ドジャース、ポストシーズンの前評判は低かった!? ワールドシリーズ進…

メジャーリーグ 最新情報
 4年振りにワールドシリーズに進んだロサンゼルス・ドジャース。シーズンでは強さを見せたが、故障者の多さ、近年のプレーオフでの結果から前評判ではプレーオフ敗退の声も少なくなかった。それを覆し、ここまで来られたのは何故か。今回はドジャースがNLCSで見せたチームとしての運用、采配面に着目し、分析した。(文:Eli)
 

今シーズンのメジャーリーグは
[PR]

 
 過去2年連続で初シリーズ敗退という最悪の流れの中で、ロサンゼルス・ドジャースは2024年シーズンで最も完全なチーム”と呼ばれたサンティエゴ・パドレスを打ち破りNLCS進出を決めた。
 
 ワールドシリーズ優勝の有力候補であるパドレスという最大の難関を乗り越えたことでドジャースには勢いがついた。
 
 加えて誰か一人の大活躍ではなく、打線ではキケ・ヘルナンデス、テオスカー・ヘルナンデス、ムーキー・ベッツ、投手陣ではブルペン陣全員など全員で勝ったという意識もあり、チーム状態はすこぶる良い状態だった。
 

 
 一方でこれはニューヨーク・メッツも同じだ。8月末にはプレーオフ進出確率が13%まで沈んだ状況をひっくり返し、シーズン最後のシリーズでプレーオフ進出を決めた。
 
 そして敗退まで、9回2アウトからピート・アロンゾの逆転ホームランでミルウォーキー・ブルワーズとのWCSをパス、NLDSでは近年のプレーオフで無類の強さを誇っているフィラデルフィア・フィリーズをホームのシティ・フィールドで打ち破った。この勢いは”ミラクルメッツ”と言う言葉に集約されているだろう。
 
 このように、両チーム共に勢いがあり、チーム状態も良い。ロースターの完成度はドジャースが上手だったが、プレーオフは短期決戦という何が起こるかわからない状況だ。ドジャースはどのようにして勝ったのだろうか。





“穴埋め要員“がシリーズのヒーローに

 
 突然だがプレーオフを勝つうえで攻撃側に大事なこととは何だろうか。劣勢をひっくり返す特大のホームランは非常に魅力的で、事実2022年NLCSでのブライス・ハーパーや、2024年WCSでのピート・アロンゾの逆転ホームランなど記憶に残るものが多い。
 
 しかし、最大7試合のシリーズを一定レベルで勝ち抜くにはホームランだけではやっていけない。
 
 選手や解説者がインタビューを受けると次の2つの表現が多く出てくる。1つ目は『”Not trying to do too much”』、直訳すれば”あまり多くのことをしようとしない”となるが、これは即ち自分ひとりで決めようとせず、単打・出塁などで打線をつなごうとするということだ。
 

 
 2つ目は 『“Put the ball in play”』、これは”ボールをインプレーにする”という意味だが、バットをボールに当てれば何かが起こる可能性はゼロではないので、三振しないようにしようということだ。
 
 この2つをチームで徹底していればおのずと勝利は近づいてくるはずだ。レギュラーシーズンではシーズンを通して勝つことが大事なので三振が多くてもそれ以上の長打がついて来れば良い。
 
 一方で、短期決戦では目の前の試合を勝つ必要があるので長打を求めず、三振をしない、そしてバットをボールに当てて何かを起こす必要がある。
 
 この2点を体現したのがNLCS MVPに選ばれたトミー・エドマンだ。エドマンはNLCSを通して27打席に立ち11安打、11打点をあげている。11安打のうち長打は2塁打3、本塁打1の4本のみ。後は全て単打だ。さらに三振率はNL側ではメッツのタイロン・テイラーに次ぐ低さの13.8%だった。
 
 ポストシーズン開始当初、エドマンは下位打線に置かれ、上位打線が返すためのランナーをつくる仕事をしていた。守備面ではセンター、ミゲル・ロハス故障後はショートなど重要なポジションに就いていたが、それだけでシリーズMVPを獲る働きではない。
 
 しかしGame 1では、逆方向への単打での打点、大谷のタイムリーをセットアップするバント、Game 2 では2本の単打、Game 3 ではゾーン低めいっぱいのカーブを打ち勝ち越し2塁打、Game 6では4番打者に昇格しGame 2で苦しんだサイドスローのショーン・マナエアを見事に攻略し2塁打、メッツを突き放すホームランを放った。
 
 このようにして、派手ではない活躍を積み重ねてMVPをエドマンは勝ち取った。ALCS MVPを受賞したニューヨーク・ヤンキースのジャンカルロ・スタントンはヒット4本すべてがホームランと非常に対照的だ。







シリーズを通して“神采配”披露…?
 
 ドジャースの指導部も良い仕事をした。攻撃、防御両方での作戦勝ちと言って良いだろう。
 
 投手運用ではNLDSで勝利を手繰り寄せたブルペン運用が再び炸裂した。Game 1はジャック・フラハティ―の好投によりすることは特になかったが、それ以外は先発が4回以内に降板するかブルペンデーであり運用の上手さが問われた。
 
 先発のイニング消費が期待できないときは必然的にブルペンにしわ寄せがくるわけだが、ブルペンに登録できる人数は限られている。
 
 ゆえにハイレバレッジリリーフは勝負所で惜しみなく投入する。負け試合ではリリーフの消費を抑えることが大事だ。NLDS最終戦で負傷したアレックス・ベシアが不在なのでなおさらである。今シリーズではこれを見事にやってのけた。
 
 Game 2、Game 5 では序盤に投手陣が炎上。米分析サイト、『Statcast』の計算では両試合で3回までにドジャースの勝率が25%以下まで落ち込んでしまった。そこで首脳陣は試合を実質捨てる決断を下した。
 
 米メディア『FOX』の中継でリポーターのKen Rosenthal氏は「ロバーツがGame 2&5で勝利を追求し過ぎなかったのは我慢の賜物だ。本音を言えば、見かけは良くなかった。ポストシーズンの試合を事実上捨てることになる。しかし、この試合に勝てば目的は手段を正当化する。
 

 
 先発、(ベシアを失った)ブルペンが人手不足だったからこそ、このような采配をせざるを得なかった」とコメントしている。NLCSがドジャースの勝利で終わったから言えることかもしれないが、ロバーツ、そしてドジャース首脳陣の作戦的中だ。
 

 
 攻撃面ではラインアップの微妙な組み換えが功を奏した。
 
 元々MVP3人を上位で固定し、テオスカー、ウィル・スミス、マックス・マンシーと続く打線だが、Game 3の時点で絶不調のスミスを7番へ、マンシーを4番へと組み換え、メッツ先発ルイス・セベリーノを攻略した。この試合でマンシーは2打数2安打3四球と大活躍した。
 
 Game 4以降はホセ・キンタナ、マナエアという左腕2人を攻略するためにシーズン対左投手OPS1.299とうちに打っていたエドマンを大胆にクリーンアップに引き上げた。彼の活躍は前述の通りだ。
 
 メジャーでは攻撃面での小技などが少なく、攻撃中の指示だしなどが減る。ゆえにラインアップを組むことが首脳陣の最大の仕事となる傾向にあるが、その最大の仕事で最高の結果を出したと言えるだろう。



 


 
【関連記事】



 

 
【了】