ソニックマニア総括 サカナクション、アンダーワールドら奇才たちの台風を吹き飛ばす熱演

サマーソニック前夜の8月16日、オールナイトの祭典ことソニックマニアが幕張メッセにて行われた。最強クラスの台風7号が接近したことで一時は開催すら危ぶまれたが(やむを得ず来場を見送った観客への払い戻し対応は大英断)、当日は大好評だったラインナップの出演キャンセルもなく、例年に劣らぬ盛況ぶりを見せた。海外勢・小林祥晴、国内勢・小松香里による総括レポートをお届けする。

【写真ギャラリー】ソニックマニア ライブ写真まとめ

【サカナクション】20:30〜21:30

オーディション企画「出れんの!? サマソニ!?2024」から選出されたTrkouazに加え、SARUKANIとカメレオン・ライム・ウーピーパイという気鋭の3組がオープニングアクトとして出演。開催を待ちわびたオーディエンスが早速興奮の声を上げた後、MOUNTAIN STAGEに現れたのはサカナクションだ。

20時半きっかりに場内が暗転し、「アメ」というボイスサンプリングが響いた。「Ame (B)」のダンスビートが流れる中、巨大LEDビジョンには「Reboot」や「Return」といったワードが映し出される。サカナクションはボーカル&ギター・山口一郎の体調不良のため、2022年7月からライブ活動を休止していたが、今年4月に2年ぶりのアリーナツアーを行い、復活を遂げたばかり。場内が「おかえりなさい!」というムードに包まれる中、ステージには岩寺基晴(Gt)、草刈愛美(Ba)、岡崎英美(Key)、江島啓一(Dr)という5人の姿。山口が「みんな用意はいいかい?」と言うと、フロアから歓声が上がった。

(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

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「陽炎」のイントロで銀テープが勢いよく飛び出し、ビジョンには舞妓等が写り、夏祭り感を高めていく。トライバルなビートが響き、山口が「1、2」とカウントアップして「アイデンティティ」へ。もちろんサビはオーディエンスが拳を突き上げながらの「どうして 時が経って 時が経って」の大合唱だ。「ルーキー」では山口の両サイドで岩寺と草刈がスネアドラムを2本のスティックでパーカッションのように叩いた。ステージから放たれる緑のレーザーが眩しい。

山口が「今日は朝まで一緒に踊り倒しましょう! 自由に踊り倒すぞ! 準備は良いか?」と叫ぶと、「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」の旋律が響いた。オーディエンスがハンドクラップをする中、メンバー5人は横一列に並んでラップトップやミキサーをいじり、バキバキのテクノで数万人を踊らせる。5人が右手を天に突き上げ、ステージか大量のCO2を噴出。「ネイティブダンサー」へ。歌謡曲的な情緒あふれるメロディとダンスミュージックを融合させ、多くの人の身も心も掴んだサカナクションの特異性を改めて見せつける。

「ミュージック」のサビでクラフトワーク・シフトからロックバンド・シフトへ一転。山口がフロアを指差しながら「みんなまだまだ踊れる?」と問いかけると、2人の舞妓が登場し、「夜の踊り子」へ。oiコールが響き渡り、サビは「どこへ行こう どこへ行こう」の大合唱。チアボーイ&チアガールが登場した「新宝島」の後、山口は「ただいま! 素晴らしいアーティストが集まってます。みんな朝まで楽しみましょう!」とミュージックラバーの顔を見せ、ステージ真ん中でポーズを決めた。「忘れられないの」だ。ビジョンには砂浜で風に揺れる木々が映り、フロアには「ずっと ずっと」と歌いながら両手を左右に揺らすオーディエンスの姿。サマソニのオーディエンスにも完全復活を見せつけた。(小松)

