がん研究会 有明病院は10月30日、メディア向けに「大腸がんの予防と治療について~最新の治療をもとに~」と題するセミナーを開催。そのなかで、がん研有明病院 大腸外科 副部長の山口智弘氏は「40歳を超えたら、毎年、大腸がん検診を受けましょう。早期発見できれば、がんは内視鏡治療でも確実に治ります」と呼びかけた。なおセミナーでは、最新の手術支援ロボットを使用したデモも披露されている。

  • がん研究会 有明病院が、大腸がんの予防法、早期発見のヒント、罹患してしまった場合の最新の治療方法について解説

■とても簡単な大腸がん検診

日本人の患う「がん」のなかでも患者数の多い「大腸がん」。近年では若年層の罹患率も増えており、早期発見・早期治療が強く推奨される疾患の1つとなっている。山口医師は「2人に1人が、がんになる時代です。大腸がんの罹患数と死亡数は、40年前と比べると約7倍にも増えています」と警鐘を鳴らす。ただその治療法については、近年、より患者の身体に負担がかからない”低侵襲治療”が標準化されつつあるそうだ。

  • がん研有明病院 大腸外科 副部長の山口智弘氏

  • 大腸がんの罹患数と死亡数

気になるのは、若年性大腸がんが増えていること。米国では55歳未満の患者の割合は1995年には11%だったものの、2019年には20%まで増加している。すでに進行した状態で見つかることも多いとのことで、その背景について山口医師は「定期的に検診に行っていない、若くても大腸がんになると認識されていない、症状が過小評価されている、などの理由が考えられます」と指摘する。

  • 若年性大腸がんが増えている

大腸がんは、ほかの臓器に「転移」するほか、腸の壁に「浸潤」(深く入り込む)していく。がんが大腸の粘膜に留まるステージ0で早期発見できれば根治もできるが、ステージ2では「5年生存率」が約90%となり、ステージ3では約80%まで下がる。では大腸がんを患ったとき、どんな症状が出るのか?血便、排便習慣の変化(便秘、下痢)、便が細くなる、残便感、貧血、腹痛、嘔吐などが挙げられるが、早期がんではほとんど症状が出ないというから厄介だ。山口医師は「そのため定期的ながん検診が重要です」と繰り返し強調する。

  • 大腸がんのステージ

  • ステージ別の5年生存率

大腸がん検診と言えば、便の表面をまんべんなくこすりとって、がんの出血を調べる便潜血反応検査が一般的。「1年前に便潜血反応検査を受けた人は、受けなかった人と比べて大腸がんの死亡リスクが70%も低下したというデータがあります。とても簡単な検査ですので、40歳以上の方は1年に1回、必ず便潜血反応検査を受けたほうが良いです」(山口医師)。

  • 大腸がん検診には、便潜血反応検査。早期発見の機会となる

とはいえ便潜血反応検査も万全ではない。気になる人には、がんを確実に診断できる大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を勧めている。ポリープ(腺腫)を切除することで大腸がんの罹患率を80%低下させ、大腸がんの死亡率を53%低下させる。

  • 大腸がんを確実に発見できるのは大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

■日本人のためのがん予防法とは?

では、どんな人が大腸がんになりやすいのか? 山口医師は「症状が出ている人、家族で罹患者がいる人、環境要因がある人(詳細は後述)、50歳以上の人は要注意です」と説明する。特に、大腸がん患者の約30%は家族集積性または遺伝的素因ありとのことで「一親等に大腸がん患者さんがおられる人は、がんのリスクが2倍~3倍に上がると言われています」と話す。

環境要因としては、喫煙、感染、飲酒、塩分、肥満、運動不足、野菜・果物摂取不足を挙げる。ただ喫煙以外はいずれも程度の問題があり、常識の範囲内であれば問題はないという。これらを踏まえたうえで、次の5つの健康習慣を実践することで、がんのリスクはほぼ半減すると説明。それは、禁煙する、食生活を見直す、適正体重を維持する、身体を動かす、節酒する、ということ。なお最近ではピロリ菌などの感染もがんの遠因になることが言われており、山口医師は「感染症の検査を受ける」を追加した”日本人のためのがん予防法(5+1)”を紹介する。

  • 5つの健康習慣を実践することで、がんのリスクはほぼ半減する

  • 科学的根拠に根ざした「日本人のためのがん予防法(5+1)」

■どんな方法で手術する?

がんの切除手術は、開腹、腹腔鏡、ロボットの3つの方法で行われている。このうち開腹手術は、手で触れることができるメリットがあるが、処置する箇所が奥深くになると見づらく、また創が大きくて患者が痛む、そして腸閉塞を起こす危険性もある。一方で腹腔鏡手術は、創が小さくて済むので痛みも少なく、出血も少なく、回復が早い。ただ先端の曲がらない手術器具を使うために技術の習得には相応の時間がかかり、ベテランの医師でも手ブレしやすい、などのデメリットも存在する。

この欠点をカバーしたのが、ロボット手術となる。医師はサージョンコンソールと呼ばれるコントロールブースに座り、3Dフルハイビジョンで映し出される患部の映像を見ながら、先端が自由に曲がる鉗子を手ブレせずに遠隔操作できるという。

  • ロボット手術のイメージ ※インテュイティブサージカル社より提供

山口医師は、海外でもロボット手術の導入が進んでいると説明。「患者の身体への負担が少ないだけでなく、性機能障害、合併症などが起こる割合も下げられたとの報告があります」と話す。デメリットとしては、手術時間が長くなる、コストが高くなる、といったことがあるようだ。ここで実際に、手術のデモが行われた。

  • 手前にあるのがペイシェントカート。医師は遠隔で操作する

  • サージョンコンソールに座る山口医師

  • 指の繊細な動きに反応して、ペイシェントカートのアームや鉗子が動く。医師は足元のペダルも駆使して手術を行う

最後に、山口医師は「がん研究会では、がんの克服をもって人類の福祉に貢献する、を基本理念に掲げています。がんにより命を落とす患者さんを1人でも減らしたい、と日々の診療の中で強く感じています」と話した。

  • セミナーのまとめ