https://youtu.be/N_vKger6vbs
■プロフィール
■古賀大貴さん
Oishii Farm 共同創業者 兼 CEO 1986年、東京生まれ。大学卒業後、コンサルティングファームに入社。さまざまな業界のプロジェクトに参画する一方で、 農業にも興味を持ち、夜間の農業学校に通う。その後、UCバークレーでMBAを取得。2016年12月に「Oishii Farm」を設立し、2017年からアメリカ・ニューヨーク近郊に植物工場を構える。 |
■横山拓哉
株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。 |
大型の研究開発拠点が日本に
横山:今年の2月にお話を聞かせてもらいました。当時、植物工場をニューヨーク近郊だけではなく、東海岸などへも広げていくとおっしゃっていました。この半年間ぐらい、いかがでした。
古賀:小売の業者さんがどんどん増え、需要に対して供給が全く追いついてない状態ですが、少しずつアメリカの消費者の方々の手に届き始めてるのかなと。
横山:そんな中で、植物工場の研究開発拠点「オープンイノベーションセンター」を日本に設立されると聞きました。
古賀:今まではグローバルでナンバーワンの農業ブランドを作ろうと、グローバルなチームを作りやすいアメリカで会社を設立しました。同時に研究開発もアメリカでやってきました。ただ、植物工場のベースとなる技術は施設園芸と工業にあるので、気づけば人や物など、かなりの部分を日本からアメリカへわざわざ持って行って研究開発をしているんですね。今、社員は200人以上に増え、体制も整ってきたので、ここでもっとも最適化された場所で研究開発拠点を置くのがいいんじゃないかと。
横山:なるほど。
古賀:当然、アメリカにも研究開発の機能は残します。ただ日本企業との連携が多い領域は日本に持って行って、関連企業の方々をお招きし、一緒に植物工場の研究開発をやっていくという趣旨で「オープンイノベーションセンター」を2025年に建てることになりました。稼働まで持っていく予定です。
日本にある技術を生かす
横山:創業当初から「いずれは日本で」という想定はあったのでしょうか。
古賀:正直、最初はあまり考えていませんでした。ですが、研究開発をやるほど、日本にはいい技術がまだまだ眠っていることが非常によく分かってきて。円安の影響もありますが「これはもう日本に作ったほうがいい」というロジカルなビジネス判断です。一方で、私も日本人として「日本の良いもので世界を驚かせたい」という思いで、ずっとやってきました。創業7年目にして初めて、本格的に日本と縁が出てきたので、非常にうれしいチャレンジになりますね。
横山:オープンイノベーションセンター設立の狙いお教えてください。
古賀:今、我々がアメリカで運営している植物工場は、簡単に言ってしまうと、いろんな技術が継ぎはぎされた集合体みたいな感じなんです。
横山:“パッチワーク”のような。
古賀:植物工場専用の空調も、ロボットも、かん水のシステムがあったわけでもありません。世界中にいろいろな製品がある中で「1番いいのでは」というものを、融合させて動かしている状態。これを各メーカーと一緒に、専用のものを開発して量産することで、効率的に研究開発を進めたいと思っています。
横山:多くの領域での外部連携を想定されていると思いますが、具体的にはどんなところがありますか。
古賀:公表しているところでは、NTTさん、みずほ銀行さん、荏原製作所さん、また食品関連の会社からも出資を受けています。各領域から優先順位をつけて、どういったものからやっていくかを議論している最中です。
横山:“篤農家”というキーワードも入っていたと思いますが、そこのイメージは具体的には何か教えていただけますか。
古賀:やはり我々は農業の会社です。自動化や工業化に頭が行きがちですけれど、当社が作っているイチゴについても、またイチゴ以外のものに関しても、まだまだ我々の知見は少ないと思っています。そのため、新しい作物をやる時には必ず篤農家さんから「どういった品種をどういった環境で育てて、どうなりそうなのか」「植物工場の利点を生かすとどういう育て方が良さそうなのか」などの技術の指導を乞いたいと思っています。今までも実際に、イチゴやトマトなどの篤農家さんと連携しながらやってきました。これからも積極的に連携を強めていきたいなと思っています。
未来を見越した研究開発の必要性
横山:一方「Oishii Farmが日本進出」という言葉から、「自分たちの競合になる」と捉える日本の農家さんもいるかもしれませんが。
古賀:今回建てるのは植物工場ではなく、研究開発施設です。その上で「そこで生まれた良いものを世界に輸出していきましょう」ということですね。私たちは世界的に見て、適した場所で生産します。日本で生産するかどうかは、今後、世界の他の地域と見比べての判断です。
