。そのほうがちょっとだけ有益だし、何より心穏やかに過ごせます。

なんだか「昭和人間がダメなことを言っても大目に見てください」と言っているようにも聞こえますね。ちょっと図星です。臆面がなくてすみません。

いろいろ至らないのはお互い様ということで、これからもよろしくお願いします。

著者プロフィール:石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963(昭和38)年、三重県生まれ。コラムニスト。93(平成5)年に『大人養成講座』でデビュー。以来、大人をテーマにした著書を次々と刊行。「昭和」も長く大事にしているテーマの一つ。著書は『大人力検定』『昭和だョ! 全員集合』『失礼な一言』など100冊以上。