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【Young Fathers】21:20~22:20

海外勢の一番手はSONIC STAGEのヤング・ファーザーズ。彼らは「とにかくライブがすごい!」との噂を聞いていたが、確かにその前評判に違わぬ強烈さだった。何よりも圧倒的だったのは、オーディエンスをズブズブとグルーヴの沼にハメていくような、恐ろしいほどにドス黒いサウンド。ビートは、ズンッ、ドスッ、といった感じで軽快に跳ねる様子は皆無であるものの、むしろその糸を引くほど粘り気のある演奏が気持ちいい。そしてそんな真っ黒なビートにラップとも歌ともポエトリーリーディングともつかない、エキセントリックな多声ボーカルが絡んでくると、まるで秘境でおこなわれている儀式に迷い込んだような、妖しく、混沌としたエネルギーが立ち上がってくる。まだまだ序盤の時間帯ながらも、恐ろしくディープなステージだった。(小林)

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【Arca】21:30~22:30

ヤング・ファーザーズに後ろ髪を引かれながらも、PACIFIC STAGEのアルカに移動。ステージは随所に花が飾られており、チェーンの振り子とレザーの座面で出来たブランコも用意されている。そしてアルカはボンテージを黒い羽根で装飾した妖艶な衣装。この時点で既に彼女の世界観が全開だ。もちろん展開されるサウンドはエクストリームでエクスペリメンタル。だがアルカは「Time」でバズーカのようなスモーク砲を持ち出して観客を沸かせたり、フロアまで降りてオーディエンスと触れ合ったり、かわいらしい声で「アリガトウ、ダイスキ」と何度も繰り返したり、その立ち振る舞いは先鋭的なプロデューサーというよりポップスターのそれである。言わば彼女のステージは超オルタナティブなポップコンサート。まさに唯一無二、彼女にしか創出できない稀有な空間を生み出していた。(小林)

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【Underworld】22:20~23:40

続いてはMOUNTAIN STAGEのアンダーワールド。今や彼ら2人も60代半ば、流石に老成していてもおかしくない。だが、この日の彼らはそんな様子を微塵も感じさせないステージだった。初っ端は日本でも人気が高い「Two Month Off」の軽快なグルーヴでオーディエンスを引きつけると、その後はひたすらハード&アグレッシブに駆け抜けていく。最近の新曲群はまるで30年若返ったようなダンストラックばかりだということは別記事でも書いたが、そのモードがライブでも通底しているように感じた。ハウシーでロマンティックな「Rez / Cowgirl」をやらず(無論ライブでは定番の人気曲)、その代わりにドラムンベースのフィールを取り入れたアグレッシブな「Pearls Girl」のバージョン違い2つを敢えてやってみせたところにも、今の彼らの志向が滲み出ていたように思える。

ラストの「Born Slippy (NUXX)」は予定調和と言われればその通り。だが、今の自分たちのモードを貫きつつ、ファンの要望にも応えるのがビッグアクトの役割。最後は誰もが待ち侘びていたあの荘厳なシンセの祝祭感でMOUNTAIN STAGEを包み込み、圧倒的なカタルシスをフロアにもたらした。(小林)

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【長谷川白紙】23:05~23:45

PACIFIC STAGEに「長谷川白紙です。よろしくお願いします」という声が響き、フライング・ロータス率いるレーベル、Brainfeederと契約後初のアルバムとなる『魔法学校』をリリースしたばかりの長谷川白紙が登場。「Uin v1.0.01」からライブをスタート。PACIFIC STAGEを一気にビートの洪水に埋没させる。『魔法学校』のオープニングを飾る「行っちゃった」ではどこか牧歌的なボーカルと硬質なビートが乱れ打ちされるブレイクビーツをマッチングさせ、時空を歪ませる。複数の機材を操りながら、ハンドマイク姿で美しい歌を聞かせたかと思ったら、体をくるくると回転させて踊ったり、アグレッシブに体をよじらせたりと、目と耳を飽きさせないパフォーマンスを展開した。(小松)

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【Phoenix】23:20~24:30

アンダーワールドが終わってSONIC STAGEに移動すると、既にフェニックスのライブが始まっている。まず目を引いたのは映像の演出だ。バックスクリーンの外周が前方にせり出していて、サポートのドラムとキーボードはその外周の上で演奏。フェニックスの4人は横一列に並び、せり出したスクリーンの外周より前に立っている。その状態でスクリーンに映像が投射されると、立体的な奥行きを持った映像の中にバンドが半分入り込んでいるように見える。来日直前インタビューでトマが語っていた、最新ライブは「ミニシアターのような体験」というのはこのことを指しているのだろう。しかも1曲ごとに映像のコンセプトが明確に異なるため、まるで短編映画の連続上映を観ているような感覚にもなった。