横山:あくまで今回は研究開発ということですね。
古賀:ただ競合ではないと考えています。この1年間、いろんな政府関係者とお話する中で、「既存農家が今後減る中でどのように需給ギャップを埋めるか」ということに政府の方々の意識が移っていると感じます。2050年には、農家が2020年と比べて8割減るという推計もあります(※)。すると日本の食糧安全保障上、農家が減る分、我々のような者が入らないと、価格が高騰しすぎる可能性があります。それは一般消費者からすると非常に困る事態になるんじゃないかなと思っています。
※:
植物工場のコストと採算性
横山:たまに、日本の農家さんたちから「確かに味はおいしいかもしれないけれど、量は取れてないんでしょう」といった声も耳にします。
古賀:確かに、我々も最初始めた時は正直収量が多くありませんでした。どちらかというと味を意識して作っていたのは事実です。しかし、この7年間、理屈上その品種にとって一番いい環境を作り、それをいかに再現できるかを、ずっとやってきた結果、当初の5倍もの収量になっています。データを見る限り、我々が作る品種に関しては外よりも植物工場で作った方が、収量が高いところまできています。
横山:極論、東京都内が45度を超えようとも、植物工場なら作れる。
古賀:まさに、そうなんですよ。北極でも砂漠でも、常に植物工場の中は一定の環境が作れます。逆にそういうところを生かしていかないと。普通の農業よりもコストが高いですから、収量が高くないと回収できない。あとは1年間通して収穫し続けられますし、研究によって受粉は95%の成功率。そういう意味でも、非常に効率的な農業ができるモデルになっています。
横山:この時点でパッケージ化して、世界へ輸出できそうなものですけど、まだまだなんですね。
古賀:作ろうと思えば、アメリカで作ったメガファームを世界中に建てることはできなくはないんです。けど、まだまだ現場合わせが必要だったり、我々のメンバーがそれなりに張り付いてやっている部分があります。それを本当の意味でのソリューションにしていくには、いろんな研究開発が必要です。
横山:できたものはうまくいったが、属人的なものを今後どのようにオートメーションに落としていくかということですね。
日本法人の設立に際して
横山:海外では植物工場はどんな状況なのでしょうか。
古賀:この1年ぐらいで、ほとんどのメジャーどころが倒産してしまったんですよ。これは当社としてはうれしいことではありません。切磋琢磨して、この業界を作っていきたいと思っていますから、なんとか生き残ってる数社には復活していってほしい。それは日本においても同じです。我々含め、ここを生き延びて、また業界を盛り上げていきたいです。
横山:今回のオープンイノベーションセンターがきっかけになってくれるといいですね。
古賀:日本のいろいろな産業に入ってもらい、いいソリューションを生み出したいです。我々一社ではなく日本という国全体で勝っていきたい。世界の植物工場スタートアップが苦戦する中で、日本が一体となり、世界中に日本の技術や種苗などを駆使した植物工場がたくさん建っていけば、日本の一つの国家戦略になっていく可能性があると思います。これまでは“エレクトロニクス・自動車の日本”でしたが、これからは“食・農業の日本”になれるのではないでしょうか。
横山:最後に、今回、日本法人を設立すると伺いました。仲間を募ることにもなるんでしょうか。
古賀:もちろんです。いろんな職種を募集していきます。農業に関連するような技術者のほか、工業のエンジニアリング側のメンバーも募集します。加えて、ビジネスモデルとしてもイノベーションを起こしていきたいため、その方面での人も募集します。興味がある方は、ぜひホームページなどを見ていただけるとうれしいです。
横山:どんな仲間を待っているのでしょうか。
古賀:私が日本人としてやっている一番大きなモチベーションは、この日本の技術で世界産業を作っていくというところです。そこに共感していただける方、日本のおいしい農作物、もしくは日本の素晴らしい工業技術で、海外の方々が食べたことないようなものを提供して「こんな、おいしいものがあるんだ!」と思っていただく。そういったところを、ぜひ1人でも多くの方に一緒に経験してほしいですし、そこにパッションを傾けられる方にどんどん応募していただきたいと思います。
横山:半年に1回ペースで今お会いさせてもらっていますので、また次の半年後が楽しみですね。
古賀:今、言っていることが、半年後にちゃんと実現できるように、いい戒めにもなりますので。よろしくお願いします。
(編集協力:三坂輝プロダクション)