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ニューヨーク・ヤンキースとの激戦を制し、4年振りにワールドチャンピオンに輝いたロサンゼルス・ドジャース。今年のワールドシリーズでは、MVPに輝いたフレディ・フリーマンをはじめとした強力打線に加え、ブルペン陣の奮起も目立った。今回は、ドジャースが世界一を掴んだ要因、ヤンキースとの戦力の違いについて分析した。(文:Eli)
今シーズンのメジャーリーグは
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ワールドシリーズMVPは“問答不要”
ロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズ制覇を果たした最も大きな要因はフレディ・フリーマンの活躍だ。5試合で20打席に立ち、WS連続試合ホームラン記録更新を含んだ4ホームラン、OPS1.364の成績でニューヨーク・ヤンキースを破りワールドシリーズMVPに輝いた。
特にフリーマンが輝いたのはやはりGame 1の逆転サヨナラ満塁ホームランだろう。ここに至るまでの過程を振り返る。
ジャック・フラハティ―とニューヨーク・ヤンキースのエース、ゲリット・コールの投げ合いで始まった試合は両先発が素晴らしい投球をし、6回終了までにヤンキースリードの2-1。
その後8回にドジャースが2-2の同点に戻した。延長10回に大きな投球モーションのブレーク・トライネンの隙を付いたジャズ・チズムの走塁でヤンキースが1点をとり、3-2とリードした。
10回裏、ヤンキースの投手は右打者には打つのが非常に難しいスライダーを持つジェイク・カジンズ。先頭打者、右のウィル・スミスを打ち取るが、左のギャビン・ラックスを歩かせ、トミー・エドマンが内野安打で1アウト1,2塁となった。
ここで大谷翔平、ムーキー・ベッツ、フリーマンと2人の左打者が続く場面で左サイドスローのティム・ヒル、ではなく数週間登板なしの左投手ネスタ―・コルテスを投入した。大谷との対戦成績が良いことが理由だったようだ。大谷をファールフライに打ち取ったところで、右のベッツを申告敬遠した。
ここでの申告敬遠は理解できる。ベッツは右打者でプレーオフ好調。対してフリーマン左打者であり、さらに足首(のちに肋骨も判明)を故障しており、プレーオフでは単打しか打っていなかった。
しかし、フリーマンは初球インサイドのフォーシームを右翼席に叩き込み逆転勝利となった。
このホームランはワールドシリーズ初のサヨナラ満塁ホームランだっただけでなく、1988年ワールドシリーズを思い起こすものだった。というのも共通点が非常に多いのだ。
1988年のワールドシリーズでのサヨナラホームランはGame 1で、ホームランが出ればサヨナラの場面。打ったカーク・ギブソンはフリーマンと同様故障していた。ホームランが飛んだ先も右翼席。どちらも2アウトでのホームラン。加えてホームランが打たれた時間もほぼ同じだったという。
実況席にいたのは米メディア『Fox』 のリードアナウンサーであるジョー・デイビス氏。彼はドジャース専門アナウンサーをヴィン・スカリー氏から受け継いだが、1988年の伝説のホームランを実況したのがそのスカリー氏だった。
このようにフリーマンの満塁ホームランは1988年のホームランを今の世にそのまま持ってきたようなものだった。
前述のデイビス氏はホームランが出た際にこのように実況した。
『Freeman hits the ball to right field... SHE IS GONE!!! GIBBY, MEET FREDDIE!!』
これは1988年のホームランでヴィン・スカリーが以下のように実況したのをインスパイアしたものだと見られる。
『High fly ball to right field... SHE IS GONE!!!』
“打撃力”はヤンキースが上回ったが…
チーム全体での勝利への意識も大きく貢献した。
実はドジャースはヤンキースよりもWS全体の打撃成績が低い。
LAD vs NYY
・打率
.206 ⇔ .212
・出塁率
.296 ⇔ .332
・長打率
.406 ⇔ 412
・wRC+
94 ⇔ 112
NLCSで大きな活躍を見せた大谷、マックス・マンシー、ベッツが調子を落とした中、米メディア『New York Post』 のJoel Sherman記者は、ドジャースの相手チーム分析が大当たりだったことを報じている。記事において、ドジャーススカウティング部門が選手たちに伝えたことを以下のように記している。
「ヤンキースは基礎より才能のチーム。走塁に目的意識と積極性を込めれば、ヤンキースは自ら瓦解する。ヤンキースが失敗する機会を創るためにボールをインプレーにすること。ヤンキースはあらゆる指標で最悪の走塁チームであるだけでなく、守備でも前に対戦したパドレスより大きく劣る。」
ドジャースの選手たちはヤンキースの弱点である守備に付け込む野球をした。まず三振をしないこと。ドジャースのワールドシリーズ全体で四球率、出塁率にどちらともヤンキースより劣っていた。
ところが三振率だけに着目するとヤンキースが21.8%に対してドジャースは18.1%だ。三振をできるだけしない、即ちバットにボールを当てヤンキース守備陣を動かすことによってエラーの機会を作り出す。
思えば第1戦での満塁ホームラン、第5戦で逆転したイニングはどちらも守備の穴を突いてチャンスを演出した。
第1戦の延長10回ではラックスの四球、エドマンがヤンキースのセカンド、オズワルド・カブレラがギリギリ届かないヒットでチャンスを作り、満塁の場面を作ったうえでのフリーマンのホームランだった。
第5戦の5回ではエンリケ・ヘルナンデスのヒットの後、エドマンのセンターフライをアーロン・ジャッジが落球、スミスのショートゴロをサードのチズムが送球を取り損ねて満塁となった。
さらにベッツのファーストゴロにコールがベースカバーを怠り得点につながった。この後フリーマンとテオスカー・ヘルナンデスがタイムリーヒットをそれぞれ放っている。
YouTubeチャンネル『Jomboy Media』が投稿した動画にてジャッジの落球は1塁ランナーを刺そうと欲が出た結果目線を外したことが原因であり、コールのベースカバー怠りは打球の方向・速度を見誤ったことが原因であることが明らかになった。
結果的にドジャーススカウティング部門の分析は大当たりであった。
投手陣のMVPを選ぶなら…
最後に、今ポストシーズンでブルペンの柱になったトライネンにも触れておきたい。トライネンは今季36歳となるベテラン投手だが、大車輪の働きを見せた。
ワールドシリーズを通して3登板して、すべてで20球以上、2登板では1.0回以上を投げている。さらにヤンキース中核打線とも多く対戦しており、ジャッジと3回、フアン・ソトと2回、ジャンカルロ・スタントンは3回対戦している。最もストレスフルな場面をチームで最も多くこなしたわけだ。
ドジャースが優勝を決めた試合ではブルペン投手が明らかな不足状態にあった。前日にそれぞれ43球、56球、50球を投げたベン・カスパリウス、ランドン・ナック、ブレント・ハニーウェルは登板不能で、トライネンがマウンドに上がった時点でブルペンには前日20球を投げたダニエル・ハドソンしか残っていなかった。
デーブ・ロバーツ監督はトライネンがピンチに陥ると、最後の手段としてハドソンへの交代を頭に自らマウンドへ行きトライネンに交代するか聞いたが、トライネンは拒否。最後は気合で投げ切ったわけだ。
オフにはFAとなっているトライネン。36歳と言う年齢から大金は出しにくいが、RS、PS共に実力は十分だ。ぜひ再契約してほしいところだ。
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【了】