藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦する第37期竜王戦七番勝負(主催:読売新聞社)は、第1局が10月5日(土)・6日(日)に東京都渋谷区の「セルリアンタワー能楽堂」で行われました。対局の結果、角換わり腰掛け銀のねじり合いから抜け出した藤井竜王が117手で勝利。4連覇に向け好スタートを切りました。

初舞台での封じ手

立会人の森内俊之九段、会長の羽生善治九段らが見守るなか能楽堂での対局が始まります。振り駒で先手となった藤井竜王は迷いなく角換わり腰掛け銀を採用、対する後手の佐々木八段は早い段階で注文を出しました。6筋の位を取ったのは持久戦に進んだ場合に自玉の広さを主張する手で、先手の動きを誘っている意味があります。

定跡化された応酬が続いたのちに新手を出したのは佐々木八段でした。先手の桂頭を目標に守りの銀を繰り出したのが積極的な揺さぶりで、盤上は1日目午前にして前例のない戦いへ。その後も間合いの計り合いは続き、藤井竜王が78分の大長考で模様を取ったところで佐々木八段が自身初となる封じ手を行うことに。

大局制した自陣角

2日目に入ると局面が動き出します。藤井竜王が自陣中央に放った角が一局を制する一手。この角は左辺の確実な端攻めを見せて後手の焦りを誘いつつ、手順に飛車桂との連携で右辺の香を取る狙いも秘めています。香を取られた佐々木八段はなんとか代償を求めますが、藤井竜王はここから一気のギアチェンジで優位を拡大しました。

大切そうに見えた馬を見捨てて小駒での寄せに切り替えたのが「終盤は駒の損得より速度」の格言通りの一手。馬を取るために飛車をへき地にやった後手から有効な攻めがないのを見越しています。一手勝ちを読み切った藤井竜王の着手は冷静でした。終局時刻は18時31分、最後は自玉の受けなしを認めた佐々木八段が投了。

自由奔放な佐々木八段

全体を振り返ると藤井竜王が手堅い指し回しで先手番のリードを広げる快勝譜に。一方の佐々木八段も初登場となるタイトル戦で新手披露や封じ手、さらにはおやつに同一のシュークリームを4連投など盤上盤外に存分にらしさを発揮した一局となりました。

勝って竜王4連覇に向け好スタートを切った藤井竜王は「急所がわかりづらく一手一手難しかった」とコメント、敗れた佐々木八段も大盤解説場にて「タイトル戦を体験でき楽しかった」と次戦に期待をのぞかせました。佐々木八段の先手番で迎える第2局は10月19日(土)・20日(日)に福井県あわら市の「あわら温泉 美松」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 終局後のSNSには「藤井竜王の寄せの切れ味たるや」「最後はあっという間に」と称賛が並んだ(提供:日本将棋連盟)

    終局後のSNSには「藤井竜王の寄せの切れ味たるや」「最後はあっという間に」と称賛が並んだ(提供:日本将棋連盟)