プロ棋士がしのぎを削って、やっと挑戦の場にたどり着ける八大タイトル戦。どれも由緒あるほまれ高いものですが、その中でも最高額の賞金を誇る竜王戦は、名人戦と並んで将棋界最高位のタイトル戦とされており、格別の存在といえます。
その最高棋戦である第37期竜王戦七番勝負第1局が10月5、6日、壮麗なセルリアンタワー能楽堂で行われました。開幕局の模様を、少々趣向を変えたレポートでお送りします。
以下は、2024年11月1日に発売された、『将棋世界2024年12月号』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)に掲載された、人気ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』の作者、白鳥士郎氏による第37期竜王戦七番勝負第1局観戦記より、一部抜粋してお送りします。
編集部からの突然の依頼に驚きつつも奮闘する、白鳥氏の”ちょいゆる”レポをお楽しみください。
突然の依頼
(以下抜粋)
「突然すみません。将棋世界で竜王戦の観戦記を書きませんか?」
詐欺メールかと思った。将棋を題材にしてるとはいえ一介のラノベ作家にあの格調高い将棋専門誌が仕事の依頼をしてくるとは思えない。しかしメールの送り主は国沢とある。編集長だ。どうやら本物……。
『りゅうおうのおしごと!』という主人公が竜王の作品を書いているのに、実は私は竜王戦の対局を取材したことが一度もない。最終巻執筆中の現在、実際の竜王戦を取材できるという申し出は非常にありがたかった。
ただ藤井フィーバーで大量増殖した報道陣、加えてコロナ禍による影響で、タイトル戦の取材には厳しい制限がある。対局室に入れるのは感想戦のみ。棋士が集まる関係者控室にも入れない。いつも対局後に対局者やプロ棋士のコメントを取れるのは記者(大川さんとか)が信頼関係を築いているからであって私には当然そんなものはない。
「もう少し取材できないか確認しますから! 心配しないでください」
そんな編集長の言葉で引き受けた私に、数日後、結果が届く。
「ダメでした」
ダメかー……これ厳しくない?
変わりゆく将棋界
渋谷のセルリアンタワーを訪れるのは人生で2度目だった。前回訪れたのは2018年1月16日。羽生善治竜王(当時)の就位式だ。当日の読売新聞朝刊は永世七冠の資格を得た羽生を祝う記事であふれていたが、その紙面に小さな広告を出したことから私も招待状をいただいて、場違いとは思いつつ参列した。
その前年に29連勝した藤井聡太四段(当時)の姿も6組優勝者として壇上の端にあった。2024年のいま、竜王となった藤井と、その連勝を止めた男が挑戦者として光を浴びている。佐々木勇気八段だ。羽生も壇上にあるが、将棋連盟の会長として。時代の移り変わりを感じる。
時代の変化といえば1巻が出た約10年前、私は将棋イベントの参加者を『99%男性』と書いた。実際当時はそんな感じだった。だがいまは8割が女性。しかも幅広い年代だ。どの業界も喉から手が出るほど欲しがっている層を将棋界は獲得することに成功した。
前夜祭は着席形式。両対局者がテーブルの間を練り歩くような感じでステージに向かうのはまるで結婚式のようだった。着席だとこういうファンサービスも可能となる。コロナの影響もあったろうが、ファン層の移り変わりを目の当たりにすれば、今後はこの形式が定着すると思った。
壇上、藤井はリラックスした様子だが、初タイトル戦の佐々木は硬い。記念撮影でもお互いの距離感に戸惑っているようだ。読売新聞の若杉カメラマンが「じゃあ、グーで!」とポーズを指定すると両者はようやく笑顔でポーズを取る。
棋譜中継を担当する銀杏記者が私のことに気づいてくれた。明日の戦型について尋ねると「角換わりの最新型になると思います」から始まりいろいろと教えてくれたが、私にはサッパリわからない。ただ、指した将棋がそのまま定跡になるような最先端の戦いになるだろうということだけはわかった。
(“りゅうおうのおしごと!” 白鳥士郎が書く第37期竜王戦七番勝負 藤井聡太竜王vs佐々木勇気八段 【第1局】変わる景色、変わらない景色/【記】白鳥士郎)
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