近距離モビリティの開発・販売およびモビリティサービスを手掛けるWHILLは、スクータータイプの電動四輪「WHILL Model R」を発売した。これまで複数の「歩道のスクーター」を手掛けてきたWHILLが「使いやすさを追求したハイパフォーマンスモデル」として発表した新型車は、どんな乗り物なのか。実物を見て乗ってきた。
市場規模と販売実績に乖離?
「WHILL Model R」は時速6km以下で走行する電動モビリティ。運転免許なし、ヘルメットなしで乗れて、強めの早歩きくらいの速度で座ったまま移動できる乗り物だ。
WHILLによると、500m以上の距離を歩いて移動することにつらさや困難さを感じる65歳以上の人は、日本国内に1,200万人以上いるとの試算がある。そうした人たちにとってWHILLが作っているような電動モビリティは便利なはずなのだが、「スクーター型電動車椅子」全体の国内の出荷台数は年間1.6万台にとどまる。
どうして市場規模と販売の実態がここまで乖離しているのか。なぜ、彼らに買ってもらえないのか。WHILLに寄せられた声としては、「ガレージにコンセントがなく、保管や充電が難しい」「マンション住まいで通路幅が狭く、駐車や保有がしづらい」「運転・走行が不安」「見た目が仰々しい」などの意見があったそうだ。
「WHILL Model R」は「スクーター型電動車椅子」購入の障壁となるいくつもの要素をクリアした新型モデルだ。例えば、バッテリーは着脱式を採用。これなら、駐車スペースにコンセントがなくても、バッテリーだけを部屋に持って帰って充電することができる。
WHILL上級執行役員の池田朋宏さんによると、上記1,200万人のうち、コンセントにプラグを差し込んで充電するタイプの「WHILL Model S」でリーチできるのは約30%に限られるという。それ以外の人たちは居住環境の問題、具体的には充電できる駐車・保管場所がないなどの理由で、こうした乗り物が欲しくても購入・所有できない事情があるのだ。今回、着脱式バッテリーの「WHILL Model R」がラインアップに加わったことで、今後は「あらゆる住環境」に対応できるようになると池田さんは話していた。
走行面では国内最小クラスの小回り能力を実現した。最小回転半径(その場でグルグルと円を描いて走行する際の半径)は、この手の乗り物の平均が1.5mくらいであるのに対し、「WHILL Model R」は97cmを達成。実際に運転してみたが、三角コーンで区切られたかなり小さな丸いスペースでも余裕で旋回できた。前輪がほぼ直角まで切れることと、左右の後輪に独立して搭載する「デュアルモーター」が奏功しているようだ。
見た目が仰々しいかどうかは実物を見て判断してもらうしかないが、WHILL代表取締役社長 CEOの杉江理さんは、「メディカルデバイス」として見た場合の「電動車椅子」が持つネガティブなイメージをポジティブな方向に変えていきたいと話している人物であり、もともとは日産自動車のデザイン本部にいたという経歴を持っている。「WHILL Model R」の発表会でも、「アップルやテスラ」という具体的な社名に言及しつつ、自社のプロダクトで目指していくイメージを説明していた。要するに、シンプルで機能的でクールな姿をした乗り物を作っていきたいということなのだろう。
ボディカラーは「アイコニックホワイト」「ガーネットレッド」「シルキーブロンズ」「ラピスブルー」の4色。価格は「アイコニックホワイト」が35.7万円、残りの3色が37.2万円だ。販売目標台数については非公表とのことだが、池田さんは「かなり多くの方に届くのでは」と普及に自信を示していた。