義務教育で長い時間をかけて英語を学ぶにもかかわらず、日本人は英語に苦手意識を持つ人が少なくありません。その背景には、言語の違いや学習法の違い、文化的特性などさまざまな要因があります。
日本人が英語を身に付けにくいといわれる理由や、海外との学習法の違いについて、AI英会話アプリ「スピーク」の日本統括を務めるYan Kindyushenko (ヤン・キンジュシェンコ)氏に聞きました。
■日本人が英語を身に付けにくいのはなぜ?
――「日本人は英語が苦手」といわれることがありますが、日本の英語力の現状は?
国際的な英語能力ベンチマーク「EF EPI英語能力指数」において、日本は113カ国中87位(2023年中)と、世界的に見ても高い水準にあるとはいえません。しかも2011年以降、同指数における日本の順位は年々低下しており、「英語力が低下している地域」に位置付けられてしまっています。
――義務教育で長い時間をかけて英語を学ぶにもかかわらず、日本人が英語を身に付けにくいのはなぜなのでしょうか?
複数の要因が複雑に絡み合っています。おもな理由のひとつは、日本語と英語が大きく異なる言語であるということです。
日本語がSOV 言語(文の並びが主語→目的語→動詞の順の言語)であるのに対し、英語はSVO 言語(文の並びが主語→ 動詞→目的語の順の言語)です。ドイツ語をはじめ、ヨーロッパ言語は英語との共通点が多いですが、日本語と英語では語順はもちろん、カタカナ語を除き、語彙(ごい)もまったく違います。
そもそも、ヨーロッパの人が英語を学ぶのに比べて、日本人が英語を学ぶのはハードルが高く、どうしても習得に時間がかかってしまうのです。
――そのほかにも理由はあるのでしょうか?
日本にはミスを恥じる文化があることも、日本人が英語を身に付けにくい要因のひとつになっていると考えます。日本人は完璧主義の傾向があり、ひとつの「正解」があることを前提に、いかに正しい英語を身に付けるかを重視する人が多いので、間違えることを恐れて英語を話せなくなってしまっています。
一方、アメリカのように、さまざまな文化的バックグラウンドを持つ人が共生している国では、人によって発音がバラバラで、アクセントや文法の違いに寛大な傾向があります。多文化環境の国では、言語はあくまでもツールであり、コミュニケーションが成り立てばいいと割り切っている人が多いので、その点は「正しさ」を重視する日本人との大きな違いかもしれませんね。
加えて、多文化環境の国に比べ、日本では日常的に英語を実践で使う機会が少ないことも、日本人が英語を身に付けにくい要因になっていると思います。国内の経済規模が大きく、これまでは英語があまりできなくても経済活動が成り立ってきたことも一因ではないでしょうか。
■試験重視の日本、コミュニケーション重視のヨーロッパ
――日本人の英語に対する苦手意識、特にスピーキングが苦手なことについては、教育の問題が指摘されることも多いですよね。日本と海外における英語教育にはどのような違いがあるのでしょうか?
日本の英語教育は文法と読解重視で、しかも中学・高校・大学の入試や資格試験(TOEICや英検など)対策が中心になっており、実際のコミュニケーション能力を養う機会が少ないという特徴があります。
一方、国によって異なるものの、海外では英語をコミュニケーションのツールとして捉え、ツールとしての英語をどう生かすのかに主眼を置いている国が多い傾向にあります。
例えばヨーロッパでは、英語を使ったスピーキングやリスニングの練習が重視されており、ディスカッションやプレゼンテーション、グループワークなど、英語を使った実践的なコミュニケーションの機会が多いのが特徴です。
――自身が受けた義務教育を振り返っても、日本の英語教育は英語を「勉強」することが目的になっていて、「英語を活用して何をするのか」という視点がないように感じられます。
おっしゃる通りです。「○○大学に合格する」「TOEICで〇点取る」など、英語を学ぶゴールが「試験」になってしまうと、試験に必要な要素を勉強するというアプローチになってしまいます。
そうすると、英語を使って何がしたいのか、英語をどう生かしたいのか、英語学習の先を見据えて、楽しみながら学ぶことが難しくなってしまいます。
■英語はあくまでもツール。話してこそ上達する
――日本人が英語を身に付けるためにはどうすればいいのでしょうか?
「語学」という言葉がありますが、日本人は「学問」としての英語に触れて、学問として学んで終わってしまうことが多いように見受けられます。しかし、英語はあくまでもコミュニケーションのツールです。実際に使うことが大事ですし、話さなければ言語はなかなか上達しません。
日本人は特にスピーキングに苦手意識がある方が多いので、「スピーク」のようなAI英会話サービスでもいいですし、英会話教室でもいいので、自分に合った方法を見つけて、毎日少しずつでもいいので実践する機会を設けてほしいです。
また、映画をはじめ英語は意外と身近にあります。身近なツールやコンテンツを活用して、生きた英語に触れる機会を意識的に増やしていただきたいですね。コミュニケーションツールとしての英語をどう生かすかはその人次第です。
学びながらでもいいので、英語をどう活用するのか、英語を身に付けて何がしたいのかを考えていただくと、モチベーションを高く持って英語学習に取り組めるのではないでしょうか。