気候変動問題が深刻化する昨今、脱炭素型のライフスタイルへの転換のため、学校教育などで省エネ行動を社会規範として定着させる省エネ教育の必要性が高まっている。

東京ガス都市生活研究所と住環境計画研究所が開発した教育プログラム「サステナッジ教育」の指導者養成講座が8月22日、東京家政大学の板橋キャンパスで行われた。

「サステナッジ教育」とは、どのような教育プログラムなのか。その実施に必要な「教員向け研修会」の様子などを取材した。

■行動科学の先進的な知見を取り入れた環境授業

「サステナッジ教育」は環境省委託事業の一環として、東京ガス都市生活研究所と住環境計画研究所が開発した環境教育プログラム。小中高等学校の教育現場で容易に導入できる省エネ教育プログラムとして開発されたもので、環境省の実証事業を経て、2023年度より自治体での社会実装が開始された。

「サステナッジ教育」では1回45〜50分の授業が全6回、6週間にわたって実施される。 児童・生徒が自発的に取り組む構成で、6段階の授業ステップの中で家庭内の電気・ガス・水道メーターからそれぞれの使用量の測り方を学び、メーターの数値や実践した省エネ行動などを記録。“ナッジ”など行動科学の先進的な知見をふんだんに取り入れることで、省エネ行動実践率の向上と行動の持続を促す。

2017~2020年度に行われた実証には、全国の小中高等学校など43校、約1万名の児童・生徒が参加。家庭での電気・ガスの使用に伴うCO2排出量を5.1%削減される効果や、受講した児童・生徒の省エネ行動実践率が21%向上し、省エネ行動を実践した生徒のうち95%が半年後・1年後も継続するといった効果が確認されたという。

この「サステナッジ教育」の指導を行う上で必要となるのがサステナッジ教育の指導者資格で、東京ガス都市生活研究所では「サステナッジ教育」の指導者養成講座を実施。本講座を受講した教員は、東京ガス都市生活研究所によりサステナッジ教育の指導者に認定され、昨年度は神奈川県秦野市公立小学校などの教員24名が本講座を受講した。

8月22日に行われた今年度の「サステナッジ教育」の指導者養成講座には、同市市内の公立小学校の13名の教員が受講者として研修を受けた。

■家庭・保護者への波及効果も高い

「ナッジ」は個々人の選択の自由を尊重しながら、選択を禁じたり、経済的なインセンティブを変えたりせず、選択肢の設計や初期設定を変えることで人々に望ましい選択を促す行動経済学の用語・理論。

16の省エネ行動を紹介・推奨する「サスナッジ教育」では簡単に剥がせる「省エネ行動シール」や各種取り組みの記録シートを活用。行動を具体的にイメージさせることで省エネ行動を喚起し、家電などの初期設定を変更することで、省エネ行動の実践を継続しやすくする工夫を盛り込み、コミットメント効果を高めている。

「サスナッジ教育」の導入初年度となった2023年度、秦野市では小学校3校・中学校1校の計445名の児童・生徒に、昭島市では小学校3校の計205名の児童にサステナッジ教育を実施。秦野市では81.7t、昭島市では37.6tのCO2削減効果を得たとされる。

秦野市は2021年11月に秦野ガス・東京ガスと相互に連携し、脱炭素社会に関する知見や技術を活用してカーボンニュートラルシティの実現を目指す「カーボンニュートラルのまちづくりに向けた包括連携協定」を締結。

昨年度より「サステナッジ教育」の導入を開始し、今年度は「指導者養成講座」を受講した教員が9月~12月頃、児童に本プログラムの授業を行う予定だ。

昨年度、秦野市で環境問題の関心があると回答した小中学生は、サステナッジ教育の前後で17%向上して79.4%に。普段の省エネ行動の実践に関する質問には19.2%の向上が見られたそうだ。

また、サステナッジ教育を受けた小中学生の保護者の87.3%が、本プログラムを通じた取り組みが省エネ行動のきっかけになったと回答。家庭・保護者への波及効果の大きさも本プログラムの特徴のようだ。

■体験学習で実践的な省エネ行動を学ぶ

普段の生活を振り返りながら省エネ行動を実践してもらうため、「サステナッジ教育」では座学に加え、4回目の授業では選択型の体験学習も用意。ガスのエコな使い方を体感する「エコ・クッキング」や、「省エネ行動トランプ」といった教材を用いる授業など、4つの体験学習のメニューから選択して実施される。

指導者養成講座・教員向け研修は10時から17時までの終日研修で、今回公開されたのは4つの体験学習のメニューのうち、「節電」「節水」の実験に関する授業の進め方などに関する講座。

上手な食器洗浄方法を体験し、水やお湯、洗剤を上手に使う方法を体感する「節水実験」は、通常500ミリの水を使う皿洗いを、200ミリ程の水で済ませる方法を紹介するというもの。油汚れをあらかじめ古布で拭き取り、水を溜めた洗い桶と水で薄めた1:1で希釈した洗浄液を使う。

身近な家電製品の電力消費量を計測することで節電対策について体感する「節電実験」では、消費電力測定器・ワットチェッカーを使ってドライヤーの消費電力を測るというもの。ドライヤーは温風と冷風で10倍ほど消費電力に差があり、熱を生み出すための消費電力の大きさを学ぶ。

今年度から「サステナッジ教育」を導入する渋沢小学校で4年生のクラスを受け持つ高島圭太朗教諭は、「毎週メーターから電気などの使用量を記録していくことで、子どもたちの目に見えるかたちで変化が現れるので、継続してもらいやすそうです。授業で学んだことを家に持ち帰り、保護者の方々などに話してもらうことで、どんどん周りを巻き込んで環境問題に取り組んでもらうことが大切な授業と感じました」と話す。

実際の授業の進め方などを聞き、子どもたち自身が興味を持って能動的に取り組みやすい授業といった印象を抱いたようだ。

「自分のクラスの子たちのことを想像しながらお話を聞いていたんですが、教材や実験の内容もバリエーションが豊富なので、楽しんで授業を受けてくれると思います」

今年度、秦野市では渋沢小学校を含む市内の小学校3校にて「サステナッジ教育」を実施予定。昭島市の武蔵野小学校でも東京ガス都市生活研究所の講師による授業を実施予定だという。