だがもちろん、素晴らしいのは映像演出だけではない。彼らの演奏は相変わらずシャープでソリッド。音だけを聴けばフレッシュな若手バンドと言われても疑わないくらい、音のエッジが立っている。演奏の間合いにはベテランならではの阿吽の呼吸を感じさせつつも、いつまで経っても変わらずに瑞々しい。こんな絶妙なバランスを保てているバンドは意外と少ないのではないだろうか。セットリストはオールタイムベスト的にキャリアを網羅した内容で、最後はやはり大ヒット曲の「1901」。SONIC STAGEの後方まで「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ!」の大合唱が巻き起こり、大団円で幕を閉じた。(小林)

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【Victoria(Måneskin)】24:10~25:00

息をつく暇もなく、今度はPACIFIC STAGEへと駆け込む。バキバキのテクノを爆音でプレイしているのは、翌日からのサマーソニックでヘッドライナーを務めるマネスキンのベーシスト、ヴィクトリアだ。いわゆるハードテクノは硬派で男性的なイメージもあるが、彼女はそこにバイレファンキも織り交ぜながら、アッパーかつセクシーなセットを聴かせる。DJが好き、パーティが好き、というヴィクトリアの思いが音に乗って届いてくるような楽しさにも好感が持てる。そしてなんと後半にはマネスキンのギタリスト、トーマスがサプライズ登場。ヴィクトリアがプレイするテクノにギターソロを被せるというまさかのコラボを披露し、ソニックマニアならではの贅沢過ぎる共演でファンを歓喜に導いた。(小林)

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【Major Lazor】24:30~25:40

今度は会場を端から端まで移動して、MOUNTAIN STAGEのメジャー・レイザーに。トゥワークなどの腰振りダンスをしまくる女性ダンサーたち、観客をガンガン煽るエイプ・ドラムスとウォルシー・ファイア、そして黙々と音を操るディプロという布陣。レゲトンあり、ラップあり、ウォブリーなEDMあり、ひたすらブリブリ、とにかく猥雑で楽しい、頭を空っぽにして楽しみたいベースミュージック祭りだ。しかしサウンドのクオリティは流石、安心のディプロ印。全体の流れの作り方、会場の空気の持っていき方が抜群に上手い。旬のヒット曲であるミーガン・ジ・スタリオン「Mamushi (feat. Yuki Chiba)」や自身の代表曲「Lean On」なども挟みながら、フロアを自在に操る手腕は圧巻だ。「世界で最も稼いでいるDJ」トップ10に何度も入っている実力は伊達じゃない。この夜で随一の、底抜けに楽しいパーティミュージックを骨の髄まで堪能した。(小林)

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【坂本慎太郎】25:10~24:10

SONIC STAGEのフロアのあちこちから男性の「慎太郎!」という声が聞こえる中、まず「死者より」を演奏した坂本慎太郎。もったりとした酩酊感溢れるグルーヴが場内を包み込む。「まともがわからない」であらゆる境界線を漂白した後は、西内徹のマラカスの音が享楽性を滲ませる「あなたもロボットになれる」。「愛のふとさ」ではメッセが蛍のようにも未確認飛行物体のようにも見える無数のパープルのライトで彩られた。隙間の多いミニマルな音なのにいとも簡単にオーディエンスを踊らせてしまうのがやはりすごい。「物語のように」「君はそう決めた」「ディスコって」と、甘美なメロディでディストピアとユートピアが交錯するような世界を描いた後、「ナマで踊ろう」ではバンドアンサンブルに坂本がゴリゴリのギターノイズを混ぜ込み、オーディエンスを圧倒した。(小松)

