札幌市には、全世帯の約84%に配布されているフリーペーパーがある。「地域新聞ふりっぱー」だ。

飲食店情報や季節ごとの話題など、地域に密着した情報をA4サイズ30から40ページほどにまとめ、月に1回、無料で戸別配布している。当然、札幌市民の知名度も高い。

何という太っ腹! という事業を手がけているのは、札幌市に本社を構える「総合商研」。 印刷業を基盤にしながら、自治体と連携した地域活性化への取り組みをはじめ、さまざまなユニークな事業を展開し、拠点は北海道から九州まで全国に広がっている。

紙媒体の需要減少、配送料金の値上げ、そして原材料費の高騰が続く中、総合商研ではどのように対処し、今後どのような取り組みを進めようとしているのか聞いてみた。

  • 総合商研 代表取締役社長 小林直弘氏

クライアントの「これできる?」に応えたい!

取材に応じてくれたのは、同社代表取締役社長の小林直弘氏。

社名の由来について「総合的に商いを研究する事に由来し、1969年の創業以来、お客さまのさまざまな課題を解決する『販売促進支援業』」として歩んできました」と説明する。

「当初は印刷主体の会社でしたが、全国からの年賀状の受注を始めるにあたり、システム開発の必要が生じました。その過程で自社内で開発に取り組んでいくうちにIT分野が強化され、お客さまのホームページ制作や管理も対応できるようになりました」

さらに、年賀状受注業務に対応するため、コールセンターも開設。現在では最大230席のオペレーター席を設置し、データ入力作業などと合わせてクライアントのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)にも対応しているという。

このように、1つの事業を立ち上げるために必要となる関連事業にも取り組み続けるうちに、事業の幅がどんどん広がっていったようだ。

「お客さまから、こんなことできる? と相談していただいたら、できますよとお伝えし、さまざまな提案をする。創業以来、その姿勢は変わっていないので、時代のニーズに合わせて事業内容も自然と多岐にわたるようになりました」(小林氏)

持続可能な社会づくりに貢献

2013年には北海道のあまり知られていない情報を発信するフリーマガジン『北海道発掘マガジンJP01(ジェイピーゼロワン)』を創刊。同誌はオールカラー100ページを超える内容で、道の駅などに配布している。

前述した「地域新聞ふりっぱー」で培った出版ノウハウを活かし、自社一貫で編集・取材・印刷。地域のヒト・モノ・コトに焦点を当てることで、北海道の交流人口拡大を支援している。

  • チラシ、出版物、DM、POPなどを企画からデザイン、印刷・加工、発送まで社内一貫体制で迅速に対応している

「観光だけではなく、地元住民も気づかない魅力を発掘するよう努めています。当初は無料配布でいいのかという議論もありましたが、やり続けるほどに自治体の方たちに知られるようになりました。今では、総合商研と名乗るよりJP01を作っている会社です、の方が認知されやすいです」(小林氏)

さらに、誌面での情報提供にとどまらず、地域PRイベント「JP01まつり」も運営。地域の特産品や町おこしに励む人たちの活動内容などを札幌市民に紹介している。

同社が特に重視しているのは、一度限りのイベント開催にとどまらず、地域の魅力を継続的に発信し、市町村同士の連携を促すなど持続可能な社会づくりにつなげること。

創業以来「地方創生事業」に力を注いできた同社は、メディア、Webサイト、動画、商品開発、キャンペーン展開、アンケートなど手がけているノウハウやツールを相乗的に活かして、個別案件に最適な方策を提案している。

2024年には初めて自治体向けのデジタルフォーラムを主催し、公式ホームページ構築やより良い情報発信のための手法、DXソリューションの活用事例などを紹介し、好評を得たと明かす。

「すべての業務を当社だけで完結するのは難しいため、専門性の高い事業者への橋渡し役や協業を大切にしています」(小林氏)

地域ブランディング事業は、北海道内だけでなく、埼玉県や島根県でも展開し、特産品を集めたサテライトショップの運営、物販展の開催、フリーマガジンの発行など、多岐にわたる実績を積み重ねている。

  • 人と企業、人と町のコミュニケーションを促す紙メディアの新たな可能性を模索している

「島根県では、特産品の味や香りを『数値』で可視化する『エビデンスブック』も制作しました。この取り組みにより、商品の差別化やよりおいしい食べ合わせの提案につながり、県産品の拡販に貢献できました」(小林氏)

ムダにこそ価値がある!

同社は、商業印刷をはじめ、情報誌の制作、クリエイティブワーク、地方創生事業、イベントプロモーション、BPO業務など、多岐にわたるソリューションを展開。

さらに空撮ドローンを飛ばしたり、LED菜園工場で無農薬野菜を栽培したり、新たな挑戦も積極的に取り入れ、クライアントのさまざまな課題解決に取り組んでいるのがわかった。

  • 小林氏は、人と直接会い、話を聞くことを大切にしているという

「私たちの社会はめまぐるしく変化し、さまざまな課題が生まれています。当社が、お客さまの困りごとを解決し、なくてはならない存在であるために、どのような価値をご提供できるか模索し続けていきます」(小林氏)

また、専門性の高い人材確保のためにも、会社として常に新しい分野に挑戦できる環境づくりを大切にしているという。

「採用活動では、良いことばかりではなく、当社のありのままの状況をしっかり伝えるようにしています。お互いに本音が言える関係性がいいですよね。志望動機を一生懸命に語ってくれるのは本当にありがたいのですが、『生活のために稼ぎたい』という本音でも私は十分だと思うんですよ」(小林氏)

さらに、就活中の学生はより多くの企業を訪問して比べた方がいいとアドバイス。

「自分自身で体感し、経験して初めてわかることもあります。タイパ、コスパを意識せざるを得ない社会ですが、私はムダにこそ価値があると感じています。ムダをなくしてしまったら人生つまらない!」

小林氏自身も、できるだけ直接人に会い、話を聞くことを心がけている。そこから新しい情報も結構入ってくるという。

半世紀以上、クライアントの困りごとに向き合いながら、常に新しい事業の種まきをし続けている同社。今後、どのような事業が芽吹き、実っていくのか注目していきたい。