全国共済農業協同組合連合会(以下JA共済)は3日、農業高校の生徒たちに向けて「農作業事故体験VR」を使った安全教室を実施した。これは増加する農作業中の事故を未然に防ぐための啓発教室で、参加した生徒は「リアルで怖かった」「農作業中にも怪我をする危険があることが分かった」と素直な感想を口にしていた。

  • JA共済が、農業高校の生徒たちに向けて「農作業事故体験VR」を使った安全教室を実施

■重大事故を疑似体験!?

東京・八重洲にて11月3日~4日に開催された「全国農業高校HANASAKA収穫祭2024」には全国の農業高校46校が参加し、大変な賑いをみせた。JA共済では、そんな食・農産業の未来を担う若者たちに向けて安全教室を実施した。

  • 農業高校の生徒と教師が参加した

冒頭、JA共済の担当者はJAグループの概要、そしてJAの取り組みについて以下のように紹介する。「共済とは、生活を取り巻く様々なリスク(怪我・病気、火災・自然災害、交通事故など)に対して、組合員があらかじめ一定の「共済掛金」を拠出して協同の財産を準備し、不測の事故などが生じた場合に「共済金」として支払うことによって、組合員やその家族に生じる経済的な損失を補い、生活の安定を図る相互扶助の保障制度です。JA共済では、保障の提供と地域貢献活動を通じて、農業と地域社会の活性化・発展に努めています」。

  • JA共済の仕組みについて学ぶ

そのうえで本題へ。担当者は「農作業中の事故は年間で約7万件も発生しています。死亡事故は、就農者10万人あたり11.1件も発生しており、これは一般的に危険と言われている建設業の約2倍、全産業の約9倍にあたる数字です。のどかな農作業の中に、実はたくさんの危険が潜んでいるんです」と警鐘を鳴らす。

  • 農作業中の事故が増えている

なぜ、農作業中に事故が発生するのだろう? その要因は、場所や天候などの「環境」、農機具や生物などの「物」、作業者である「人」にあるという。「条件の悪い環境下で、機械・道具に小さな欠陥が起こり、ちょっとした油断が積み重なったとき、重大事故が発生します。特に「発生件数」も「重症度」も高いのが、乗用型トラクター、脚立、刈払機(小型の草刈り機)にまつわる事故です」と担当者。そこで生徒たちは、これらの重大事故を「農作業事故体験VR」を使って疑似体験することに。

  • 乗用型トラクター、脚立、はしご、刈払機による事故は発生件数も多い

各校の代表者がVRヘッドセットを被った。最初のコンテンツは、乗用型トラクターを運転中のシチュエーション。田んぼの広がる農道で、前方からは対向車がやって来る。これを避けようとしてトラクターを脇に寄せるが、路肩との距離を見誤って、なんと車両ごと田んぼの中に横転してしまった。体験中の生徒からは「きゃあ」という悲鳴があがった。

  • VRヘッドセットを被る生徒たち

  • 当事者視点で疑似体験できる

ここで担当者は「農機を路肩に寄せる際には、できるだけ安全な距離を確保しましょう」「万が一、トラクターが転倒しても安全キャブや安全フレーム(運転者を保護する空間を確保する)があれば、運転者の安全は守られます」「作業中はシートベルト、ヘルメットを着用しましょう」と解説する。

  • 一度に20名前後が体験した

このあと生徒たちは、刈払機の刃との接触事故を疑似体験。草木が絡まって回転が止まった刃を油断して触ったことで指を損傷、一緒に作業していた父親に助けを求めたが声が届かず(この後さらに重大事故が起きる)、というシリアスな内容だった。担当者は「刈払機の刃は危ない、ということは誰でも理解しているでしょう。でも実際にこのような場面に遭遇したら、つい刃に絡まった草木を手で除けてしまいかねません」と話す。最後に、脚立の転倒事故についても疑似体験した。

  • 実際に起こり得る危険な場面が続く

  • 農作業事故体験VRは、このほかにもコンバインの巻き込まれ事故、耕うん機の後進作業事故、田植え機の巻き込まれ・転倒編など、全8コンテンツを用意している

■JA共済の地域貢献活動

JA共済では、上記の「農作業事故体験VR」を活用した学習プログラムを全国のJAにおける研修会やイベント、農業関連団体による講習会などに展開している。担当者は「農作業事故体験VR機材は、全国どこでも(送料など含めて)全て無償で貸出しています」とアピールする。

  • VR映像で重大事故を疑似体験×学習動画で事故の原因や安全対策について学べるプログラムになっている

  • ヘッドセットは2台から最大20台まで貸出可能。無線LANルーター、タブレットPCなど研修で使用するオプションも用意している

このほか、JA共済では「くらし・営農」の取り組みとして農業高校などを引き続き支援。書道・交通安全ポスターコンクールなども実施している。若い世代に向けた露出を増やすため、最近ではInstagramの公式アカウント「どやふる / DOYAFUL Powered by JA共済」(@doyaful_jakyosai)を通じて地元目線でふるさとのマニアックな魅力を伝える地域貢献活動も積極的に展開している。

  • Instagramでも地元目線の情報を伝える

直近ではフードロスの削減に貢献する活動として、「少し傷がある」「色・形が変わっている」といった野菜を「隠レア野菜」と呼んでスポットを当て、「実は傷などがあることで旨味や栄養を多く蓄えている」といった研究結果・知見も紹介することで、これまで敬遠されがちだった野菜の価値をあらためて伝えていく活動にも取り組んでいる。こちらはJA共済 地域貢献活動特設サイト「ちいきのきずな」にて11月末に情報が公開されるという。担当者は「イメージキャラクターを務めるお笑いコンビのティモンディも出演します。是非、多くの方にチェックいただけたら幸いです」と話していた。

  • フードロス削減を目指した「隠レア野菜」企画も始まる