人々の暮らしを彩り、そっと寄り添う「お菓子」という作品
本当に美味しいものは、自分はもちろん大切な人にも食べさせてあげたくなるものです。
今回は、鎌倉稲村ヶ崎の住宅街にひっそりたたずむ稲村ヶ崎洋菓子店をご紹介します。2024年5月30日にオープンしたばかり…と言っても実は、33年間一流のパティスリー等で修行と実績を重ねたパティシエ小林 仁さんが手がける一流の菓子店。
小林さんは、鎌倉山のハウスオブフレーバーズにて27年間、厨房で修行と実績を重ねた実力の持ち主です。唯一の師と仰ぐのは、ホルトハウス房子さんと真剣な眼差しを見せました。1994年に創業したハウスオブフレーバーズには、最高級チーズケーキを求めて有名人も数多く訪れています。
筆者も24年前に一度行ったことがありますが、その時のケーキも小林さんが作ったものだったかも知れません。
稲村ヶ崎洋菓子店は、住み慣れた地元鎌倉で、これまで積み重ねてきた「菓子人生」で感謝を伝え、これから出会えるご縁を大切にしたいと独立開業されました。住宅街に溶け込む、自然な佇まいです。
お庭には、手で積み上げたという大谷石の石壁が配されています。
大谷石は建築家フランク・ロイド・ライトによって、大正時代に設計された旧帝国ホテル本館に取り入れられてから、世界的に有名になりました。
庭師さんから贈られたというなんじゃもんじゃの木は「一ッ葉櫤(たご)」という和名があり、神社仏閣などにも植えられています。
特別に飾りつけず、木は木として、石は石として、それぞれの持つ自然さが生かされたお庭です。
素材の美味しさを純粋にひきだす、シンプルという極上
扉を開けると、焼き菓子のいい匂いがして、店内はギャラリーのような雰囲気。
そろりと中に入ると、能面の翁が出迎えてくれました。柔らかな照明と温かい木が配された空間は凛としていて、澄んだ空気を感じました。
木製アンティークのショーケースの中で、お菓子一つ一つが丁寧に大切に扱われています。
フィナンシェ、ブラウニー、スコーン、パウンドケーキなどの焼き菓子と、タルトやプリン、ゼリーなどの生菓子、クッキーやメレンゲなどがあります。
プリンやタルトは素敵な写真がケースに並んでいて、厨房のフリーザーから運ばれます。この日は、定番のカボチャのプリンでしたが、今度は昔っぽい固めのカスタードプリンにするそうです。洋梨タルトは、そろそろアップルパイになります。
赤ワインと洋梨のゼリーの後は、寒くなる頃には生姜と檸檬のゼリー、桃の時期には桃とシャンパンのゼリーなど、季節で変わるそうですよ。
ホルトハウス房子さんから「果物の旬は短い」と学び、旬のものを忠実に食べることを大切にされています。
艶っとしたレーズンサブレには、シンプルな焼きごてのワンポイント。
から松紋様の焼印を見せて頂きました。骨董品ということで、焼きついた鉄に味がありました。
ジュっと焼きつける時も、いい匂いがしそうですね。
フィナンシェは、王道のプレーン。隣にあるしっとりめのスコーンは、キャラウェイシードとプレーンがあり、チーズやベーコンを合わせて味わうのもおすすめとか。
四角いスコーンは、珍しいですね。
鎌倉の小邦造園さんが手がけてくれたというお庭の大谷石の形から、お菓子の形を四角くしたものが多いとか。色々助けて頂いたというお話をされて「人の繋がりは本当に有り難いですよね」と言う小林さんの表情を見て、じんわり感動してしまいました。
隣には、キャロットケーキとパウンドケーキが並んでいました。スパイスの効いたキャロットケーキに、たっぷりとチーズのレモンクリームが乗っていました。常温に戻して頂くと、クリームが滑らかになってさらに美味しく頂けるそうですよ。
定番のブラウニーは、季節によってナッツや生姜など乗せるものを変えるそうです。こちらは、カリカリ香ばしいナッツが乗った、出来立てのブラウニー。
口を開けて食べようとしたら、芳醇なカカオの香りが口に飛びこんできて驚きました。
濃いめのコーヒーを淹れて、ゆっくりゆっくり堪能したいブラウニーです。