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【Nia Archives】25:30~26:30

海外勢の最後はPACIFIC STAGEのニア・アーカイヴス。本人も言っていたように、彼女のステージはまさに「DJとライブのハイブリッド」。前半はDJセットで幕を開け、時間が1/3ほど過ぎたあたりから自身がマイクを持って歌うライブパフォーマンスの時間に。そして終盤は再びDJセットに戻ってくるという流れだ。DJであれライブであれ、ニアはとにかく楽しそうにパフォーマンスをする。DJをしながら頭をブンブンと振り、両手を高く突き上げながら踊っている様子を見ていると、彼女が心の底からジャングル、ドラムンベースを愛していることが伝わってくるだろう。彼女の曲には内省的なところもあるが、ステージではとことん陽性だ。そしてライブパフォーマンスのときはただマイクを持つだけではなく、DJ機材の前に出てきて、ポップシンガーのようにステージを歩き回りながら歌う。アンダーグラウンドのDJカルチャーに出自を持ちながらも、ポップスター的な振る舞いをすることに屈託がないところが新世代的に感じられた。

今年4月にアルバムを出して以前よりもライブパートが増えたので、必然的にDJパートは短くなっている。だがその限られた時間の中でも、グウェン・ステファニ「Hollaback Girl」、チャーリーXCX「360」、ソフィー・エリス・ベクスター「Murder on the Dancefloor」など、多彩なガールズアンセムのエディットを次々に投下するというサービス精神の旺盛さも見せてくれた。そうした姿勢も関係しているのだろう、彼女のステージは一貫して本格的なジャングルのビートが鳴り響いているのに、どこかポップな魅力も放っている。おそらくこの夜のオーディエンスはジャングルのパーティは未経験という人も多かったと思うが、そんな人たちも巻き込んで盛り上げられる間口の広さがそこにはあった。

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【Young Coco〜Jin Dogg〜千葉雄喜 -Shot Live-】26:20〜27:20

真夜中のMONTAIN STAGE、Young Cocoからバトンを渡されたJin Doggが「俺たち何?」とオーディエンスに問いかけると広大なフロアから一斉に「チーム友達!」という声が轟いた。そもそも「チーム友達」とはJin Doggがリリック内で多用していたフレーズなわけだが、言わばオリジンと言えるJin Doggが契りの言葉を発する中、LEDビジョンにはチーム友達の証である「TEAM TOMODACHI」のペンダントトップが映し出される。Young Cocoが再登場し、二人で「関西関東 西東、北南/チーム友達 チーム友達」とスピットした後、Jin Doggが「これで終わりじゃないぞ!」とシャウトし、千葉雄喜が数十人の友達を引き連れてステージに登場。先ほどPACIFIC STAGEでパフォーマンスをしたアルカの姿も見える。千葉雄喜の指示で、数万のスマホライトが光る中、「契ろう!」という言葉が轟く光景は圧巻だった。

Young Coco (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

Jin Dogg (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

千葉雄喜 (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

千葉雄喜 (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

【cero】26:40~27:30

高城晶平が「こんばんはceroです」と言って鳴らされたのは「Summer Soul」。メッセの外で吹きすさぶ雨風からオーディエンスを守るかのような親密さと密やかさが漂う中、高城のウィスパー気味の歌がじんわりと広がっていく。高城のフルートの調べが涼し気に響き、ラップ調の歌がチルなムードが醸成する。高城が手を掲げて「Summer Soul...Summer Soul...」とリピートするとフロアからたくさんの手が上がった。「やがてすぐ 雨はどこかへ消えて/見たことない夕暮れに」。この後、さらに素晴らしい体験が待っているかのような歌詞を乗せたグルーヴにオーディエンスが心地よさそうに体を揺らす。何かに追い立てられるように性急に進行するアンサンブルと凄みを感じさせる呟き調の高城の歌──「マイ・ロスト・シティー」だ。何度も繰り返される「ダンスをとめるな!」というフレーズに呼応するようにオーディエンスは楽しそうに踊った。

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【牛尾憲輔 (OST Dance Set)】28:20~29:00

トリとしてPACIFIC STAGEに登場したのは牛尾憲輔。実際のアニメーションの映像をビジョンに流しながら「チェンソーマン」「デビルマン」「ダンダダン」「聲の形」「ピンポン」といった人気アニメの楽曲を流し、躍らせながらも目をビジョンに釘付けにするというスペシャルなパフォーマンスが展開され、今年のソニックマニアは終演を迎えた。

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