2007年の開館からまもなく18年をむかえる国立新美術館が、11月18日からクラウドファンディングを開始した。来年3月19日より開幕する展覧会の開催費用の一部を集めることを目的に実施するもので、目標金額は1,000万円。「国立新美術館|時代を映す、挑戦的でダイナミックな展示をこれからも」と銘打ち、限定グッズや体験プログラムなど、同館でしか手に入らない返礼品も用意する。

  • 国立新美術館が11月18日からクラウドファンディングを開始した

独自性の高い企画実現の課題は、資金調達

東京・六本木の都心にありながら緑に囲まれ、曲線を描くガラス張りの外壁が斬新な建築の国立新美術館。14,000平方メートルという国内最大級の展示スペースを活かした展覧会をはじめ、美術に関する情報や資料の収集・公開・提供、さまざまな教育普及プログラムの実施に取り組んでいる。

最大8メートルの天井高と約2,000平方メートルという大空間の企画展示室では、このダイナミックな空間を活かした話題性の高い展覧会を開催してきた。美術作品だけでなくファッションや建築、デザイン、漫画、アニメーション、パフォーマンスなどジャンルにとらわれない、その時代の視点を反映させた展示が、同館の“らしさ”であり強みでもある。

  • 画像提供:国立新美術館

昨年の来館者は200万人を超え、集客に成功しているように思うが、世界各地で勃発する紛争や自然災害の激化、地球温暖化、輸送費や資材の高騰、エネルギー問題、円安といった不安定な要因は、国内の美術館運営にも大きな影響をもたらしており、同館も例外ではない。

企画展の多くは基本の予算に加えて、展覧会ごとに資金を獲得して実現している。主な資金源は企業などからの協賛金、入場料、図録やグッズなどの売上、そして国や財団からの助成金だ。コストを抑えながら独自性の高い企画の実現に取り組むには、資金の調達が課題であり、難航するケースもあるという。特に海外輸送費や資材・物価の高騰が追い打ちとなり、届けたい展示を形にするためには、“絶対的に資金が足りないケース”も増えている。「“外から見た華やかさ”では見えない現実を理解していただきたい」と、館長の逢坂恵理子さん。

  • 左から長屋光枝さん(国立新美術館 学芸課長)、逢󠄀坂惠理子さん(同館 館長)、河北百合さん(同館 総務課長)

未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を、原寸大で実現する世界初の試みに挑戦

今回のクラウドファンディングの目標金額は1,000万円。目標金額を達成しなくても集まった分だけ集金を受け取る、オールイン型での実施となる。集まった資金は、来年3月開催の「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s」の展示制作費用の一部として使用。今日普及している戸建て住宅が、革新的な住まいとして現れた1920年代から1970年代までに着目し、私たちの暮らしの礎を見直すこの企画展は、国立新美術館でも非常に大規模な展覧会となるという。

  • 「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s–1970s」メインビジュアル

1階の会場では、衛生、素材、窓、キッチン、調度、メディア、ランドスケープという7つの観点から、モダン・ハウスの傑作とされる14邸を紹介。さらに2階の会場で、近代建築の巨匠のひとり、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969年)の未完のプロジェクト「ロー・ハウス」を、原寸大で実現するという世界初の試みに挑戦。幅16.4m×奥行16.4mに及ぶ大スケールの展示は大きな見どころのひとつであり、観覧無料エリアに設置を予定している。クラウドファンディングで集まった資金は、この展示制作の費用に充てられる。

返礼品は5,000円~100万円まで、計22コース

返礼品は、国立新美術館がより身近に感じられるような限定グッズ・図録・招待パスや、特別体験プログラムなどを用意。全てのコースが寄付金控除(税制優遇)の対象で、お礼状・リビング・モダニティ展招待券1枚・展示室・HPへの名前掲載(※希望者のみ)・寄附金領収書が付く。

  • 画像提供:国立新美術館

  • 画像提供:国立新美術館

2025年春開催の展覧会費用の一部を募集する国立新美術館のクラウドファンディングは1月31日23時まで、特設ページ(https://readyfor.jp/projects/nact_2024)にて実施している。

  • 国立新美術館 内観