こちら、週末だけ登場するというシュークリームは、キャラメルとカスタードの二種類 各420円(税込)。
小林さんは19歳の頃に、パリ野郎を意味するChoux parigot(シューパリゴー)というシュークリームに出会いました。
「自分の店を出したら、しっかりとしたカスタードのシュークリームを作りたい!!」と、生クリームは使わずしっかりとしたカスタードのシュークリームが実現しています。
キャラメルは、微かにほろ苦い香りがして、大人っぽくもしっかりとした甘さ。
カスタードは、舌に絡みついたままにしておきたい濃厚な味わい、にもかかわらず後味がさらっとしています。あまりの美味しさに、食べ終わるのが惜しくなりました。
どちらも、たっぷりのクリームとシュー皮の味わいが最高です。
こちらは、夏蜜柑のパウンドケーキ2,500円(税込)。金の箔が打たれた化粧箱に納まり、ずっしりとした重さです。
僕の親指くらいの幅に切るといいですよ、と笑いながら教えてくれました。修行と経験を刻み込んだ、匠の手です。
綺麗に焼き上がった夏蜜柑のパウンドケーキは、ナイフを入れた時にしっとりみっちりとした密度を感じました。
夏蜜柑は、小林さんが葉山で木から収穫するところから手がけています。丁寧に洗い、じっくりとコンフィにした分を大切に使うそうです。
師であるホルトハウス房子さんのチーズケーキは、何十年もかけて最高のレシピを完成させたと言います。日本一高いチーズケーキと称されていますが、厳選した材料と修行を重ねた匠の技を鑑みれば当前のことです。
素材の美味しさを純粋にひきだした、シンプルという極上。お菓子の奥深さを味わうことのできる逸品です。
ここに並んでいるのは、師の志を継ぎ厳選した材料と手間暇、人生をかけて作り出したお菓子という作品です。
太陽の陽をたっぷりと浴びた身体にも優しい夏蜜柑のパウンドケーキ、大切な方へのお土産にもおすすめです。
縁起の良い能面 翁が微笑む、居心地の良い空間
お店の正面に掛けられた、能面 翁のデッサンがお店のロゴになっています。実は、100歳でこの世を去った能面彫り師である大叔父様、羽生光善さんの作品だそうです。
羽生さんは2011年に新宿の百貨店で娘さんとの二人展を開催し、当時 観世流の能面を手がける現役最高齢93歳の能面師と称されました。
能面は大変貴重なもので、特に翁は縁起の良いものとされています。
機会を見て、羽生光善さん作の龍の面を掛ける予定だそうです。大変珍しいので、ぜひ拝見したいものです。
こちらは、地元の方がくつろいで行くという革張りのソファ。
テーブルに並んでいたのは、美味しそうなクッキーとメレンゲのお菓子です。
床は、人の手で鋸を引いたと言う木挽きの木材を使用しています。溝が見えますか?機械で切ったものと違って、不思議とワックスがよく馴染むと言います。
蓮が飾られているのは、アンティークのワインボトルだそうです。珍しいですね。
お菓子だけでなく、インテリアも素敵です。アンティークの真鍮の鍵や鍵穴、鉄の部品も洒落ています。
厨房は、清潔でピカピカです。「綺麗じゃなきゃね」と話す小林さん、お客様には見えない場所ですが、毎日磨き上げているそうです。
取材をしている間に、お客様が続々とやってきました。近所のサーファー仲間や、東京から来たという方々、順番に外で待つ方も。
知る人ぞ知る稲村ヶ崎洋菓子店を、すでに見つけた方々です。
さて長編となりましたが、まだ全ての魅力をご紹介しきれていません。
オンラインショップやインスタグラムには載っていませんが、2024クリスマスフォレノワール、クリスマスチーズケーキの予約受付中ですよ、完売になる前にどうぞご予約を。
最高のお菓子と居心地の良い稲村ヶ崎洋菓子店、ぜひ行ってみてくださいね。
店舗紹介
【稲村ヶ崎洋菓子店】■住所:〒248-0024 神奈川県鎌倉市稲村ガ崎5丁目21−5■電話番号:0467-28-9612■営業時間:10:00-17:00■定休日:火曜、水曜■駐車場:有り
アクセス
江ノ電 稲村ヶ崎駅より 徒歩15分
江ノ電バス〈七里ヶ浜循環〉稲村口下車 目の前